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第九  作者: 天上/トロあ
第一章 始まりの夢
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七話 VS聖騎士

「――行くぞ!」


 掛け声と同時にブラハは火焔剣を上段に構え走り出す。そう認識した時には既に奴は俺の間合いの中にいた。恐ろしい速度だ。

 回避は間に合わないと判断した俺は下から斬り上げるようにして受けつつ、敢えて後方へと飛んだ。


「ぬん!」


 だが突進の速度をそのまま乗せた一撃を相殺しきれず、むしろ浮いたせいで弾き飛ばされてしまった。


「スメラギ!」

「…大丈夫だ。受け身は取った」


 なんて出鱈目なパワーだ。

 直撃の瞬間、魔力を感じたため、魔力循環を加速させることによる身体強化でもしていたのだろうが、それにしてもドントに匹敵しそうなほどだ。


「ほう、今の一撃を受けて平気とはな。貴殿は中々やるようだ」


 ブラハはニヤリと口を吊り上げた。


「余所見してんじゃないわよ!」


 ブラハめがけて横からスティカの光線が放たれる。

 それをブラハは知っていたと言わんばかりに斬り払った。


「狙いが見え透いておるぞ。それでは当たる物も当たるまい」

「それはどうかしら?」


 別の角度から新たな光線が放たれる。

 今度は歩を進めるだけで避けられてしまった。


「だから言っておろう。それでは当たる物も―ぬう!?」


 避けたはずの光線は軌道を変えながら再びブラハに襲い掛かる。

 辛うじて火焔剣で防ぐが、受けた光線は二つに分裂し、二本になって再び襲い掛かる。

 防御に失敗する度光線は威力を保ったまま分裂し、その数を増やしてブラハを追尾する。

 そしてブラハが防御に手を割いている間に俺はブーツに魔力を流しながら駆け出した。


「スティカ!俺に合わせろ!」

「初めての連携で難しいこと言うじゃない!」


 だが、そう言う割にはかなり合わせれている。

 一部の速度を落とした光線が俺を守るように追従し、他の光線はブラハの退路を断つように軌道を変えつつ速度を上げる。

 俺は回り込むようにしてブラハに接近し、スティカの光線が作り出した死角から斬りかかる。


「そこ!」


 すんでのところでこちらに気付き剣を振るうがそれも織り込み済みだ。

 ブラハの膂力を以て振るわれる火焔剣とまともに打ち合えば、こちらが負けるのは目に見えている。そのため、打ち合うのでは無く衝突の瞬間に手首の力を抜き、相手の剣を逸らした上でこちらの剣を届かせるのだ。

 ―ガキンッ!


「なっ…!」


 だが剣が届きはしたものの、奴の鎧に阻まれた。それどころか、奴の鎧には傷一つ付いていなかった。


「無駄なこと」


 俺の動きが硬直した一瞬を突きブラハが腹めがけて蹴りを放つ。だが、それを遮る形でスティカの光線が逆に奴の足を狙う。

 即座に体勢を立て直した俺は、再度ブラハへと斬りかかる。

 決して正面からは打ち合わず、火焔剣を受け流しながら光線による攻撃と連携しながら重心を落として剣を振るう。


「無駄と言っておろう」


 スティカの援護と俺の反魔剣があるため、俺は何とか戦えているが、奴にはこうしている間でも喋れるだけの余裕がある。

 その上こちらの攻撃はまともに効かない。

 さて、どうしたものか。


「考え事とは余裕が過ぎていよう?」


 何合目かの剣戟にして、奴の剣の軌道が変わった。

 俺の戦闘スタイル上、受け流す際に必ず奴から見て火焔剣の片側に体が偏るということを見抜かれたのだ。

 火焔剣が剣を受け流した後の俺を捉え、焼き尽くさんとする。


「スメラギ!」


 突然聞こえてきた声に対し、俺は反射的に身をひねってブラハから離れることで応えた。

 すぐさま横から飛び込んできた者の()()が揺れるのを見て、俺は驚きに目を見開く。

 レインだ。一瞬、剣が無いのではなかったのかと思いかけたがすぐさま、そうではなく、異能を使ったのかと思い至る。

 地面ギリギリから放たれた予想外の一太刀は火焔剣の腹を捉え、弾き上げることに成功した。

 その一瞬を逃さず俺は魔法陣を描き、魔法陣ごと貫くようにしてブラハに拳を放つ。


「《拳震波ヒット》」


 重厚な音を響かせながら衝撃が鎧を貫きその内側にダメージを与える。


「ぬぐっ…!」


 《拳震波ヒット》は表層が硬い物を貫き、内側にその衝撃を閉じ込める魔法だ。内と外の強度に大きな隔たりがなければ効果は見込めないが、鎧などは格好の的である。

 俺とレインは一旦ブラハから距離を取った。スティカも魔法行使を中断した。


「おい、レイン。力を使って大丈夫だったのか?」

「剣くらいなら大丈夫だと思うけど…」


 目が泳いでいる。そのあたりはあまり考えずに動いたのだろう。仮にバレればさらに厄介なことを招く可能性があるが、最悪口封じの必要がある。


「やるではないか、若人達よ。まさか戦闘中に武器を取りに戻るとはな」


 ん?


