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第10話「青き月光」

「俺たちのよく行く遊び場に連れてってやるよ。」

 エルトと仲直りをし、ヒナは3人で昼食をとり、午後も村の子どもたちと遊ぶことになった。

「おーい、エルト、イア―」赤い服の少年が広場で手を振っている。隣には、青い服の少年、そのまた隣には緑の服の少年がいる。ヒナたちは彼らの前にたどり着いた。

 今度は、午前とメンバーが少し違う。午前中はイア以外の子どもたちは小さい子供ばかりだった。午後はエルトと約束をしていた子どもたちがいたようで、イアやエルトと背丈が変わらない子どもたちばかりだった。ヒナを除くと5名の子どもが集まる。そのすべてがヒナよりも背が高かった。

「なんだこの子。エルトの親戚か?」緑の服の子どもがヒナを見て言う。

「いや、セレスさんが連れてきたみたいだ。」エルトが答えると、赤い服の子どもが目を輝かせた。

「セレスさん来てるのか?!剣の修行付き合ってほしいんだよなあ!ねえ君、セレスさんはどこにいるの?」

 赤い服の子どもに突然話しかけられ、ヒナは驚いて間が遅れてしまう。その姿はおびえているようになってしまう。イアが赤い服の子どもをたしなめる。

「もう!デレ、ヒナが怖がってるでしょ!」

「え、あ、ごめん!」デレと呼ばれた赤い服の子どもは、ヒナにすぐ頭を下げた。

「だ、大丈夫だよ!怖がってないから。」ヒナは慌てて話しかけた。デレは頭を上げて笑った。エルトがヒナに3人を紹介し始めた。

「赤いのがデレ、青いのがエウルブ、緑はネルグだ。」雑な紹介にイアが笑った。ヒナもつられて笑ってしまう。

「なんだよその紹介の仕方!ていうか自己紹介くらいできるよ!」ネルグが怒ってエルトに食ってかかる。しかしイアとヒナが見ていることを思い出し、恥ずかしそうに顔を真っ赤にした。

「面白いやつらだろ?俺とイアを含めたこの5人が、あお…」エルトが何かを言いかけたとき、イアがエルトにげんこつをお見舞いした。

「それは秘密でしょ!こんな広場で言ってどうするのよ!」

「いってえ…」エルトは頭をさするが、続きを言うのをやめたようだ。デレが驚いた表情でイアに聞いた。

「え、イアもしかして、あの場所教えちゃうの?」

「うん。そのつもり。」イアは即答する。ヒナは自分以外の全員が何か自分の知らないことを知っていることに気づいた。

(あお…?場所…?広場では言えないこと…。もしかして…)

 ヒナは気づいたことをイアに聞いてみた。

「もしかして、5人は秘密の組織の人なの?」そう言った瞬間、ずっと黙っていたエウルブが目を見開き、手に持った木の枝をヒナに向けた。

「どこの手の者だ!僕たちが『青き月光』の者と知っているなんて!…あ」数瞬遅れて、ヒナが『青き月光』という言葉を知らないということに気づき固まる。ヒナは木の枝をつんつんとつついた。エルトは手を額に当て、イアはため息をついた。

「エウルブ…あんた…。」

 エウルブはネルグと同じように顔を真っ赤にしてしまった。そんな二人をよそにデレが一歩前に出た。

「こんなところで話すのもなんだし、そろそろ行こうよ。この子も連れて行くんでしょ」

「そうね。行こ、ヒナ!」

 ヒナはイアに連れられ、広場の南に向かって歩き始め、後ろからエルトがエウルブとネルグを連れて追いかけた。


 + + + + +


 レイトノルフ村には、入り口が一つしかない。それ以外は木の柵で囲まれている。それはヒナとセレスが初めに通った北の門だ。今、6人はその反対側、南側にいる。村の南側は、住宅街を外れ、農場がほとんどだ。その中に小さな林がある。イアたちは林の入り口にたどり着いた。

「この先に、私たちの遊び場があるの。」イアがそう言うと、エルトが不機嫌そうに言う。

「遊び場じゃなくてアジトだ!」

「…アジト?ああ、青き月光の?」ヒナは首をひねるがすぐにエウルブの言っていたことを思い出した。

「そうだ!それは秘密のアジトなんだ!」エウルブが自慢げに叫んだ。エルトが慌ててエウルブの口をふさぐ。

「なんでもいいわよ、行きましょ」イアはわちゃわちゃしている男子をおいてヒナとともに林の奥に進んだ。

 しばらく歩くと、小さな広場にたどり着いた。しかし、そこには、ヒナが想像していたアジトのようなものは存在しなかった。

「なんにもないよ?」

「ふふ、まあまあ。エルト、よろしく!」

 イアが意味深に笑い、エルトに声をかけると、エルトはニヤッと笑い、広場の中心に立った。ヒナには何が始まるのかわからなかった。エルトはしゃがみ、両手を地面に置く。

『デネポ・エブオト・ツナウ・スロティレフニ』

 聞いたことのない言語。ヒナはその意味は分からなかった。困惑していると、少しして、エルトの前の地面から何かが出てきた。それが扉だと気づくまでにヒナは数秒かかってしまった。

