なんとかしたい
「ねえ、さっきのアレはなにをやったの?」
「アレって?」
「キミが殴られたり、刺されたりしたのに無傷で逆に相手が傷を負っていたり、爆発寸前だった魔宝石を遠くにっていうか……逃げ出した男の所まで一瞬で移動させた事だよ」
そう言われても身体を奪われて、奪い返して、チカラを貸してもらって……俺、何もしてないんだよな。全部あの声の男がやったんだ、分かるわけない。でも、周りからは俺がやったようにしか見えなかったんだろうな。そもそも誰だったんだあの男。
だいたい、レクチャーとか言ってなかったか、全然使い方わからなかったぞ、呼んでも返事がないし……今はこれ以上考えても仕方ないな。
「実は俺もよく分かってなくて、説明出来ないんだ。ごめんねテルルちゃん」
「アレだけ使いこなしてる感じだったのに。それとも話せない事情でもあるの?」
「いやいや、そういった深い理由とかじゃなくて、本当に分からなくて説明出来なんだよ」
「ふーん」
信じられてないな。
会ったばかりの異世界から来たって言ってた奴がよく分からないチカラを使って挙句それを説明出来ないんだから信用できないの当然だろうな。
「説明出来ないか……残念だなぁ」
「残念って、どうゆうこと?」
テルルちゃんは伸びをしてまた話し出した。
「ボクが聞きたかったのは、あのチカラがどういう能力かって事じゃなくて、もっと重要な事だったんだけどな」
もっと重要なこと?
「ボクから聞いといてアレだけど取り敢えずこの話はここまでにしよう。この子の事も相談しないとだし、続きはレーナと合流してからでいいかな?」
「ああ……うん」
それにしても、俺さっき人を殺したんだよな……全く動揺していない。あの声の男のチカラを借りたから自分が殺したって実感がないのか?だとしても、多少は動揺すると思うんだけどな。俺ってこんなに、人でなしだったのか。少し悲しい気持ちになってきた。
「なにしてんの置いてくよー」
俺達は、ほったらかしにしていたレーナの所に向かった。
レーナが驚いた顔で出迎えたのはいうまでもない。俺達は事情をレーナに話した。
「で? その子どうするの」
レーナが、呆れた顔で見てくる。
まあ、当然だろうな。
「とりあえず、行く所も無いみたいだし俺が面倒見ようかと思ってたんだけど……」
「へぇ〜。自分の食い扶持も稼げないのに、子供の世話をしようなんて」
なにも言い返せない。ぐうの音も出ないってこういう事か。
「それなら、ボクの店で雑用をして貰うって事でどうかな」
テルルちゃんナイス。
「実は、俺からもお願いしようと思ってたんだ」
「他人任せ。最低ね」
嗚呼……レーナの視線が痛い。人によってはご褒美かもしれないが、残念なが俺にはその趣味は無いので、ただただ心が痛い。
だけど今の俺にこの子を護る力は無い。
なんとかしないと……あっ、そういえば、
「まだ名前聞いてなかったね、俺はダイキ。君の名前は?」
「……っ」
少女は黙ったままだった。
「えっと……どうしたの?」
すると、レーナが話はじめた。可哀想なものを見る、とても辛そうな眼だった。
「その子、名前が言えないのよ」
「言えないって、どういうこと?」
「奴隷契約の際に、魔術で名前を奪われるって聞いたことがあるの。きっとそのせいで名乗れなんだと思う」
「奪われたらなんで名乗れなくなるんだよ。そもそもどうしてそんな事」
「魔術で名前を奪われるっていうのは、名前の所有権が奪われる事なの」
「所有権が奪われる?」
「例えば、あたしがあんたに金をあげたとしたら金の所有権はあたしからあんたに移るわよね」
「ああ」
「それをあたしが自由に売ったりするには、あんたから取り戻さないといけない。名前も同じなのよ。奪われたままでは自分のモノではないから、自由に名乗ることが出来ない」
「でも、それに何の意味があるんだ」
「奴隷同士が団結して反乱を起こした事が昔あったみたいでね、それを防ぐ為にって事らしいわ」
「なるほど……それってなんとかならないのか」
このままは可愛そうだ。
「奴隷が名前を取り戻すのは簡単じゃないよ」
テルルちゃん……?
なんだか怒ってるような。
「テルルちゃん名前を取り戻す方法を知ってるの?」
なんだか言いたくなさそうな感じだ。
「奴隷が名前を取り戻す方法は主人が契約を解除して名前を返還してくれること。まあ……これは絶対に無いけどね」
「絶対に無いってなんで言い切れるんだ?言い方悪いけど奴隷って物と同じように扱われるんだったら、主人と交渉して金で買えたりするんじゃ無いのか、すげー頑張って働いたらなんとかなるんじゃない」
「そんな簡単な訳ないじゃん」
と、俺の子供みたいな考えはテルルちゃんにバッサリ否定された。うーん、どうすれば。
「それにお金の問題じゃないんだよ。もっと厄介なことが」
「………………さい」
ん?
「……ごめんなさい」
小さな声で少女が謝ってきた。
「どうして俺達に謝るの?」
「わたしのせいで、迷惑……かけてるから」
迷惑って、自分の名前を取り戻す事が?
きっと今まで自分の為に、誰かが動いてくれた経験が無いんだ。
なんとかしてやりたい。
名前を取り戻してあげたい。
普通の生活を送れるようにしてやりたい
そして何より、人に何かしてもらってそんな辛そうな、申し訳なさそうな顔をしないで欲しい。
「決めた。俺が君の名前を取り戻す。あと、名前がないと呼ぶとき困るから、なにか考えないと」
俺の言葉に、レーナとテルルちゃんは目を丸くしている。
「ちょっと!なに言ってんのよ。簡単じゃないって言ってるでしょ」
「ダイキくん。キミさ、自分がどれだけ無責任なこと言ってるか分かってる?」
ここまで否定されるとは。
「そんなに全力で否定しなくても」
「その子を期待させて、取り戻せませんでしたってなるのが分かってるのに賛成出来るわけないでしょ!」
レーナの声が耳に刺さる。
「喧しい女だ。もう少し慎みを持った方が良いぞ」
⁉︎ 聞いたことのない声がしたぞ。さっき俺を操ってた声とも違う。
「な、なに今の声あんたじゃないわよね」
どうやら、レーナとテルルちゃんも聞いた事がない声らしい。
「おい、お前達ヒトを無視するとは何事だ」
無視するっていうか、姿が見えない。何処にいるんだ?
ん? あれ、なんか足元に一羽のニワトリがいる。いつの間に? そもそも、こんな砂漠にニワトリっているのか?
「黙ってヒトを見下ろすな。愚か者!」
「どうっあああああああ——!」
「もうっ!いきなり大きな声出さないでよ」
「どしたのダイキくん?」
俺はニワトリを指さして、
「あ、あいつ喋った」
「は?」
「ホントだって!今聞こえた知らない声はあのニワトリが喋った声なんだよ」
レーナとテルルちゃんは顔を見合わせる。
「なにこの鳥、ボク初めてみたよ。レーナは知ってる?」
「見た事ないわこんな鳥」
「こんなとは何だ失礼な。愚か者!」
2人が目をパチパチさせてるのが見なくても分かる。そして……
「いやああああああ」
叫ぶよね。