「一人が魔法で攪乱し、一人が接近戦で我の視界を誘導する。そうすることでもう一人が武器を取りに戻っていることに気付かせんようにしたという訳か」


 何か随分と的外れな事を言っているように聞こえる。


「ねえスメラギ、なんか変な事言ってるんだけど」


 レインも思わず囁いてきた。

 昨日の一件といい、もしかしたらブラハは思い込みが激しい質なのだろうか。だが、そうであるならばむしろ好都合だ。誤魔化しも口封じも必要が無いということになる。


「このまま勘違いさせたままにしておこう」


 レインはこくりと頷いた。


「それにしても反魔剣を二振り…。やはり障害となるか」


 ブラハが何事か呟いているがよく聞こえない。かと思えばこちらを向いて口を開いた。


「どうやら我らの目的を達成するには一筋縄ではいかぬとみた」

「…その目的とやらを教えてくれれば、あんた達の言う平和の手助けができると思うんだが?」

「何を言う。聞いたところで貴殿らは協力せんだろうに」

「聞いてみなきゃ分からないじゃない?」

「いいや、貴殿らは協力せぬ。決してな」


 そこまで言うということは、昨日のことを考えればやはりドントの魔剣を狙っている可能性が高い。だがそれと同時に、それではドントの行方を知らないのはおかしいだろう。

 そういえば、べガードがいない。

 そこでふと疑問に思ったことをレインに聞いてみる。


「レイン、ギルドで冒険者にドントのことを聞いた時、違和感があったりしなかったか?」

「違和感?」

「不自然だったことなら何でもいい。何かないか?」

「…そういえば、昨日の事があったのに誰もあの二人を疑う素振りを見せなかったかも」


 確かにそれは不自然だ。昨日の一件があったというのに容疑者に挙がってこないのはどう考えてもおかしい。だが、ブラハはドントの行方を知らない様子だ。嘘をついている可能性もあるが、仮にブラハの目的がピカロアッシュの奪取だった場合、こいつらは目的を達成してすぐにこの町を出れば良かったはずだ。だが、そうしなかった。そして、先の言動からするとまだピカロアッシュは手に入れていない可能性が高い。

 だがそれよりも今はまずブラハを突破する必要がある。

 奴が吐くつもりが無いのならば、自分たちの手で調べるしかない。


「べガードの行方も含めて調べる必要があるな」

「話はもうよいか」

「ああ」


 俺とレインは剣を構えた。


「我ら煌光神秘騎士団の行く手を阻むとされる反魔剣を持ちし者達よ!貴殿らはこうして今、我の前に立ちはだかっている!ならば聖騎士の名にかけて、平和のための礎となってもらおう!」


 ブラハの周囲に火の粉が舞い始めた。

 その手に握られた火焔剣は徐々にその火勢を増し、やがて舞い散る火の粉は火種になり、火焔剣が長大な一振りと化した。


「全てを焼き切る火焔剣の真の力にて、貴殿らを葬ってやろう!」


 さっきまでとは比べ物にならない速度でブラハはこちらへ接近してくる。

 咄嗟に俺は、走る間に仕掛けておいた魔法陣をいくつか起動した。


「《崩雷ジスタ》」


 複数の雷撃がブラハを襲うが、奴の周囲に漂う炎がそれを阻む。


「レイン!」

「うん!」


 問答無用の一太刀を俺とレインの二人がかりで受けるが、ブラハの膂力は数段上がっており押し込まれてしまう。

 スティカは周囲に漂う炎が俺達に降りかからないように迎撃するので手一杯だ。

 俺はレインと目配せをしてから同時に火焔剣を受け流した。

 ブラハは切り返して再び剣を振る、それを交互に受け流しながら俺は《拳震波ヒット》で攻撃するが、一撃受けて以降警戒しているようで中々当たらない。

 ならば―。


「スティカ!長いの撃てるか!?」

「長いのって何よ!というか今あんた達の援護で手一杯なんだけど!」

「俺達は炎に多少当たっても多分なんとかなる!とにかく長いのだ!一発でいい!」

「多分じゃダメでしょうが!

「いいから撃て!」

「ああもう!撃てばいいんで、しょ!」


 スティカが半ば投げやりに光線を撃ち出した。その一瞬、周囲を舞う炎の一部が迎撃を逃れ俺のほうへと降ってくるが、それを反魔剣で斬って防いだ。


「十分だ」


 俺はスティカが撃った光線に手を介して魔力を流し込む。


「何を!」


 何かを感じ取ったブラハが邪魔をしようとするが、レインがそれを阻止する。

 俺の魔力を受けた光属性の魔力はその制御を新たに流し込まれた魔力の持ち主へと移し、俺は光線を縦横無尽に操作する。


「な…何よそれ。めちゃくちゃだわ」


 ほんの一瞬の間に現れたのは光属性の魔力の軌跡で描かれた魔法陣だった。


「スティカ!起動しろ!」

「え?起動しろって言っても…私が知らない魔法だわ!」

「扱いやすいようにしておいた!お前にしかできないんだ!やれ!」

「私にしか……」


 スティカの瞳がわずかに赤く染まる。

 見たことも聞いたこともない魔法だが、自分にしかできないと言われてしまってはやるしかないだろう。

 スメラギ達の周囲にある炎の迎撃の手は緩めず、魔法の発動に意識を割く。

 本来、幾何魔法とは魔法技術の研鑽があってこその高度な魔法体系であり、未知の魔法の行使は至難の技なのだが、驚くことにこの魔法はそれでいても行使しやすくできている。これならば発動できるだろう。

 光属性の魔力に反応した魔法陣がその真価を発揮する。

 限定幾何魔法―。


「―《虹晶光宮結界フィル・プリズミナル》!」

レインは本当はレイピアを使ってるイメージです。

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