前編
メインの転生したら〜が話の構想に行き詰まり、しかも小説自体長らく書けてなかったので、リハビリと言えるほど書いてきてませんが、そのようなつもりでちょっと一筆!
王立第一高等学園―――。
国が管理・運営する各地の学園の中で最も厳しく、通称「一高」と呼ばれるここに入学出来たら、ほぼエリートコース確定だと言われている。王族から有力な貴族の者達は「推薦枠」として入学するけれど、選民思想のようなものではなく、「一般枠」という厳しい試験を突破出来た末端の貴族や国民にも門戸は開かれている。
そうして数多くの将来を期待される若者が集い、次代を担うに足る人材へと育成する王国最高の教育機関だ。
そして王国の各地に存在している系列の全学園共同で行われる伝統として「絢爛会」という一年に一度開かれる催しがあり、この時だけは学園によってはかなり遠いけど、絢爛会に参加する為に多くの学生が王都を訪れる。
一応参加は自由とされているが、この絢爛会が開催される意味を分かっているなら不参加という選択肢はありえない。特にニ期生にとってこの催しでの立ち居振る舞いが将来を決める事さえあると言っても過言ではないほど重要な場である。仮に三期生になってから動くようでは遅過ぎる。そのような者達は愚鈍だと参加しても歯牙にもかけられない。
そして王城で開催されるこの絢爛会は、有力な貴族が揃い踏みしているだけでなく、同盟国や近隣諸国の重鎮も訪れ、その方々をもてなす意味も含めて、国王である陛下を始め、現職で王国を支えている方々も参加する。出世を望む殿方はここで自分を売り込み、まだ婚約者がいない令嬢やその親はここで将来有望そうな者や家名などを吟味して声を掛け、自身の家名の格式を高める事を考える。
この宴はそういった「繋がり」を持つ場という意味合いが大きい。そしてここに参加しないというのはその可能性を捨てるということ。現状で満足している者でもそれを維持するには相応の繋がりも必要になる。だから余程のことでもない限り学生は参加する。というか親に参加するよう強制されると言っていいかも…。
―――そして陛下でさえ参加する上に、他国の目もあるこのような公の場で、王太子ともあろう者が陛下と同じ目線に立つ階段を許可も取らずに上がるという愚行を犯して、横に婚約者でもない女を侍らせながら、自慢げに声高らかに宣言しようとしているのを眺める婚約者である私ことシエラ・ヴィクトール………。
「この場にいる皆の前で俺は宣言する!俺はシエラとの婚約を破棄してマリンを新たな婚約者とする!俺がマリンに想いを寄せていくのが気に入らないからと、マリンへの様々な嫌がらせを行う貴様には呆れ果てた!!せめて最後に潔くマリンへ謝罪して、これまでの行いの罰を受けろっ!!」
憤怒に染まり、まるで仇でも見ているような目で私に向かって放たれた言葉………。
その言葉に動きが止まってしまった私に、してやったりと愉悦に浸るような顔をする婚約者を見ながら思う―――。
(あぁ、まさかと思っていたけれど…本当にこの場を使うつもりだったとは……。やはり私程度の者では正してあげられなかった……)
王城の謁見の間と同じ造りをしている絢爛会の会場。この時の為に色んな地方の珍味や並みの貴族では到底調達出来ない食器の数々。「絢爛」の名を冠するこのパーティーは王国が国を挙げて準備する年に一度の煌びやかな席。
そんな国の威信をかけたところでの発言…。
これまで殿下は散々マリンさんと不貞を働いたり、学園で度々問題を起こしたりもしていた。でも私は殿下から離れずに耐えてなんとか事を収めて回り、王太子らしく振る舞って欲しいという直言を止めなかった。託されたからには役目を全うしたかった。
そんな私を疎ましく思っていたであろう殿下は、それでも今まで婚約破棄の明言はしなかった。そこまではしないはずだ、と殿下の良識を信じながらも、もしかしたらいつかは言われるかもしれないと疑心も持っていたけれど……。
(もしかして絢爛会で宣言しようと待っていたのかしら?流石にそこまではしないと思っていたのに…。この場で言うのを待っていたのだとしたら、私が思っていた以上に殿下は国の未来にとって危険な存在だ…)
―――…この絢爛会でそんな発言をする意味をお考えにならなかったのだろうか?…これはもう限界かもしれません………。
自分だけの判断で処理出来る問題じゃない…。会場を改めて見渡しながら、騒めく周囲を止めることはもう不可能だろうと悟る…。
こうなってしまったからにはお聞きするしかない。伏していた顔を上げ、殿下を真っ直ぐ見つめて私は喋り出す。
「殿下。そのお言葉の真意を問う前に陛下に仕える一臣下として許せないことをまず進言したいと思います。陛下、発言をお許し頂けますでしょうか?」
でも殿下を見たのは一瞬で、すぐに玉座に座している陛下に膝を折って臣下の礼を取りながら尋ねる。
(この場を収めようとするわけでもなく、他国の目もあるからとこの場を離れるわけでもない。そして陛下にお伺いを立てる。聡明な陛下なら多くを語らずとも、これだけでお分かりになられるはず…)
すると陛下は殿下が階段を上がっている時から険しくなっていたお顔を綻ばさせながら、私に告げられる。
「…うむ。シエラ・ヴィクトールの発言を許す。更にここから先、シエラがいかなる発言をしようとも儂は罪には問わぬ」
―――っ!?
