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第九  作者: 天上/トロあ
第一章 始まりの夢
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八話 第二ラウンド

 辺りが光に飲み込まれる。

 ブラハの猛攻も今は止んでいる。スティカが成功したようだ。

 視界が開けてくると、周囲は別世界になっていた。

 確かに地下で戦っており周りを照らしていたのは炎だったはずだが、今は太陽の光に照らされているように明るいうえ、青空が見える。

 奇妙なことに、床が凪いだ水面のように空を反射し、それどころか空があるというのにも関わらず、元々天井があった位置に俺達が反射して映っている。


「上出来だ」


 俺は予想通りの光景を一瞥すると、俺とは対照的に唖然としているレインに声をかけた。


「レイン、この結界がある間は俺達が有利だ。ブラハよりも俺達のほうが速い」

「走れってこと?」

「そんなところだな。一撃離脱だ」


 手で走るように合図する。ブラハの視界も回復してきたようだが、奴が動き出すよりもこちらのほうが速い。

 レインが一瞬溜を入れたかと思えばその姿が眩み、虹の軌跡がわずかに見える程度に残る。間を置かずに俺も高速で走り出す。


「むぅ。高速移動を可能にする結界…。中級冒険者にしてこの魔法、やはり貴殿らは我らにとって危険となり得る可能性が高い」


 俺とレインの描く虹の軌跡が檻のようにブラハを囲む。

 速度を保ったまま一撃離脱で俺とレインは攻撃を仕掛ける。

 俺が《拳震波ヒット》の魔法陣を描いてブラハへと襲い掛かる。


「そこか!」


 ギリギリでブラハが反応し、迎撃しようと火焔剣を振るうが、俺の狙いは初めから火焔剣だということを奴は知らない。

 俺は《拳震波ヒット》の魔法陣を反魔剣を握っている手に無理矢理纏わせ、渾身の力を込めて火焔剣の根本を狙う。

 凄まじい金属音を鳴らしながら、魔剣と反魔剣が衝突した。

 ブラハは火焔剣の炎を解放したことによりパワーが上がっているが、今だけは速度を乗せたこちらの剣のほうが勝っている。


「ぐ…!これは…!」


 ブラハが顔をしかめる。

 無理矢理だったとはいえ、《拳震波ヒット》を受けた手では痺れて力が入りづらいだろう。

 だがそれでもなお、火焔剣がさらにその火勢を増して鍔競り合えるだけの力をブラハに与える。


「レイン…!」

「任せて!」


 スメラギはこれまでしてきたように、しかし今までよりも鋭く火焔剣を流して斬り払う。それと同時にレインが横から斬りこんできた。

 スメラギの()()が輝くと、共鳴するようにレインの体が白く輝き、大気中に飽和している光属性の魔力が粒子となって集う。

 衝突の瞬間魔力が爆ぜた。

 純粋な魔力の爆風にスメラギは吹き飛ばさるも、なんとか衝撃を殺して受け身を取る。

 煙が晴れ――。

 ――カラン。

 ――レインの一閃は火焔剣を弾き飛ばしていたのだった。


「なぜ……」


 まさか剣を失うとは思っていなかったのか、ブラハが呆然と立ちつくしている。


「ふう。決着っと」


 レインは安心したように息をついた。

 一方で俺は、隙だらけのブラハの下顎を狙って拳を入れる。


「《拳震波ヒット》」

「ちょ、スメラギ!?」


 なんの抵抗も無く入った拳はその衝撃を脳に伝え、ブラハの脳を揺さぶった。少しの沈黙の後、ブラハが仰向けに倒れる。


「よし」

「よしじゃないよ!何やってんの!?無抵抗の相手を殴るって!」

「そんなことよりスティカの心配をしろ」

「スティカ?あれ、そういえば最後しか援護が無かったような…」


 はて?《虹晶光宮結界フィル・プリズミナル》が発動してからは直接の援護は一度も無かったはずだが?と思ったところでちょうど《虹晶光宮結界フィル・プリズミナル》が崩壊し、元居た場所に戻っていた。

