クロノスゲート 6話
「なんだハッタリか」
「いいや違うね。モンスターが破壊され、同ターンに直接攻撃を受けた時に発動。ジョーカーカードオープン『時止めウォッチ(タイムストップウォッチ)』
「なんだそりゃあ……」
「このカードは発動後、相手のターンで数えて2ターン目終了時まで、相手の場に出ているモンスターは、攻撃宣言を封じられる」
「なんだとっ!」
「まだ終わってないってこった」
確かに終わっていない。だが、2ターンで場を整えなければ俺の負けだ。
「ターンエンドだ」
ミゲルがエンドを宣言する。
奴の場には、呪われたメリーさん戦闘力2000と、双子のゴブリン戦闘力1500。そして伏せカード2枚にジョーカーが1枚。
「俺のターン、ドロー」
形勢は不利。ここらで引くしかない。
「……」
違う。だがやりようはある。
「俺は『時の機械兵士』を召喚する」
戦闘力は1900。氷原の大地により1600。体力は1。これでは勝てない。
「時の機械兵士の能力を発動。次のターンに、複製となる時の機械兵士を召喚する。このターンはカードを伏せてターンエンド」
「ドロー。新たにモンスターを召還。『勝手に奏でるピアノ』を召喚」
戦闘力1250だが、氷原の大地により950へとダウン。そして体力3のカード。戦闘力は大したことないが、このカードの能力は確か……。
「勝手に奏でるピアノの能力を発動。デッキから『偉大なる音楽家 ベードゥン』を冥界へと送る。偉大なる音楽家 ベードゥンが冥界に存在する時、勝手に奏でるピアノは体力を1削る。さらに体力が残り2になったピアノは能力を発動。偉大なる音楽家ベートゥンを召喚する」
勝手に奏でるピアノのカードが横向きになるが、偉大なる音楽家ベードゥンが召喚されてしまう。戦闘力2550。氷原の大地で2250だ。体力は2。速攻召喚コンボかよ。
「さらにベードゥンの能力を発動。場に存在する時、勝手に奏でるピアノの体力を1回復する。その際、勝手に奏でるピアノは能力発動。『偉大なる音楽家 カッカ』をデッキから冥界へと送る」
勝手に奏でるピアノの冥界から召喚する能力、『黄泉帰り』は、ワンターンに1回しか使えない。だが次のターンで確実にカッカを召喚するはずだ。
カッカは戦闘力2800の上級モンスター。カッカを召喚したほうが有利に事を運べるが、カッカの召喚には条件がある。おそらく次のターンに仕掛ける筈だ。
「ターンエンド」
「来い。俺のターン、ドロー」
よし。来た。
「俺は、時の機械兵士2体の能力を発動する」
時の機械兵士は自軍の場に出ている数に応じて能力が変わる。2体が場に出ている場合の能力は、デッキからクロノスカードを1枚引くことが出来る。
「デッキから『千年鎌』を手札に加える」
「千年鎌だと」
「あぁ。俺は『死に神見習い』を召喚して、『千年鎌』を発動。デッキから『緋鎌の白き死神を召喚」
戦闘力2700。体力3の上級モンスターだ。真っ白い髪。真っ白い服を着た少女。薄幸な印象と反対に、真っ赤に染まった緋い鎌が印象深い。まだまだ死に神として非情に成り切れていない心優しい死神である。
それでも強さは折り紙付きだ。氷属性でもあるので、『氷原の大地』により戦闘力は3000となる。
「『緋鎌の白き死神の能力。相手のモンスターの体力を1ずつ削る。
呪われたメリーさんの能力は攻撃にしか反応しない。能力による削りなら無効化はできず、すんなりこちらの攻撃は通る。
「呪われたメリーさん、呪殺っ!」
メリーさんはその身を崩しながら消滅した。
「『緋鎌の白き死神の攻撃。勝手に奏でるピアノを狙え」
緋い鎌を振りかぶり、白い死神が襲う。勝手に奏でるピアノは体力1となり、すぐにはカッカを召喚出来ない。
「ターンエンド」
「ちっ」
ミゲルは静かにドローした。考えている。次のターン、『緋鎌の白き死神が能力を発動すれば、勝手に奏でるピアノ、そして双子のゴブリンまでもが破壊されてしまう。そうなれば、戦闘力で負けているベートゥンのみ。一気に形勢は逆転となる。
「偉大なる音楽家 ベートゥンの能力。勝手に奏でるピアノの体力を1回復する。そして伏せカードオープン『禁じられた時の鎖鎌』を発動する」
「っ……」
「気付いたか? こいつは、場に出ているモンスターを選択。選択されたモンスターの体力1奪い、能力を封じるマジックカードだ」
これで一網打尽はできなくなった。
「さらに伏せカードオープン。『エリーゼのために』」
「エリーゼのためにだと。ミゲル、貴様……」
エレーナが驚愕する。
「何ですかエレーナ先生。何も不思議なことはないでしょう?」
「それはイベント限定のカード。私の記憶が正しければ、貴様には渡されていない筈だが……」
エレーナは、ミゲルの入手経路に疑念を覚えているようだ。だがそれよりもだ。このタイミングで『エリーゼのために』を使われる方がよっぽど厄介だ。
「エリーゼのために。勝手に奏でるピアノ、もしくは音楽家モンスターが場に出ている時に発動可能。効力は、冥界にいる音楽家モンスターの能力を、場に出ているモンスターも使えるようになる」
「ちっ……」
奴の狙いは明白だ。『偉大なる音楽家 カッカ』の能力をベートゥンもしくはピアノに付与することが出来る。
「ベートゥンに能力付与。そして、カッカの能力。場に出ている音楽家モンスターの数✖️500ポイント分、戦闘力をあげる」
つまり、ピアノとベートゥンの2体分、1000ポイント戦闘力をあげる。
ピアノは1950。それは大したことないが、問題はベートゥンだ。ベートゥン戦闘力3250。緋鎌の白き死神の戦闘力を上回ってしまった。
「ベートゥンの攻撃。運命の雷砲」
緋鎌の白き死神は体力を1失う。まだ健在だが、体力は残り1で、戦闘力で負けてしまっているのがまずい。おまけに能力も封じられてしまっている。
「さらに、勝手に奏でるピアノで時の機械兵士を攻撃」
「くっ……」
時の機械兵士は1600。ピアノの戦闘力1950。その差、350のライフを失う。さらに時の機械兵士は数を増やす分、一体がやられると、ライフは減らないが連鎖的に数を減らしてしまう。
これで俺の場には緋鎌の白き死神しかいなくなってしまった。