「すごいでしょ?何かはよくわからないんだけど、これが私たちのあそ…アジトよ!」イアが自慢げにヒナに言う。ヒナは初めて見る不思議な光景に目を輝かせた。

「すごい!エルトは今何をしたの?!」

「うーん、よくわからないんだよな、実は。とりあえず中に入ろうぜ。」6人は扉を開け、中に入っていった。

 中に入ると、そこは普通の木造の小屋の中だった。一つ普通の小屋との違いを言うのであれば、窓がないくらいであった。

「さっきは扉しかなかったのに…。」ヒナは中に入ってさらに驚いた表情をした。イアたちは小屋の中心にある机の周りに並ぶ椅子に各自腰かけた。

中心に座ったエルトは真剣な表情で話し始める。

「よし、それでは、『青き月光』第322回目の会議を始める。…ヒナ、こっちに。」ぽけーっとしていたヒナは突然エルトに呼ばれ、慌ててエルトの隣に行く。

「今日の議題は、6人目のメンバーについてだ。俺は彼女をスカウトしようと思う。」

「えっ?!」イアを除く全員が驚いていたが、一番驚きを隠せていないのはヒナだった。デレが手をあげる。

「え、エルト!6人目だよ?!」その言葉にネルグとエウルブも同調する。

「『継承の書』にも6人目は重要だって書いてたじゃないか!」ネルグが言う。ヒナはわからない状況にわからない話をされ余計混乱してしまう。

「ああ。でも彼女は適任だと思う。6人目として、この国を守るためにいてええええ!」エルトが何かを決心したような表情で熱弁していたが、途中でイアのげんこつが彼を襲った。

「あのね!ヒナは今いろいろ聞いて混乱してるのに、話を進めないの!…ごめんねヒナ。」

「う、ううん。大丈夫だよ。」ヒナが答えると、イアがヒナに説明するために話し始めた。

「3年前、だったかな。エルトが家の倉庫から、ある本を見つけてきたの。」そう言うと、イアは本棚の中から、古びた青い本を持って机に置いた。表紙には『継承の書』と書いてある。

「本の名前は、『継承の書』って読むらしいわ。エルト曰く、だけどね。これ、エルトにしか読めないの。開いてみて。」

 ヒナは促されるままに本を開く。適当に開くと、小さな文字が手書きで書かれていた。ヒナは無意識に書かれている文章を読み上げた。

「だい…二章…?青き…月光…」すると、エルトが驚いてガタっと音を立てて立ち上がった。

「何だって?!ヒナお前、まさか読めるのか?!この字が!?」

「え、う、うん…。」ヒナは周りを見渡す。イアたちも驚いているようだった。

「驚いたわ、そこまでは考えてなかった。ヒナも読めるのね。」

「イアは読めないの?」

「うん。私どころか、デレも、エウルブも、ネルグも読めないわ。実際に見せたわけではないけど、村の大人も誰も読めないと思う。これはエルトにしか読めないのよ。」

 イアが目を見開きながらも自分を落ち着けようとする。エルトが代わりに話をつづけた。

「この本を俺は読むことができる。でも、この言語は知らないんだ。なんとなく読めるだけだ。ヒナはこの言語、知っているのか?」

「ううん、知らないわ。私もなんとなく意味が分かる…感じかな。」

「そうか。じゃあ同じなんだな。」エルトは少し安心したような表情で息をついた。デレは立ち上がり、ヒナに駆け寄った。

「やっぱり、ヒナは6人目にふさわしいのかな!」

「6人目?」聞き返すと、イアが代わりにヒナに教えた。

「この『青き月光』は、昔何かのレジスタンスだったみたい。で、眠っていたこの家と本を私たちが見つけたってわけ。基本的にはその本を頼りに色々してきた…まあ遊びでね。で、エルト曰くその本に、初期メンバーは5人にすべしって書いてあるらしいのよ。そして、迎え入れる6人目の人間が重要な人材であるとも書いてるみたい。」

 ヒナはイアの言葉に困惑する。自分がまるで予言のようにここにきて、そして読めないはずの言葉を読め、重要な人材となる6人目のメンバーであるなんて。

(そもそも何と戦うのかもわからないのに…?)ヒナは困惑を通り越して不安が増す。しかし、エルトが突然笑い出したことで、ヒナの中の重苦しい感情は吹き飛んだ。

「ま、ここに書いてあることは神話みたいなもんだよ。この地域では、6って数字が神聖なものって言われてるんだ。この本もきっとそんな物語を思いついた魔法使いかなんかが書いたんだろうな。俺たちはこのアジトと本を使ってこの村で刺激的に過ごしてる、それだけさ。」

 イアはエルトの言葉にのっかり、ヒナの頭をなでた。

「ヒナがその本を読めたのはびっくりしたけど、結局は私たち5人は仲良し5人組ってこと。その中にヒナも入ってほしいんだけど、いいかな。」ヒナは二人の顔を見て、デレの表情も見る。三人とも笑顔だ。そして椅子に座っているエウルブとネルグの顔も見る。二人もどうやらヒナを歓迎するつもりになったようだ。ヒナは少しの間目を閉じ、5人に向き直って目を開いた。

「うん、よろしくね。」



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