チョコチップの型
執務室につくと、マルクがサンドイッチを片手に仕事をしていた。
「ずいぶん早いですね。もっと遅くなるかと、」
(なぜ、クライスは不機嫌なんだ?)
マルクは不思議に思った。
「リアがマルクに渡したい物があるんだと。」
「俺に?」
「お口に合うかわからないけど、もし良かったら。」
リアはマルクにチョコチップとプレーンのマドレーヌを渡した。
「本当に解呪してくれてありがとう。」
「気にしなくていいのに。でもありがとう。ちょうどお茶菓子が欲しかったし。」
(これで機嫌が悪かったんだな?)
クライスはリアがマルク達までマドレーヌをあげる事に不機嫌だったがマルクのチョコチップマドレーヌを見て、思わずリアを見た。
「型が…?」
クライスのチョコチップはハート型で、
マルクのは丸型のチョコチップだったのである。
「あれはクライスだけの特別です。」
リアが照れながら言うと、クライスに笑顔が戻る。
いきなり機嫌がよくなるクライスを見てマルクは呆れていた。
「丁度良かったです。リアに聞きたい事があったんです。」
マルクはマドレーヌを食べながら話始める。テーブルの上のピッチャーには氷のシードで冷やしたアイスティーがあった。
リアがクライスとマルクにお茶を入れて二人に出す。
「リアのドラゴニアンシードは、誰が知ってますか?」
リアは入れたアイスティーを飲みながら、考えてみた。
「私が知っているのは、父とヒューゴ様です。兄はよくわかりませんが恐らく知っていたと思います。」
「伯爵家に来ていた人間で怪しいやつはいなかった?もしくはよく訪ねていた者は?」
クライスの質問にますます悩んでしまった。
リアは伯爵令嬢ではあるが、両親の愛情は兄のセフィーロに向けられ、ヒューゴが師としてくるまでは、兄の家庭教師が来るときに一緒に勉強するぐらいで、リアにあった年齢の勉強はなく、常に比べられ、ないがしろにされて来ていた。そのためにリアは、客人に会う事もあまりなかった。
ヒューゴが来てからは、勉強や社交、いろんな事を教えてもらい、ヒューゴが森に小さな小屋を建ててからはよく泊まりに行っていた。
「うーん、そういえばダグラス様が2、3年前から来ていました。」
「ダグラス?誰でしょう?」
マルクとクライスは首を傾げた。
「でも、どうして気にするんです?
もしかして、誰か手引きしたと思っているの?」
「その可能性があります。」
伯爵家はリアの魔力が兄より高いことにいい顔をせず人に自慢する事がなく、ドラゴニアンシードの存在さえ隠してきた。
そのおかげだか、リアが狙われる事もなかった。
「とりあえず、ダグラスと言う者を調べよう。生き残った伯爵家使用人に知ってるやつがいるかも知れない。」
クライスがマルクに話ていると、ポカンとリアは見ていた。
「あの、ダグラス様はテレーズ国の騎士様ですよ。」
リアの発言にクライスとマルクは一瞬
「えっ、」と固まってしまった。




