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この惑星が自転していることの証明 3

 こっから二話ぐらいなんか小難しい話が続くので、苦手な方はとばして結構です。

 内容としては、異世界の惑星が自転していることをどうやったら説明できるかを考えたものとなります。

 もともと天体の観測は力学の法則の発展に大きく寄与しています。現在の古典力学の祖であるニュートンの「プリンキピア」も天体の運動を記述したケプラーの法則の根底を解明しようとしてできたものでした。

 ただ、天体の運動を観測するためには膨大な時間が必要で一朝一夕でできるようなものではないために、とりあえず簡単に自転を証明してみようかと思ったわけです。

 最終的には運動方程式が成立していることを説明しようかと考えています。が、原理的な話は物語にあまりかかわってこないのでとばしても大丈夫です。



「そういえば無花さん、今日何してたんですか?イムさんといろいろしていたらしいって聞いたんですけど」


 その後いろいろと雑談交じりに会話していたところ、ふと雨宮が疑問を投げかけた。

 その言葉に最も反応したのはイムで、思い出したかというようにバッと身を乗り出す。


「そう!ひどいんですよイチカさん!朝も早くからいろいろ用意させたり魔術を使わせたり!もうへとへとで……」

「できる限りのことするって言ったのはそっちでしょ。言ったからには責任を取らないと」

「それにしたって、少しは遠慮するもんじゃないですか!もぅ」


 ぷりぷりと頬を膨らませて、わざとらしく怒るイム。その様子からは怒られているというよりも、拗ねている子供を見ているような可愛らしさを感じた。


 「本当に何してたんですか……」と少し呆れの混じった声で、雨宮がつぶやく。


「あー、そうだな。今日一日いろいろと調べ物をしていたんだ。まあお前らも無関係ってわけでもないし。……小坂。昨日の夜、気づいたことあったよな」

「星座のこと?」

「そうそう」


 昨日の夜に観察された星空には、元の世界で見知った星座に酷似した星の並びがあった。無花はそれをただの偶然と片付けずに、なにかしらの原因があると考えていた。

 

「星座?確かに空はきれいでしたが……」

「その星座が、元会った世界と同じ感じだったんですよ。北極星みたいのもあったし」

「へえ。それは不思議だね」


 雨宮が、でもそれが何だという風に疑問の顔を浮かべる。


「そう、小坂の言った通り星の並びが元の世界と酷似していたんだ。それでまあ、今いるこの星についていろいろと調べようと思って」


 そう言って無花は、どこからか小さなデジカメを取り出した。


「あの後明け方まで星を観察していたんだけど――」

「え!?ずっとあの格好であそこにいたんですか!?風邪ひきますよ!」

「一回風呂に入って着替えたし。……それでこの写真が取れたんだ」


 無花はデジカメを操作し、画面をテーブルの上に置く。イムはその様子を、不思議なものを見るような目で、じっと観察していた。


 雨宮たちがデジカメを除くと、そこには満天の星の軌跡が映った画像があった。空の一点を中心として同心円状に星の輝きが伸びている。


「きれいですね。雲のせいでちょっと濁ってしまってるのが残念ですが」

「見てほしいのはそこじゃない。星の軌跡だよ。この写真じゃわからないだろうけど、観察していると星は反時計回りに円運動をしていたんだ」

「それがどうかしたんですか?普通じゃないですか」


 小坂が何を当たり前のことをという風に首をかしげる。

 しかし雨宮と綴木はそれの意味することに気付いたのか、ああ、と納得の表情を浮かべた。


「この星が自転しているってことですか?」

「そう。その通り。星が見える原理が向こうと同じなら、空自体が動くということがない限りこれは自転の証明になる」

「はぇ~。なるほど。……あれ?」


 無花の言葉を聞いて納得したように声を漏らす小坂だったが、何かの疑問を発見したのか「でも」と言葉を続ける。


「でも太陽が動いてるんだから、自転してるのは間違いないんじゃ?」

「確かにそうだが、恒星が動いているように見えて実は惑星が自転していないって可能性が……そうだな、三つほど考えられる」

「三つ?」

「そう……一つ目は惑星がすごい勢いで公転している説。この場合でも、確かに惑星から見れば恒星は動いているように見える」


 恒星の引力、惑星が人の住める気候保てるほどの距離、一日で回り切るのに必要な速度。この三つの条件を満たす星が果たして存在するのかは計算をしてみないと分からないが、簡単な理屈としてはあり得ないものではない。

しかしこの場合、恒星は動いて見えても遠くに輝く星は動かない。惑星が公転運動をしたぐらいでは、観測者との相対的な方角がずれないからだ。


「二つ目は、恒星が惑星の周りをまわっている場合。輝くほどのエネルギーを持つ重さの星が惑星系に乗るなんてことは元の世界だと考えられないが、異なる物理法則が成り立っている世界ならあり得なくもないかもしれない」