(…陛下はお覚悟を決められた、ということですね…)
陛下のお言葉の真意を察し、自身に与えられた役目の終わりが来たのだと息を呑み、目を閉じて…覚悟を決める時だと心を落ち着かせる。
(私の最後の役目を果たそう―――)
「ありがとうございます陛下」
陛下と私のやりとりを何故そうしたかも分かっていない様子で困惑していた殿下。その殿下にまずは突きつけることがある。
「それでは殿下。先程述べた通り、婚約破棄のお話をする前に申し上げたい…いえ、許せないことがあります」
親同士が決めた婚約から10年。幼い頃からそれなりの時を共に過ごした殿下なら、私が静かに怒りを募らせていることは分かっているでしょうけれど、その怒りの理由まではきっと分かっていない。殿下は……。
「ふんっ!婚約破棄を言い渡されて逆上するのかっ!?父上に助けを求めようとしても無駄だっ!!俺はマリンと結婚すると決めたからな!!!」
………溜息が出そう。私の言葉を聞いていなかったのか?
「殿下、私は言いましたよね?婚約破棄のお話の前に許せないことがある、と」
呆れと怒りから思わず目を細めて睨みつけるようになってしまった私に少し怯んだ殿下は、たじろぎながら返事をした。
「な、なんだ?」
私が何故怒っているのか、何を言いたいのか、が分からないのかしら?…なら言って差し上げます。
「それは殿下が陛下の許可無く階段を上がるという無礼を働いただけでなく、そのまま高らかに発言し、あまつさえ背を向けたことです。貴方はこの国の王太子なのです。皆の手本として最も陛下に礼を尽くすお立場の貴方が、臣下の礼もとらず、許可を求めることすらしないなど許されることではありません。これは不敬罪と言われても当然の無礼な振る舞いです」
「そ…それは……」
「更に申し上げるなら自分には無関係だとでも言いたそうなマリンさん」
「えっ!?わ、わたしは殿下に付き従っただけでっ!?」
殿下も殿下だけど、この子も分かっていないようね…。
「付き従っただけ?貴女は礼儀を知らないのですか?仮に殿下が陛下の許可を取り階段を上がるとしても、貴女がそれに寄り添って上がるのは礼を失します。本来なら貴女は階段の前で膝を折り、殿下だけが上がるものです」
これは例え王妃でも同じこと。勿論すぐに陛下から許可を出されて玉座の横の席に座るわけだけど、許可を出されていない状態で階段を上がることは王妃でも許されない。
「こういう言い方は好みませんが、貴女は一伯爵令嬢にすぎず、役職を賜っているわけでもないのですから、現状では臣下とすら言えない、つまるところ貴女はこの場では一国民でしかないのです。そんな貴女が無断で階段を上がり陛下や王妃様に背を向けたのです。恥を知りなさい」
せめてこれで二人とも素直に階段を降りて陛下に謝罪すればこれ以上事が大きくならなかったのに…殿下は指摘されたことに逆上したのか、更に酷い発言をしてしまう。
「そ、そんなことは今はいいんだ!それも貴様のやってきた嫌がらせのひとつのつもりだろうっ!?マリンへ嫉妬してそんな言い掛かりを並べて話をすり替えるなっ!?」
「そんなこと?言い掛かり?殿下、今そうおっしゃいましたか?……貴方のその発言は陛下のご威光を損ねる、臣下としてあるまじき発言です。これは不敬罪どころでは済まないほどの礼を失した暴言ですよ?」
「う、うるさいっ!話をすり替えるなと言っているんだ!!貴様は「黙れ!!」
ますます失言をしそうな殿下に、陛下の怒号が響き渡る。
それに自分が庇ってもらえると勘違いして安心したのか、殿下は押し黙る。だが―――。
「シエラよ。其方の申す通り、愚息の行動は罪に問うてもいい振る舞いだ。本題は婚約破棄についてのつもりのようだが、其方が望むならこの二人を反逆罪として即刻処刑するとしても儂は構わぬ。どうする?」
陛下の処刑という言葉に顔を真っ青にする二人。そのあまりの怒りように言葉も出せないようだが、これは陛下からの私に対する配慮だと思う。本来なら反逆罪は即刻処刑が習わし。私に尋ねる必要などないからだ。
「陛下が罰するというのなら私に否はありません。ですが、もし私の要望が叶うなら本題のご様子である婚約破棄についてもお聞きしたいと私は思います。これは私事になりますが、反逆罪で罰せられるかもしれない殿下と婚約したまま、というのは公爵家の恥となります。私は公爵家の者としてかような不名誉を残すわけにはまいりません。それと先程から殿下が度々申し上げられている私がマリンさんへ様々な嫌がらせをした。などという汚名も晴らしたいと存じます」
「…ふむ、たしかに。其方のような非の打ち所がない淑女というべき公爵家の者が、この愚か者のせいで要らぬ汚名や家名に傷を負うのは、愚息の父として、また国王としてあまりに忍びない。…よかろう。罰するかどうかはひとまず置いておくとして、話とやらを聞いてみようではないか。…アランよ、それにマリンとやら、即刻階段を降りてから話を続けよ」
「「は、はいっ!!」」
返事をした二人がすぐに階段を降りて、私と少し離れたところに同じ姿勢を取る。
さて、ひとまずあまりに酷かった無礼は正せた。二人は陛下に怒鳴られ萎縮しているが、婚約破棄の話をし始めたらまた調子に乗っていくのだろう……。
だが陛下のお心を察して、覚悟を決めた私が止まることはもうない―――。
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