少女が目を覚ましたようです。
「きゃっ。」
少女の悲鳴が聞こえ、慌てて飛び起きる俺。眼球高速運動睡眠の真っ最中だったようで、特に不快感はない。
「どうした?何かあったのか?」
「危機が迫っているのなら、急いで回避せねば。」と、思ったのだが、
「き、君は何者だ?」
「あ?俺?」
どうやら危険は俺だったらしい。
「他にいないだろう。何故私の隣で寝ている?それにここは何処だ?一体私に何があったのだ?」
「あぁ~待て待て落ち着け、順番に説明するから。」
現状に慌てる少女を落ち着かせ、昨日あったことの説明を始める俺。
「先ず、俺は二次太陽、無職だ。村を飛び出して、今はサバイバル生活を余儀なくされている。そして昨日、森で倒れている君を見つけて連れ帰り、傷の手当てをして眠りに就いて今に至る、というわけだ。」
しばらく思案した後、一人で納得する少女。
「取り乱してしまってすまない。私はナグリー・ヴァット・スカーレット。ナグリーでいい。兵に追われて気絶しているところを君が助けてくれたのだな。どうもありがとう。しかも丁寧に傷の手当まで・・・、ん?傷の手当?」
さらっと流せたつもりだったが、気付いてしまったようだ。
「き、貴様、まさか私の服の中を。」
「あぁ、しかと目に焼き付けた。綺麗だったぜ。理性を抑えるのが大変だった。」
「なっ。」
顔を真っ赤にし、こちらを睨みつける少女。しかしすぐに思い直したようで、
「否、取り乱してしまってすまない。命を助けられ、傷の手当までしてもらったのだから、そのくらい許容できねばな。それに手は出されていないようだし、本当に重ね重ねありがとう。」
と言ってくれた。
「物分かりが良すぎる気がするが、まぁ話が早くて助かる。取り敢えず飯にしようぜ。体の回復に使った分の栄養を取り戻さないとな。」
「世話になってしまってすまないな。しかし、朝食と言っても何を食べるのだ?」
聞かれた俺は、食料を覆っていた木の葉を取っ払う。
「おぉ、すごい量だな。これは全部君が?」
「その通ぉり。タンパク質に脂質、無機質にビタミン、人間の健康維持に必要な栄養素はほとんど揃ってる。魔水晶で冷蔵してるから保存もばっちり。炭水化物のことは聞くんじゃねぇ、心が折れる。」
「?、よく分からんが、魔力の籠っているものばかりということは、ここは魔生物のみが住む森で、君は相当な手練れだということだな。」
「フフフ、トレーニングは最強のソリューションだぜ。」
魔力が無いので過剰評価な気はするが、褒められて悪い気はしない。
朝食を食べ終わった俺は少女に問いかける。
「なぁ、お前帰り道って分かるのか?」
「帰り道は魔力を使えば何となくはわかる。」
「そうか、なら送っていくよ。何ができるという訳でもないが、一人より安全だろう。」
「何から何まですまない。では代わりに私が帰った後、私と我が家の護衛達とで二次を村まで送ろう。」
「太陽でいいよ。村までの送りは要らない。」
「何故だ?つまらない意地を張っていないで村に帰った方が良いと思うが。」
「あぁ~、村を飛び出したっていうのは、追い出されたからなんだ。職を見つけるまで帰ってくるなとさ。」
「そ、そうだったのか。まぁ確かに働くことは大切なことではあるが、しかしサバイバル生活を続けるというのも・・・。そもそも君は何故無職なんだ?病弱どころか、魔獣を倒せる力があるなら普通に働けると思うのだが。」
「さぁな。俺もよく分からん。ただ、自分の働く姿を想像すると、どうにも嫌になってな。ずっと寄生して生きてたんだ。」
「はぁ~、大物なのか小物なのかよく分からん奴だな。なら一旦、私の家に来てくれないか?君が如何いういう奴にしろ如何いう生き方をするにしろ、助けてくれた礼くらいはしたい。」
それを聞いた瞬間、俺の顔は輝いた。
「お礼って、ひょっとして穀物を貰えたりするのか?」
ナグリーに詰め寄る俺。
「まぁ、そのくらい構わんが。」
「是非行かせてくれ。」
こうして、フラム王国に行くことが決まったのであった。