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この惑星が自転していることの証明 2


「あれ?イチカさん風邪気味ですか?」

「……ちょっとね。それより昨日言ったの、用意できた?」

「はい。それにしても何をする気なんですか?私にあんな大魔法まで使用させて」

「んー、ちょっとした実験かな。よし、行こうか」

「ちょ、待ってくださいよ!詳しい説明を、詳しい説明を求めます!!」



「自己紹介をしましょう!」


 次の日の夜。

 イムを連れてなんやかんやを終えた無花と、今日一日振り回されてぐったりしてるイムと、王宮でまた説明を受けていたらしい雨宮と綴木、街に買い物に出かけていたらしい小坂。

 集まって用意された夕食をとった後、雨宮が唐突にそう言った。


「なに~、雨宮君。私眠いし、もう寝たいんだけど」


くぁとあくびをしながら、そう口にする小坂。昨日はあまり寝れなかったのか、まだ夜も早いというのに眠そうだ。


「そうだね、でもちょっとだけだから。これは必要なことだと思うんだよ。この世界に四人しかいない現代人同士、お互いを知っておかないとと思って」

「えー、でも私達知り合いだし自己紹介って……。無花先輩ともちょっと話したから。ねっ、無花先輩」


 星座観察会のことを言っているのだろうか、小坂がそう口にする。


「んー。でも俺、小坂の下の名前すら知らないけどね」

「あれ、言ってなかったっけ。私の名前、陽乃って言います。ヒナちゃんって呼んでもいいよ?」

「断固拒否だな」


「えー、何でよ、もう」と若干膨れる陽乃を片に、雨宮は微笑んで言葉をつづける。


「僕は雨宮光琴(あまみやみこと)。高二です。で、……先輩」

「私は綴木夏椿(つづきなつき)です。雨宮君と小坂さんとは部活が同じで、学年は一つ上ですね」


 雨宮に促されるように、今まで静かに無花たちを見ていた綴木が自己紹介をする。凛とした、特別大きいわけでもないが良く通るような声だった。


「俺は天津無花。無花は名前だけど、そっちで呼んでくれると助かる」

「わかりました。ええと、大学生ですよね?召喚されたとき私服でいたので……」

「ん、そうだよ。大学二年生」

「……昨日と来ている服、違いませんか?」


 雨宮の鋭い指摘に小坂がばっと顔を上げ目を見開いた。そしてロボットのようにカクッと無花の方を向くと、そのままちょっとの間視線を上と下に動かして、口を大きく開く。


「ほんとだ!あまりにも自然で気づかなかったけど、昨日と違う服!なんで持ってるの!?」

「研究室宿泊の帰りだったから、偶然。泊まるときは、どんだけかかるかわからないから無限に泊まれるに用意してるし」


 無花の服装は昨日のとはうってかわり、カラフルなマーブル柄のニットに無地のワイドパンツ。

カジュアルな、それでいて少しきれい目にまとめられているファッションを見て小坂は「しかもおしゃれ……」と呟き、駄々をこねるよな表情を作る。


「ずるいずるい!私なんて教科書と制服とスマホぐらいしか持ってこれなかったのに!……っ、他には!?ほかに何持ってるの!?」

「んーと、あとは服がもう一着替えと下着と、寝間着と毛布と、あとちょっとしたアメニティかな。石鹸とか歯ブラシ、カミソリ、櫛、シャンプーとコンディショナーと、一応ヘアオイルもあったっけ。あとは……化粧水とか」


 無花の言葉を聞いた雨宮は、しばらく固まっていると、「くっ」と小さな声を漏らす。


「く?」

「くっ、ください!シャンプーとか化粧水とか!!昨日からもう、髪がごわごわしてしょうがないの!お風呂に石鹸しかなかったし!」

「いいけど、もうちょっとしかないよ?数回分ぐらい。それでもいいなら」

「いいの!?やった~!家宝にして、重要な時に使おう!」

「そんな喜ばんでも。……そうだ、綴木さんもいる?」


 無花はもう一人の、現代人に声をかける。同じ女性だし髪質も気になるだろうと気遣ったためだったが、しかし綴木はあまり喰いついてこなかった。


「私は大丈夫です。コンディショナーも、……何とかします」

「えー、綴木先輩髪長いのにもったいない!半分あげるから使いましょうよ!」

「それあなたのじゃ……私は大丈夫ですから」


 少し呆れながら、小坂の申し出を断る綴木。何とかするとはどういうことかわからないが、髪が痛みにくい体質とかそんな感じなんだろう。

 一連のやり取りを微笑ましく見守ってた雨宮は、やり取りが終わったのかと再び口を開く。


「あー、できれば僕にもカミソリとか貸してください。……それで、僕今日国の方からいろいろと説明を受けたんですが」

「ああ、あの勇者として戦えってやつ?どうするの?」

「ええ、僕らは受けようかと」

「へえ」


 いきなり拉致された平和な国の学生が、戦うという決断をしたことに無花は驚く。彼らも異世界に連れてこられたことに対して理不尽を感じているわけでもないだろうに、重い頼みごとを聞いた雨宮と綴木の寛容さにも感心していた。


「というか戦えるの?戦闘経験なんてないでしょ?」

「なんか勇者はものすごく成長するらしく。身体能力とかが元の世界では考えられないほど向上するらしいです。今でもなんか、この机を剣で割れるぐらいには力があるみたいで」

「まじで?」


 無花たちの前に置かれている机はそれほど重厚なものというわけでもないが、それでも天板は数センチあるしっかりとしたものだ。いくら鉄の塊で叩くとはいえ、細身の剣では相当の力が必要だ。

 どちらかと言えば細身の部類に入る雨宮にそんな筋肉があるとは思えないので、なにかしらの超常的な力が働いているのだと無花は思った。


「それに僕ら剣道やってましたから、剣の扱いもまあまあできますし」

「雨宮君部活でも強い方だったもんね。それに綴木先輩全国行ってるし。……先輩何段でしたっけ」


 三人は剣道部だったようで、その中でも二人の実力はあるそう。剣道が即実践で使えるとはあまり思わないが、剣の扱いについては経験があると言ってもいいだろう。

 

 小坂の問いに、綴木は少し考えてから口を開いた。


「確か四段。ちょっと前試験を受けたような気がするので」

「確か、って。ふつう忘れなくないですか?自分の段位なんて」

「あまり気にしていないですから。段位はただの飾り、実力とあまり関係はありません。まあ鍛錬の年数で段位試験に挑めるかどうかが決まるので」


 「実力と相関があるのは否定しませんが」と続ける綴木に対し、無花は疑問を投げかける。


「あれ?確か段位って十八だと三段が上限じゃなかったっけか。……あーでも」

「はい。特例で、短い期間の間で上りました。その上限ですね」


 剣道の段位は年齢の制限があり、単純な才能と段位を結びつけることはできない。年齢の上限の段位を持っているものは優秀、特に短い間で四段まで駆け上った綴木は相当な強さがあると考えられる。

 少なくとも剣道という場において、ではあるが。


「まあそれがどれだけ役に立つかわからないけど。戦い方について、教えてくれる人はいるんでしょ?」

「はい。武器の使い方に関しては騎士の方が、魔法に関しては」


 雨宮は言葉を切って、ちらっと横を見た。

 視線に気づいたのか、会話に加わらず静かに座っていたイムがふっと顔を上げてちょこんと手を上げる。


「あ、攻撃魔術に関しては私が教えます。よろしく」

「……イムさんに教えていただけるようで」


 教会の聖女様は、攻撃魔法にも秀でているようだった。


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