クロノスゲート 4話
新しく引いたカードを合わせて、手札を眺める。あまり良い手札とは言えないが、やりようはある。さて、どうやって攻めてやろうかな。
「俺は手札から、『赤髪騎士アリア』を召喚」
ミゲルに倣って、俺も光るテーブルにカードを据え置く。すると、燃えるような赤い髪を揺らして、銀の鎧を身に付けた美麗な女騎士が出現する。青いスカートを履き、およそ騎士にしていは防御面が心配だが、そこはカードゲームの世界なのだから常識は通用しない。
「ん?」
赤髪騎士アリアは戦闘力1900。体力は2。呪われたフランス人形にはまず負けない上級カード。ホラースプラッタ的なフランス人形に恐れを抱きそうになるところ、アリアを召喚すると心強い。そう思っていたところ、何とアリアが振り向いて剣を振りかざす。
「おわっ、危ねぇ!」
バタバタと四足になりそうになりながら、逃げまどう。俺のモンスターなのに、いきなりルールを無視して俺に斬り掛かるとは一体どういうわけなんだ。
「な、なんだっいきなりっ!」
訳も分からず吠えると、アリアはむしろ俺以上に怒り心頭で、剣から真っ赤な炎を滾らせる。人型なわりにしゃべるわけでもないから、何をキレているのか全く分からん。
「怒ってるのよ」
「は? いや見たら分かるよ」
エレーナが冷静に分析する。だが、言葉通りそんなことは分かっている。知りたいのは怒っている理由である。
「あなたがアリアを差し出すと言って賭けの対象にしたのが気に喰わないのでしょうね」
「そういうことかよ」
なるほど納得。確かに賭けにされたら面白くはないわな。でも、俺はアリアに向かって言い放つ。
「勝手に賭けに使ったのは悪かったよ。でも、何も奪われていいと思ってるわけじゃねぇよ。勝てばいいんだからな」
いつも戦ってきたアリアに向かって笑みを浮かべる。アリアは何も話さない。でも、しかめっ面ではあるものの、ゆっくり振り向いて本来の敵と対峙する。きっと納得してくれたのだろう。俺はそう信じることにする。
「いくぜ。カードを一枚伏せて、アリアでフランス人形を攻撃」
「待たせやがって」
戦闘力はこちらが上。だがミゲルは全く攻撃されることを恐れていない。まぁそうだろうな。
「ライジングブラスト!」
呪われたフランス人形はそのまま、アリアの燃え盛る剣にて真っ二つにされてしまう。
「いや……」
呪われたフランス人形は体力2。体力を1つ失ったモンスターはルール通り、カードを横にして体力を失ったことを示す。そしておそらく……。
「呪われたフランス人形の能力を発動。体力が残り1になったとき、デッキから戦闘力2000以下の魔族モンスターを1枚手札に加える。そしてさらに、呪われたフランス人形を攻撃したモンスターは、呪いにより戦闘力が1000ポイントダウンする」
「アリアの戦闘力が900だと!?」
デッキからカードを引く能力は知っていたが、微妙に俺の知っているモンスターカードと違うっていうのか。
「バトルフェイズは終了したな」
「ちっ、ターンエンドだ」
まずい。一気に形勢が不利になってしまった。
「俺のターン、ドロー」
ミゲルが勢いよくデッキからカードを引く。そのカードを確認すると、こちらにも分かるように、にやりとうすら笑いを見せる。
「きたぜ、やはり俺は強い。クロノスの神に選ばれている」
(あの喜び様、一体何を引いたってんだ)
「俺はクロノスカード、『振り子時計の舞』を発動。これにより、呪われたフランス人形は時を超えて『呪われたメリーさん』になる」
「フューチャー召喚か!」
エレーナが驚く様に告げる。ミゲルはデッキから『呪われたメリーさん』のカードを抜き取り、フィールドへと叩き付ける。
クロノスゲートの基本戦法である。フィールドに出ているモンスターをクロノスカードで時を操り、新たなモンスターを召喚する。
怨念を残したまま蓄積された恨みは、有名なメリーさんへと変貌する。ヒビもなくなり、綺麗なフランス人形へとその姿を変える。だが変わったのはそれだけではない。
アリアにも負けない透き通るような剣を手に持ち、その体からは怨念として紫色のオーラを帯びていた。
戦闘力2300。体力は2。まださっきのようが可愛いくらいだ。
アリアの戦闘力は呪いで依然900。このままではアリアはやられてしまう。
「さらに俺は『月の宇佐耳を召喚する』」
戦闘力1600。体力1のモンスター。サングラスをかけて餅つきの杵を持った白い兎が現れる。ぴょんぴょん飛んでその身軽さを誇示していた。
「月の宇佐耳の攻撃。ムーンライトハンマー」
アリアがやられたらほぼ俺の負けだ。
「くっ、伏せカードオープン! カウンターマジック『紅魔の石』」
紅魔の石は炎属性のモンスターの戦闘力を800ポイントあげるマジックカードだ。
「迎え撃てアリア。月の宇佐耳を斬殺っ!」
月の宇佐耳の戦闘力は1600。アリアの戦闘力は900に800プラスで1700。そして、月の宇佐耳の体力は1。そのまま撃破した月の宇佐耳はそのまま冥界のセメタリーへと置かれる。撃破した分、ミゲルのライフも5000から100マイナスで4900となる。だが、たいしたダメージにはなっていない。
「ちっ、だが俺の攻撃はまだ続く。呪われたメリーさんの攻撃。ソウルド・スピア!」
「くっ」
対処方法がない。アリアもダメージを受けて残り体力は1となり、俺はアリアのカードを横に向ける。
戦闘力2300のメリーさん。まずはこいつを何とかしないと。
「俺のターン。ドロー」