 辺りを見回すと離れたところでスティカが横たわっていた。


「スティカ!」


 レインが慌てて駆け寄っていくと、怪我や脈拍を確認しだす。


「息はしてるし怪我も無いのに、どうして…。もしかして、呪い…?」

「魔力切れだ」

「魔力切れ?ん。……本当だ。いつの間に……」

「結界を張った時だ」

「結界って…。そんな魔法使わせたの?スメラギだって結界魔法持ってるのに?」


 俺は頷いてから、魔法陣を描いて見せる。


「俺の《紫獄煉炎鎖ゲイド・グランズ》は相手に接触しなきゃいけないんだよ。ブラハは俺の手を警戒してて触れなかった。それに、そもそも俺のは結界の外を守るためのものであって強化じゃない。意味が無いんだ」

「そっか、それで…。あ、でも、魔法ってそんなにすぐ作れるものなの?」

「いや無理だな。だが今回はちょっとした裏技を使ったからな」

「裏技?」


 レインが首をかしげる。


「ああ。今回は魔法陣をスティカに適応させた上にスティカの光属性魔法で直接描いた。不完全なまま、な」

「不完全ってことはじゃあ、それが原因?」

「いや、それは仕様だ」

「うう…意味わかんない」


 レインは疑問符を浮かべながらぼやいた。


「まあ、それについては事が終わってからだ。ひとまずスティカの安全確保をする」

「どうしよう。しばらくは目を覚まさなさそうだし、かといって置いていくわけにも…」

「屋敷で休ませるか」

「でもそうすると、この先が危ないよ」


 レインの言う通りだ。今までべガードの姿が見えないことを考えると、この先にいる可能性がある。あるいは他の教徒が。

 ギルドで遇った時に感じたが、べガードはほぼ間違いなく俺よりも強い。仮に戦闘になった場合単独ではまず勝てないと思ったほうがいいだろう。


「どうするか…。!」


 とそこで、ある物の魔力がこちらへ向かって近づいてくるのを感じた。幾度か見た覚えのある物だ。

 ()()は俺たちのいる空間に飛び込んできたかと思えば、壁にぶつかって突き抜けていった。


「今のって、ピーちゃん?」

「ああ。…要するに黒ってことだ」


 ピカロアッシュが持ち主を離れ単独で行動することは無いと聞いている。単独で行動することがあればそれは持ち主の元へと向かう時だけだ。

 そして、その戦斧が貫通していった壁の先には空間がある。ブラハが出てきた通路とは別の道だ。

 となればその先に誰がいるかは一目瞭然。やはりドントはここにいる。

 俺はブラハに情報を吐かせようと思い奴を見て―


「おいブラハ。やっぱりお前らのしわ…ざ」


 ―言葉を失った。


「これだから時代遅れの聖騎士など…!平和を大成することはできないのです…!」


 そこにあったのは自らの火焔剣によって胸を深々と貫かれている鎧の姿だった。

 そしてそれをやったのは、今の今まで姿を見せなかったもう一人の鎧を着た男、べガードであった。

 べガードがブラハに剣を突き立てているという、あまりに予想外過ぎる状況に開いた口が塞がらない。


「…何を……している?」


 やっとのことで口をついて出たのはそれだけだ。

 べガードは突き立てた火焔剣を引き抜くと、ブラハから鞘を奪い取り、自らの腰に下げて剣を収めてこちらを見た。


「何、か。見ての通り、我ら煌光神秘騎士団の教義を守れなかった愚かな聖騎士に罰を与えたのだ」

「罰?」

「その通り。この愚かな聖騎士は反魔剣を持つ貴様らを始末することができなかった。それどころか、二本目の反魔剣が現れるまでは見逃そうとすらしていた。これは立派な戒律違反だ。だから聖騎士の称号を剥奪するのだ。そして私が聖騎士となる」


