混乱
「国防長官か大統領と直接話がしたい。」
クーデターの首謀者を名乗る男はそう切り出した。
要求を受けるつもりが全くなかった国防長官は、適当な当直士官に電話応対をさせるつもりだったが、超光速巡洋艦の艦橋には適切な士官があまりいなかった。
戦略宇宙艦隊司令長官では位が高すぎる。
結局、巡洋艦の砲術長が電話を受けることになった。
電話をかけてきた主も名乗っていないため、こちらも名乗らないという奇妙な電話になった。
「要件を聞こう」
「国防長官か大統領と直接話す」
「私が代わりに聞く」
「話にならない」
「私は君が何者なのかを全く知らない。そんな人物からの電話を誰かに取り次ぐことなどできない。今ここで要件を言え。さもなくば切るぞ。」
「わかった。こちらの要求を伝える。」
「こちらの要求は銀河連邦が保有するすべての戦略兵器の廃棄だ。」
「目的は」
「そこまで教える義理はない」
「あまりにも大雑把すぎて理解の範疇を超える」
「すべての戦略兵器の廃棄だ。難しいことではあるまい」
「とりあえず話はたまわった。」
電話はここで切れた。
すぐそこで電話をモニターしていた国防長官はキョトンとした顔をしていた。
「理解ができない。意味が分からない。もしこの要求が本物なら、これはクーデターではなく国家反逆行為だぞ」
誰も言葉を発しなかった。
とりあえず要求内容から戦略兵器に危害が加えられる恐れが高いことから、国防長官は戦略軍に対して警戒体制の引き上げを命じた。
「とりあえずデフコンを1上げる。とりあえずだ。いきなり最高警戒体制にぶち込む可能性もあるから備えるように」
国防長官は後ろにいる戦略宇宙艦隊司令長官にこう問いかけた
「保全命令は必要だと思うか」
「長官がそう御判断されるのでしたら」
判断材料が足りなかった。
クーデター部隊に関する情報は依然として全く入ってこなかった。情報部がポンコツということが今回も証明されたわけだが、それで長官が納得するわけもなく
「情報局として何らの情報も持っていないのか。寝てたのか。」
「現在情報収集をしていますが、情報機関の本部もクーデター部隊に包囲されており満足に活動できない状態です。」
「テレビの映像が情報のすべてですという状態を一体いつまで続けるんだ」
国防長官の苛立ちが徐々に出てきた。
統合参謀本部議長から作戦計画案が提出された。
その中には首都を灰燼に帰すものから、治安部隊を投入して市街戦を行うものまでさまざまなものがあったが、民間人の被害は避けられないものしかなかった。
「クーデターの目的がよくわからない。あんな漠然とした目的など初めて聞いた。裏取りをしたいが情報部は使えない。さてどうしたものか」
大統領避難命令は依然として有効なため、こちらから大統領に連絡をすることができない。そのため、政治的な相談を大統領とできないということも国防長官を追い込んでいた。
「クーデター部隊の要求にはもちろん答えられない。目的もわからないので、交渉の余地もない。鎮圧に向けた作戦の準備を命じる。戦艦による質量弾攻撃は行わない。首都を灰燼に帰すような攻撃も基本却下だ。地道な市街戦で少しずつ解決していくしかない。この方向で作戦計画を提出し、部隊を待機させろ。」