 二つ目はここが異世界だということを加味した考え。この場合も見かけ上恒星は動いて見えるが、星空は動かない。


「三つめが……」

「この惑星が中心で、星空や恒星が周りをまわってる場合。……ですね?」


 無花が考えていた通りの答えを、まるっきりそのまま綴木が言った。

 無花は「そう」と頷くと、言葉を続ける。


「昔地球でも信じられていた、いわゆる天動説だな。天球とか言うものがあって、それが星空に見える。……突飛な発想だが、しかしそれを否定できる材料も今のところはない。この場合恒星も星空も動いて見える」

「はえー、そうなんですねぇー」


 自身で質問したのにも関わらず、小坂は理解を放棄したように生返事をした。雨宮は少し考えて納得したように頷き、綴木は「そうですね」とつぶやいた。イムは皿の模様を指でなぞり、別のことを考えているようだった。


「そう、だから星空が動くことも完全な証拠ではないから追加で実験を行った。……で、だ。逆時計回りということは、俺らが今いる場所が自転の方向に対して上半球であるということを示している」

「と言うと?」

「北と南を考えず、この星が地球と同じ方向に回っていると仮定した場合、地球における北半球にいるってこと」

「はえー」


 小坂の気の抜けた返事を他所に、雨宮は「なるほど」と頷く。


「しかもこの円の中心には、そうだな、暫定的ににポラリス(仮)と呼ぶが、それが存在した」

「ポラリスって何です?」

「……っ!北極星の名前だよ!そんなことも知らないの、雨宮くん?」


 雨宮の呟きに、小坂が水を得た魚のような勢いで解説を加える。わかってることの話になるとすぐこれだ。

 「北極星」というワードを聞き、イムがピクリと耳を動かす。


「このポラリス(仮)、この星でも北極星と呼ばれているらしい。しかも文献から、極東の方でもそう呼ばれているというのが分かった」

「……私が読んだんですけどね、それ」


 イムの恨めし気な声が聞こえてきて、無花は思わず「ごめんって」小さく謝る。

 文字が読めないのでイムに代わりに探してもらったのは申し訳ないと思っていたが、しかし一方でそんなに多く読んでいただろうかと疑問に思う。せいぜい五十に届かないぐらいの文献しか読んでないはずだ。


「何個も何個も探して、見つかるまで解放してくれなくて……イチカさんも読んでたけど、読めるわけないじゃないですか……だからほぼ私一人だけで……」

「ありがと、イム、また頼む……そこからわかることは、磁北と真北がほぼ一致するということだ。今いる場所が北半球であるということの確定もできるな」

「磁北って何ですか?」


 「またやるんですか……」と言って机にうつぶせになるイムを傍目に、小坂が今日何度目かの疑問の声を上げた。

まるで授業みたいだなと、雨宮は思う。無花が先生で小坂たちが生徒だ。


「方位磁石が指す方向って言ったら分かりやすいかな?実際に地球でも地軸と、その、地球を磁石に見立てたときの極は一致しない。この星でも詳しくはわからないけど、でも大体は同じだった。スマホのコンパスで見たけど……この世界にも方位磁石あるよね」

「ふぇ?磁石が北極星の方を指す現象については知っています。それを利用した魔道具があることも……」

「魔道具って……」


 魔術に類する技術は含まれていないはずなのだが、この世界ではどうやら魔法の道具認定らしい。確かに何の力もかかっていないように見えるから、そう考えるのも無理はないだろうが。


「あとは北極星の高度が、これはスマホの水準器ではかったからあまり正確ではないんだけど、大体46.5度ぐらい。北極星の高度は緯度と等しいから、それぐらいだな」

「北緯46.5度。北海道ぐらいですか?」

「そうだね。あとはフランスとか、カスピ海や五大湖の下のあたりを通る。ここはそんなに寒くないから、あったかめの星なのかヨーロッパみたいに海流がうまいことあったかいのか……」


 現段階ではまだ確証に至るための証拠が足りないと、仮説を並べたてる無花。


「経度に関してはどこを基準に取るかで変わってくるからあれだけど、……ここに召喚されたとき時間がずれたでしょ」

「そういえば確かに。朝に呼ばれたのに、ここ来たら昼過ぎでしたね」


 無花は徹夜明けだったので時間のずれは気にならなかったが。そういえば図らずとも二徹になってしまったと、ふと思う。


「今日正午に時間を合わせたんだけど、時間のずれが大体+14時間だった。これが時差だとすると、大体日付変更線あたりか。本当に大体だから……」


 この世界でも奇跡的に時間、暦が一致した。日付まで召喚された日付まで同じである。これが偶然なのか、あるいは何らかの法則があるのかは無花にはわからなかった。

 言葉尻を濁し、うーんと考えこむと、ふと意外な方向から質問がかかる。机に伏していたイムである。


「……イチカさんが言ってることの大体は理解しませんでしたが、私たちが今日やらされたのって結局なんだったんですか?振り子とか、たらいとか……」

「それはまた別。この惑星自体についていろいろとね」

「はー、っていうか『惑星』って何ですか?」


 異世界人らしい言葉のギャップを口にするイムに適当な説明を加えつつ、無花は今日行ったいくつかの実験についての解説を始めた。


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