第一章 産み落とされたのは悪役令嬢 〜06〜
祐麻達が帰ると、今日は久しぶりに家でお父様と夕飯を食べる。
私のリクエストにより、国産高級和牛のハンバーグです。
あ、メインがそれなだけで一応コースになっている。さすが金持ち。4歳児にコースは重すぎるからお父様よりメニューと量は少なめだ。
「ん〜!ハンバーグおいしいです!」
「華流羅ちゃんが食べ物を食べている時の幸せそうな顔は本当に可愛いね。料理長がやけに新メニュー作りを頑張ってるわけが分かったよ。」
あら、料理長ったらいつのまに。
私は食べることが大好きなので高級ホテルの三つ星レストランで料理長を務めた経験もあるうち料理長も大好きである。あの料理長の腕は神の域だよ。家の中でだらけて美味しい食べ物を貪っていたい私にとっては決して手放せない人材だ。
「おとうさま、こんどうちにぱてしえが欲しいです。」
「パティシエだね。」
クッ…舌が回らなかった…。
「なんでだい?それを料理長が聞いたら、自分のスイーツじゃ不満なのかって死ぬほど落ち込むよ?」
「いえ、ぜんぜんふまんじゃないです。りょうりちょうのすいーつもとってもだいすきなのですが、りょうりちょうはすいーつよりもごはんをつくったりかんがえたりするほうがすきなんだとおもいます。ですから、りょうりちょうにはそっちをがんばってもらって、ぱてしえにすいーつをがんばってもらいたいんです。」
「華流羅ちゃん…それを料理長の前で絶対言わないでね。君が天使すぎて呼吸困難になっちゃうと思う。」
「…い、言わないようにします。」
真顔でそう言ったお父様。若干怖い。
だがしかし私の本心はただ単にごはんもスイーツも同時にたくさん食べたいというただの欲望である。
料理長はやっぱりシェフの方が本職だし好きらしいから本人のためにもその方がいいかなとは思う。
「…祐麻くんとはどうだい?仲良くなったかい?」
「はい。ゆうまくんとはおともだちになれました。」
「うんうん。一生そのままの関係でいてね。」
「…。」
お父様、もはや何も言うことができません。
「そういえば、ゆうまくんにはこのまえうまれたばっかりのおとうとさんがいらっしゃるらしいですよ。わたしもあってみたいです。」
「弟さんか。確か拓麻くんという名前だった気がするけど…今度は天道家に遊びに行くといいよ。天道家の奥さんは優しくていい人だからきっと華流羅ちゃんも仲良くしてもらえるよ。拓麻くんにも会わせてもらえるよ。」
「ぜひいきたいです!たのしみですわ!」
「そうだね…。」
どこか浮かない顔をするお父様に首を傾げていれば、執事さんがデザートを出してくれる。
今日はフランボワーズのゼリーらしい。ゼリーの上にはライチの果実がちょこんと乗っかっている。
ううーん、おいしそう。
私が脳天気にゼリーを堪能していたら、お父様がもごもごと口を開く。
「その…華流羅ちゃんは、弟とか妹とか欲しいのかい?」
顔色を伺いながら言ってきたお父様に思わず手に持っていたスプーンを落としてしまう。
ごめんなさい行儀悪くて。だけどそれどころじゃなかった。
「お……おとうさま…あたらしいおよめさんが、ほしいのですか?」
「え?!いや!そんな事は全然ないよ!というか本当にあり得ないよ!」
「そう、ですか…。」
少しだけホッとして、ふかふかの肘掛け椅子に体を沈ませる。
お父様が私の方に回って私を優しく抱き上げる。
「ごめんよ、華流羅ちゃん。君にそんな顔させるつもりは無かったんだ。安心して、君が嫌なことは絶対しないし、僕も結婚するつもりは一切ないよ。」
「おとうさま」
お父様の首に腕を回して、抱きつく。
ああ、なんで私は嫌な娘なんだろうか。
眉毛を下げながら寂しげな表情で私を見つめるお父様に罪悪感が湧き上がってしまう。
ダイニングにいた執事さんやメイドさん達が心配そうに私を見てくる。
一瞬、お父様がお母様のことを忘れようとしてるのかと思った。
お父様は私の背中をポンポンと優しく叩きながら壁際にあるソファーに腰掛け直す。
「ただね、いつも家で1人で寂しいかもしれないと思ったんだよ。せめて兄妹でもいればよかったのにね。」
「さびしくなんかないです。メイドさんも、しつじさんも、りょうりちょうたちもいますし、おともだちもできましたし、おとうさまがまいにちあってくださるので、ぜんぜんさびしくなんかないです。」
「そうか、そうか。じゃあまた祐麻くんも呼ぼうね。」
「…はい。」
ああ、なんて、なんて私は、子供なんだろう。
ごめんなさい、お父様。
本当は私は4歳なんかじゃないんです。
天才なんかでもなんでもない、ただ前世を覚えてるだけのずるい人間なんです。
なのにこんなにも、子供なんです。
ごめんなさい、お父様。