クロノスゲート 8話
「冥界の扉によりバトルフェイズは終了だ。俺のターン、ドロー」
「く、お、俺のグランシャトーが負けるわけ……」
残念だがミゲル。この勝負、俺の勝ちだ。
「俺はマジックカード『時の逆戻り(タイム・バックロール)』を発動。場に出ているモンスター1体を過去の姿へと逆戻りにさせる」
「ぐっ……」
黒帝王グランシャトーは、時を遡り、かつての若き武神、『黒帝グランディ』へとその姿を変える。戦闘力2800。体力3。それでも十分強い。これでもアリアが勝つのは難しいだろう。
だから、俺はさらにカードを抜く。
「俺は手札より、『緋色の指輪』を発動する。『炎髪騎士アリア』は、『灼髪の天空騎士アリア』へと進化する。勇者族のなかでも最強を誇るモンスターだ。
白い羽根を背中から広げる。羽からも炎を浴びるその姿はまるでフェニックスである。炎のような髪は、きらきらと紅く光を反射して煌めいている。序盤で反抗的だった態度は一体どこへ行ったのか。
嬉しそうに満面の笑顔を振りまいていた。
「灼髪の天空騎士アリアだと……。まさか、そんな……。戦闘力、……さ、3400」
体力は4。能力は、相手モンスターを攻撃した時、体力を3削り、破壊した場合、相手モンスターの戦闘分のダメージを相手プレイヤーにも与える。
「く、くそ、何か対処するカードは……」
「灼髪の天空騎士アリアの攻撃。閃空のライジングブラストバーン」
「黒帝グランディ爆殺」
「お、お、おお、お、おおお、俺が負けた……この俺が……」
周りで輝いていた光が急速に失われていく。バトル終了ってことだろう。思ったよりも手こずってしまったが、とりあえず勝てて良かったところだ。
「ミゲルが……」
「負け……た……?」
「嘘だろ」
へたり込むミゲル。取り巻きの連中はミゲルが負けたことが信じられない様子だった。ま、確かに強かったよ。けど俺がいつも戦ってた奴のほうがもっと強かったはずだからな。
さすがに負けるわけにはいかねーよ。
「じゃあ、ミゲルだっけか。さっき言った通り、『機械仕掛けの城下町』は返してもらうぞ」
「うぁい……」
よっぽど負けたのがショックだったのか。へたり込んだまま、ミゲルほ聞いてるのかいないのか。とりあえず言われた通り、少女のカードをすんなりと渡してくれた。
「よくやったな。いやー勝てると思っていたぞ」
エレーナが開口一番そんなこと言い出した。嘘つけ。誰より一番止めにきてたぞ。
「あれはだな。お前のバトルへの意気込みを奮わせてやろうとしてだな」
「あ、あの……」
「ん?」
カードを奪われた女の子も、俺のそばに来ていた。手を前にして、ふるふると何やら震えていた。
「おう。取り返してきたやったぞ。大事なカード」
俺は『機械仕掛けの城下町』をすぐさま渡してやる。確かにめっちゃレアカードであるので、俺も欲しかったりする。でも、大事にしてるカードはちゃんと返してやらんとならんしな。
「あ、あり……ありがとぅ……ぅぅあっ、ぅああぁぁん……」
「うわ、何で泣き出してんだ」
「まぁまぁ、それほど嬉しかったのだろうさ」
※
「素晴らしい魔力だ。エネルギーに満ち溢れている」
「まさかミゲルが負けるなんてね」
グレーのブレザーに身を包む生徒たちが、ある教室にて顔を合わせていた。
「意外か?」
「えぇ。だって強かったじゃない?」
「おいおい。そりゃ一般生徒からしたらだろ? 所詮は生徒会に入れなかった落ちこぼれでしょうよ」
女生徒の警戒に対して、足を机に乗せて後頭部で手を結ぶ男は、シルエット通り、調子が軽い様子だった。
「ジャバ。確かに君の言うことも分かるよ。だけど、そのミゲルが負けるなんてことも、今まであり得なかっただろうしね」
「だーかーらー。俺らよりクロノスゲートが強いなんてことはあり得ないわけよ。一体何をビビってんの? とても序列3位の方のお言葉とは思えないね」
「おいジャバ。アグレアさんに向かって失礼じゃないか」
「おー怖い怖い。氷の女王たるナギサ様も、アグレアさんのこととなると、熱くなるのか」
ジャバと呼ばれた男が女生徒の一人を茶化すと、ナギサと呼ばれた女生徒は机をバンッと力強く叩いて殺気を放つ。
「……ズタボロにされたいようだな」
「あぁ? 女が俺様に何だって?」
今にも殴り合いが始まりそうなか、止めたのはそれまで終始黙っていた男子生徒であった。
「ジャバ、ナギサ。やめておけ。時間の無駄だ。アグレアさんの気はそこまで長くない。まぁ、まだ騒ぐと言うなら、俺が黙らせてやるが?」
「面白ぇ冗談だな、ナヴァル。いいぜ来いよ。ぶちのめしてやるよ」
「待て。まずは私が相手だろう」
止めるどころか、さらにバチバチと火花を散らす。
「ったく、ここにはガキしかいねーなー」
「あぁ?」
「はいはいそこまで。元気にはしゃぐのはいいけど、私よりもファブルさんに見つかると怒られますよ?」
ファブルという名を出すと、飛び火していた火花はピタッと止んでしまう。
「なんやなんや。ファブルさんの名を出してた途端に静かになってしもうて。じゃあ俺がいっちょ……ぐぼっ」
「はいはい、空気を読めないデルトラは置いといて、本題を話しますよ」
バチバチとした雰囲気を楽しんでいたデルトラという漢は、アグレアに頭を机に叩きつけられて瀕死になっていた。
「集まってもらったのは他でもないんだ。……教団が動きがあったとのことだよ」