クロノスゲート 5話
よし。良いカードがきた。
「アリアの能力を発動。体力が残り1の時、相手のモンスターを攻撃して体力を1奪うことができる」
「だが、まだメリーさんは死なねぇ」
「分かってるよ」
ミゲルがメリーさんのカードを横に向けたのを確認すると、俺はさらに手札からカードを選ぶ。
「俺はカードを1枚伏せて、クロノスカード『真炎の魔術書』を発動する。これで赤髪騎士アリアは、炎の魔術士の能力をも得て、『炎髪騎士アリア』へと進化する」
炎髪騎士アリア。戦闘力は2500。体力2。これで優勢にはなった。
「アリアの攻撃。ライジングブラストバーン」
「呪われたメリーさんの能力発動。攻撃対象となった時、攻撃するモンスターの体力を奪ったうえで、無効にする」
「……くそ」
なんて能力だ。だが、この能力は召喚されて1回しか使えないはず。俺はアリアのカードを横に向けた。
「俺のターン。ドロー。ちっ」
確かにミゲルはなかなかやる。モンスターの能力をうまく使って立ち回っている。だが付け入る隙はあるはずだ。
「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」
戦闘力はこちらが上だ。やはり攻撃はしてこない。今が攻め時だ。
「ドロー!」
さっさとメリーさんを片付けるか。
「俺は『氷狼フェンリル』を召喚する」
雪山ではなく、絶対零度の氷の世界で生き抜く孤高の狼。銀の毛並みを揃えた氷属性の戦闘力1850。体力3のモンスターだ。
「さらに、マジックカード。『氷原の大地』を発動。氷属性のモンスターは戦闘力300アップ。また氷属性、炎属性以外のモンスターの戦闘力を300ダウンさせる」
呪われたメリーさんは闇属性。これで戦闘力は2300から
2000にダウンだ。アリアは2500。フェンリルは戦闘力がアップして2150。フェンリルでも倒せる。
メリーさんは能力ももう使った。伏せカードが気になるが、ここで攻める。
「フェンリルの攻撃、孤氷の咆哮」
「させるかぁ! 伏せカードオープン」
やはりカウンター系の伏せカードか。
「ジョーカーカード! 『門番ピエロ』!!」
「なっ、ここでジョーカーだと!」
てっきり手前に伏せた1枚のカードかと思ったが、ゲーム開始時に配置されていたジョーカーカードを使いやがった。ジョーカーは相手の攻撃宣言が基本の発動の条件になるものが多いカード。それだけでなく、いくつかの難しい条件をクリアせねばならず、その分形勢を逆転しやすいカードだ。
「体力1の闇属性カードが攻撃対象にされたとき、門番ピエロは発動する。門番ピエロは、相手の攻撃をそっくりそのまま跳ね返すカードよ」
「なん……だと」
メリーさんの前に、舌をを出したピエロが大きな黒い扉の上に上半身だけ乗っていた。ヒャハハハとピエロが嗤うと、フェンリルのブリザードは扉の向こう、亜空間へと消え失せる。そのまま、ブリザードがフェンリルへと襲う。
氷狼フェンリルは自らの攻撃を浴びてやられてしまう。
「ち……」
氷属性の筈のフェンリルが氷漬けにされて消滅されられてしまう。フェンリルは体力3もあるはずなのに。
「門番ピエロは攻撃したモンスターの戦闘力分のダメージを攻撃したプレイヤーの全モンスターへと跳ね返す。その戦闘力より低いモンスターはどれだけ体力があっても破壊されるって寸法だ」
さすがジョーカー。なんてカードだ。なおも残っている門番ピエロを見据えると、ヒャハ、ヒャハハハッと笑っては、アカンベェをして消滅した。
「俺はカードを1枚カードを伏せてターンエンド」
「そろそろライフを削ろうか。俺のターンドロー」
ライフはほぼ互角。確かに攻防に負けはしたが、炎髪騎士アリアがいる限り問題はない。
「いくぜ。俺は『双子のゴブリン』を召喚」
戦闘力1800。体力2。闇属性のモンスター。氷原の大地により、戦闘力1500となる。
「双子のゴブリンの能力。双子のゴブリンは、場に出ているモンスターの能力をもう一度使うことが出来る」
「な……」
ってことは、メリーさんの能力が復活したのかよ。
「そして、こいつだ。俺はマジックカード『呪いのワラ人形』を発動。こいつは、自分と相手の戦闘力をワンターンの間入れ替えることができる。つまり……」
ミゲルが言うよりも早く、アリアの戦闘力と双子のゴブリンの戦闘力が入れ替わってしまう。
アリアの戦闘力が1500。対してメリーさんは2000。双子のゴブリンが2500。
「アリアに攻撃。ダブルグラビティプレス」
アリアはもう体力1しかない。やらせるわけにはいかない。
「伏せカードオープン! カウンターマジック『龍王の盾』。これで、アリアへの攻撃は無効と……」
「ならばこっちも伏せカードオープン!」
「なっ……」
「『時代遅れの魔術士』! そのマジックは無効だ!」
「ぐっ……」
ミゲルが高々に宣言する。俺のマジックカードは破壊される。そしてアリアは双子のゴブリンに破壊される。メリーさんが、その剣で俺を一突きにする。
「アリアを圧殺ッ!! そしてメリーさんの攻撃」
「がっ……はっ」
一瞬殺されたかと思った。実際死ぬほどではないものの、痛みは本物だ。二度と味わいたくない痛みである。
アリアが破壊されてライフを1000削られる。そして、プレイヤーへの直接攻撃で、さら2000のダメージを負う。
俺の残りは2000。ミゲルのライフはまだ4900もある。
「見ろ。やはり無理だったんだ」
エレーナが狼狽る。
「はっはっは。やはり俺に挑んだのが間違いだったんだよ。俺の勝ちはもう決まったも同然だな」
ミゲルが勝ちを確信して高笑いをあげる。
「ふっ」
ミゲルだけじゃない。まるで俺が負けるのが決まったように狼狽するエレーナにも向けて、俺は笑みを浮かべて言い放つ。
「そいつはどうかな」