サバイバルが始まるぜ。
「だぁぁぁ~っっっ、面倒くせぇぇ。」
村からしばらく歩いた森で深く嘆きの声を漏らす俺。この森を嘆きの森とでも名付けてやろう。まぁ村の周囲以外は森ばかりなんだがな。魔生物が溢れていて危険極まりないから、寝るところは慎重に選ばねば。食べられるのは利点だけどな。ということで早速動こう。気分が落ち込んでいるから休むのではない、気分が落ち込んでいるから動くのだ。気分と体は表裏一体、片方がダメージを受ければもう片方もダメージを受ける、が、逆もしかり。取り敢えずは命の防衛ライン、水を求めて走る。嘆くカロリーを次に向かうカロリーに変換すればこそ、俺は今日も強くいられる。走ってれば疲れて、絶望など忘れ去れるだろう。水場が見つからなかったらもっと絶望だけどな、はっはっは。
「はぁ、はぁ、はぁ、っ。」
30分ほど走っただろうか、そろそろ俺のグリコーゲンが使い果たされて、中性脂肪が使われていることだろう。随分な距離を進んだが、水場は一向に見つからない。今日中に見つかるのだろうかと、心が折れかかっていたその時、魔熊を見つけた。俺は直ぐに走るのを止め、木の裏に隠れる。あいつが魔魚を捕まえに行くのを尾行し、水場に辿り着こう。序でに魔熊が魔魚を捕らえた瞬間にあいつを倒して、肉と魚を頂こう。フハハハハ、一石三鳥だぜ。
魔熊の後をつけて幾星霜(数十分)、ようやく水場に辿り着いた。鋭い目で魔魚を見極める魔熊、構え及び予備動作なしに獲物へと素早く口を伸ばす。その滑らかさは熊というよりも、蛇のようだ。
と、感心している場合ではない。俺も木陰から姿を現し重心を前に倒す。腕を後ろに、肩は揺らさず、足は軽やかに、魔熊が気付くがもう遅い。加速度がゼロになったその瞬間、前へ飛び込み、ハンドスプリングの慣性に任せて、両踵で魔熊の顎を震わす。魔力を持たない俺は、その肉体で敵と戦う他無いのだが、人間の攻撃力で魔獣の防御力を突破できる筈も無く、相手の重さを利用して戦わなければならない。攻撃が決まったようで、魔熊が魔魚を放して気絶する。魔魚は体をビクンビクンさせながら水中へ戻ろうとしたので、蹴飛ばして木にぶつかると、そのまま気絶した。
「ふぅ、成功だな。さて、目を覚まさないうちに焼いてしまわないと。」
落ちている燃えそうな小枝を集め、火をつける準備をする。これで夜になっても大丈夫だ。松明、ゲットだぜ。
「うめぇぇぇ。やっぱ肉は最高だな。疲れた後の水分と食料は体に沁みるぜ。魔獣のタンパク質は全部アミノ酸指数が100だから栄養素的にも完璧だしな、ってビタミンと炭水化物、出来れば無機質と脂質も摂らないと。でも、贅沢はできんしなぁ。今日はその辺の草や木の実でも食ってあとは寝床を探すか。」
次の行動を決めた俺は、飯を食い終わると早速水辺に沿って歩き出す。水場を離れるのは勿体無からな。最悪海に着くまで歩いて三角州にでも住もう。などと、欲を抑えたのが良かったのか、川沿いの洞窟が見つかった。物欲センサーすげぇ。
早速中に入り、奥へと潜る。やっと見つけた洞窟、渡る世間は鬼ばかり、そこは魔虫と魔鳥の住処でした。
「ですよねぇ~。」
一旦洞窟の外に出た俺はベレノアールさんから貰った魔取り線香を焚き、手で仰いで洞窟の中に煙を充満させる。そう、村の外に転送されたのは俺だけではなく、ベレノアールさんからの餞別も一緒だったのだ。肩掛けバッグの中に入っていたのは偽の身分証と魔取り線香のみ、う~ん、辛辣ww、けれどありがてぇ。俺を追い出したBBAは天使だったようです。何で偽なんだろう?
そんな疑問は置いておき、魔虫を追い出した俺は、眠りに就くべく再び洞窟へ。因みに魔鳥は食料にすべく洞窟から出てきたものを、そのまま松明で焼き殺しました。消費期限を考えてこんがりはやいてません。
「ふぅ、何とか乗り切ったな。健康に生きるためにも睡眠はしっかりと摂らねば。明日への架け橋を何とか渡って、目覚めたら直ぐに、明日を歩き出そう。」