第二話 身だしなみを整えます!壱
町の美容室に訪れた天狐は担当の美容師に向かってこう言った。
「婚活で、もてはやされる髪型にしておくれ」
理容師は、なぜ年端も行かない少女が婚活を? と思いはしなかった。
なぜなら彼女らこの町の商店街の住人は、目の前の少女が千年の時を生きる狐の神様だと知っているからだ。
だから、なぜ天狐様が婚活を? とは思いはした。
「婚活ですか。そうですね、ポニーテールが良いと思いますよ」
美容師は天狐の髪を整えながらそう言った。
「それは男受けするのかえ?」
天狐が尋ねる。
「ええ、しますとも。男性はみなポニーテール大好きですよ」
男性ではない美容師が、偏見で彼らの気持ちを代弁する。
美容師が続けて言う。
「ですので、今回は毛先を整えた後で結び方教えますね」
「うむ、宜しく頼むのじゃ」
髪を切り整えてもらった天狐はより一層可憐に磨きがかかっていた。
また天狐の髪はトリートメント液を浸透させてもらったお陰で艶やかさが増していた。電灯の光の入射角によっては、少女を誰しもが人間と同類だとは思えないだろう。
「まずこうやって後ろの髪の上辺を結びます」
美容師は慣れた手つきで天狐の髪をすかし側頭部から髪を頭頂部と後頭部の間に紐でまとめた。
一度ハーフアップが出来上がる。これでも可愛いのに次に何を求めるのか。
「次にこれを後頭部の髪と一緒にまとめ」
紐でまとめた部分と後頭部の髪を別の紐で結い、ハーフアップの紐を解いた。
「最後に前髪を整えます。これで完成です」
ポニーテールの天狐はさらに幼気がました。それは良い事なのか……。
「むふふっ、狐なのに馬の尻尾か。トックリランに似ている気がするな。感謝するのじゃ」
天狐はフォクシーの「見た目を整える」と書かれていた頁を思い出した。
ふむ、次は服装か。