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【番外編】王子と婚約者の往復書簡

留学している王子と婚約者の往復書簡です。

当事者ではない人から見たら、こんなものなのかも。

ちょっと呑気な婚約者と王子の話です。

敬愛する殿下

 卒業まで半年という今日、編入生がありましたのよ。

 なんでも、平民として一緒に暮らしていた母親が亡くなったので、父親の男爵に引き取られたという事です。今迄、平民として暮らしてきたからか、言動がとっても、面白いんですの。けれど、あまりにも非常識な言動を取られるので、注意したところ、「虐められた」と泣かれてしまいました。キツく申し上げたつもりはないのですが、、、反省しております。嫌われてしまったかしら。

 

愛する婚約者殿

 平民から貴族になった場合、マナーなど、いろいろ大変だと聞く。私の代理として、その男爵令嬢が学園に馴染めるように、力になってあげて欲しい。

 貴女は身分も高く、私の婚約者だから、普通に注意しても、人によっては「虐められた」と思うかもしれないね。貴女が意地悪で言ったのでないことは、皆が知っているのだから、あまり気にしないように。そのうち、その令嬢もわかってくれるよ。



敬愛する殿下

 王宮騎士団団長の御子息、覚えていらっしゃいますか?あの、小さい頃、殿下の剣の練習相手をなさっていた方。男爵令嬢は騎士団団長の御子息のことが好きなようです。いつも、お名前を呼んで腕に抱きついたりしていましたから。

 私、そう思っていたのですが、違ったようです。本当は宰相の御子息のことが好きなようです。いつも、図書室で勉強を見てもらっているようですの。でも、御子息には婚約者がいて。どうなってしまうのかしら?と思っていたのですが、いつのまにか、勉強会に参加しなくなっていました。婚約者がおられるので、諦めたのかしら?


愛する婚約者殿

 気の多い女性だね。団長の子息に振られてから、そんなに経ってないだろうに、宰相の子息を好きになって。また、違う人を好きになるのかな?

 貴女は、いつまでも、私だけを愛してくださいね。



敬愛する殿下

 今日、あの男爵令嬢に殿下はどうなさっているのかと聞かれましたの。それで、ご遊学なさっているとお答えしたところ、「どういうこと!聞いてない!」と大きな声を出されたので、驚いてしまいました。川向こうの人に話しかける訳でもないのに、どうして、あのような大きな声を出されたのでしょう。耳がキンキンしてしまいましたわ。今は治ってます。


愛する婚約者殿

 耳が大変だったね。私の声を貴女に聞いてもらえなくなるところだった。

 私の留学は広く国民に知らされていたと思っていたのだが、、、

 今回は私の留学という、国民生活にあまり関係のない事柄だったから、良かったけれど、これが法律の施行など、生活に直結する事だと大変だ。

 宰相に国民に知らせる方法を再考するよう、手紙を書くよ。教えてくれて、ありがとう。



敬愛する殿下

 今日は、あと少しになった殿下のご遊学が、最後まで実りあるものになるように、蛸壺に喜捨して参りましたの。


愛する婚約者殿

 あの侯爵嫡男の蛸壺か。あれは霊験あらたかだからね。残り少ない私の留学が更に実りあるものになるはずだよ。ありがとう。

 私も、貴女の残り少ない学園生活が楽しいものになるよう、願っているよ。



敬愛する殿下

 私、とんでもない勘違いをしていたようですの。あの、男爵令嬢は、騎士団団長の御子息や宰相の御子息のことが好きなのではなかったようですわ。

 お芝居の練習をしていたようです。何故、それが分かったかと申しますと、エレオノーラ様、あのランドルトン公爵の御嫡男、アントン子爵の婚約者の方ですわ、の前で一人で転けた後、「申し訳ありません。男爵の息女の私が悪いんです!目の前にいたんですもの、躓かされても、仕方ありませんわ!」と言って、泣きながら走り去ってしまいましたの。

 私も友人もその方が一人で転けたのを見ています。なのに、「躓かされた」とは?と悩んでしまいました。が、お芝居の練習なら、納得がいきます。

 先日のエレオノーラ様がベンチで思索なさっていたところに水の入ったバケツをひっくり返して、エレオノーラ様はお足元が濡れてしまった出来事も、これで説明が付きます。お芝居の練習だったのです!掃除は掃除の者がいるし、花壇もないので、お花に水をやる訳でもありません。何で、そんな物を持って歩いていたのか、わからなかったのですが、これも、お芝居の練習だったのでしょう。エレオノーラ様は男爵令嬢のお芝居の練習に付き合ったおられたのです。

 しかし、今日のエレオノーラ様にコーヒーをかけるお芝居の練習は、やり過ぎのような気もいたしますわ。エレオノーラ様、今日のマナー講座の昼餐には、コーヒーのシミのついた制服で参加なさってました。でも、昼餐のあと、気分が優れないと仰って、早退なさいました。やはり、やりすぎなのでは?と思ったのですが、お帰りになる時、「制服が汚れたから、昼餐出れないかと思ったわ。出れて良かった。おいしかった」と独り言が聞こえましたの。私はやり過ぎと思ったのですが、本人達が納得しているのなら、構わないのでしょう。

 私も協力を要請されれば、快く承知したいと思います。


愛する婚約者殿

 未来の大女優かもしれないね。しかし、役者の地位が向上してきたと言っても、息女が女優になるなど、父親である男爵は承知しているのだろうか?もし、反対しているのなら、私も説得に力をかすつもりだ。

 貴女の卒業式には間に合いそうだ。卒業パーティーで、貴女をエスコートする役を他の男に譲るなんて、考えられない。早く、貴女に会いたい。



 卒業パーティーには殿下も出席され、みな、楽しそうでした。でも、あの男爵令嬢が見当たりません。

「未来の大女優は、見当たらないね。どうしたんだろうね。」

「ええ、どうなさったのでしょう。」

 ドタドタとあの男爵令嬢が会場にいらっしゃいました。主役の登場です。すごい格好をなさってますが、お芝居の衣装なのでしょう。公爵の御嫡男と何かやりとりしています。彼も、お芝居に協力しているのでしょう。少し、羨ましい気がします。私も、端役でいいので、お芝居に参加したかったです。

 突然、ある男性が令嬢の頭を上から押さえつけました。大変!暴漢だわ!警備の騎士は何をしているのでしょう。

 その時「父ちゃん、ひどい!」と男爵令嬢の声が!あの暴漢はお芝居だったようです。「侯爵嫡男が、手紙を出して」と言っています。侯爵の御嫡男の態度を見ると、どうやら本当のお父様のようです。お父様もお芝居に参加なさっているということは、お父様も彼女が女優を目指しているのをご承知なのでしょう。

「父親の男爵も息女の女優を応援しているようだね。一緒に芝居をするくらいだから。すごい熱演だったね。親子揃って芝居が上手だね。もしかしたら、父親も役者になりたかったのかも知れないね。それで理解があるのかも。しかし、何の芝居だったんだろうね。」

と、殿下が仰います。

「ええ、本当に上手でしたわ。アントン子爵も本当にお上手で。しかし、何のお芝居だったんでしょうね。」

 

 その後、あの男爵令嬢と話す機会など、当然あるわけもなく、結局、あれが何のお芝居だったのか、分からずじまいです。

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