 おおよそ状況が飲み込めた。

 度々耳にする聖騎士とは魔剣を持つ教徒のことなのだろう。べガードの言う通りならば、それはつまり、奴はブラハから火焔剣の所有権を奪ったということになる。そして、それが成立するということは奴がブラハよりも上ということだ。

 俺は汗が一滴、頬を流れ落ちるのを感じた。


「それにしても愉快だな。おびき寄せられたとも知らずにのこのこと現れるとは」

「ドントを襲ったのはお前だな?」

「何を言うか。襲ったなどと、私がまるで卑怯者であるかのように言うな」

「人から魔剣を奪うことが正義だと言わんばかりの口ぶりだな」

「奪ったのではない。これは正当な継承だ。私こそが聖騎士に相応しかったまでのこと。だからこそ火焔剣も私を認め、私の物になったのだ」


 ギルドで遇った時から思っていたが、こいつらはどうも話が通じているようで噛み合っていない気がする。あまり真に受けないほうが良さそうだ。


「おっと、無駄口を叩いたな。とにかくだ。反魔剣を持つ貴様らは排除するとしよう」


 奴の殺意が急激に膨れ上がるのを感じた。


「まずい。レイン、スティカを連れて逃げろ」

「でもスメラギは――」

「俺はあいつの相手をする」

「だけど、あいつ強いんじゃ…」

「多分ブラハよりもな。だがまあ、なんとかするさ。それに、一人とは言ってないしな」


 レインが怪訝そうな顔をするが、すぐに何かに気付いたようにある方向に視線を飛ばした。


「やってくれたじゃねえの。なあ、べガードさんよお」


 レインの視線の先には、野性的な笑みを湛えた斧使いの上級冒険者がいた。その手には巨大な戦斧を握っている。


「私に負けたのを忘れたのか?冒険者風情が」


 べガードが心底面倒くさそうに、ため息交じりにドントを横目で睨んだ。


「はっ、不意打ちされたから俺も後手に回っちまったがなあ、種さえ割れれば大したこ―」

「種が割れれば、何だ?」


 気づけばべガードはドントの立っていた場所に片足を浮かせた状態でおり、逆にドントは吹き飛ばされて壁に体を打ち付けていた。幸い大したことは無さそうだが、やはり奴の動きは早すぎる。前回見た時とは違い今回は注視していたはずだが、それでも捉えることができなかった。


「やはり力任せの魔剣使いなど時代遅れだったな。この私に敵うはずもない」

「言ったろ、種が割れてれば大したことねえって」


 べガードが眉をひそめる。すると、奴の鎧の胸部に大きなヒビが走った。

 そのままドントが続ける。


「幻術、あるいは催眠の類だな。不意打ちにはお誂え向きってわけだ」

「貴様…!」


 分かりやすくべガードが気を取られている間に俺はレインに離脱を促す。階段を上がってしまえば十分にタルタロスが使えるはずだ。


「チッ。逃がすものか!」

「《崩雷ジスタ》」


 レインが離脱しようとするのに気がついたべガードが火焔剣から炎弾を飛ばして妨害しようとするが、雷撃が炎弾を迎え撃ち完全に相殺した。かと思えば、べガードが目の前に現れ火焔剣を振り下ろす。


「邪魔をするな、愚か者が!」


 それを俺は反魔剣にて受け流して後方へ飛び、ドントと並ぶ形となった。


「やれるな、スメラギ。小細工無しでもあいつはお前より強えぞ」

「やるしかないだろ。どうも逃がしてはくれなそうだしな」

「気概は十分。俺の相棒も猛ってやがる。やれねえ理由はねえな」


 ドントが戦斧を後ろで中段に構える。それに合わせるようにして、俺は反魔剣を下段に構え、ブーツに魔力を流し、左手で炎属性魔法を発動する。

 対してべガードは、ブラハがしていたように、しかしブラハよりも強く炎を漂わせ、火焔剣を上段に構えた。


「一分だ。一分で終わらせてやろう」


 べガードの一言で、戦いの火蓋が切られた。

 厄介な奴二号はいったいどれほど強いのか。

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