クロノスゲート 9話
「き、記憶喪失ですか?」
「あ、うん。そうなんだ」
バトルが終わった後は、エレーナに連れられて保健室に戻った。保健室に駆け込んだ生徒は、エレーナによって人払いでさっさと追い返されたようだ。今いるのはエレーナと、カードを取り返してやった女生徒のみである。
詳しい事情が分からないため、色々情報収集してみるが、やはり俺は記憶がすっぽり抜けてしまっている。いわゆる記憶喪失という奴らしい。困ったもんだ。
「ず、随分軽いんですね」
「いやーと言っても、ほとんど覚えてないから。戸惑いはあるけど、まぁこっからやり直せればいいかーって感じかな」
「そ、そうですか」
目の前にはカードを奪われた少女。名前はライカ。ライカ・オブミリア。人見知りする性分なのか。話せるようになると、大人しい印象もすっかり殻を破ったように感じる。
「何も覚えてないのですか?」
「まぁクロノスゲートはめちゃめちゃやってたなってのと、名前かはまだ分からないけど、カイって呼ばれてたような感じはあるかな」
「そうなんですね。えと、じゃあカイくんと呼べばいいですか」
「おう。そのほうがありがたい」
カードを取り返したからというのもあっただろうが、少し距離が縮まったように感じた。ちょうどその時、エレーナが声を発する。
「少しいいか?」
「うん?」
保健室の机に安置している薄型のパソコンをカタカタといじくっていたかと思うと、視線を寄越してエレーナが立ち上がった。冷静に努めているが、何処か血相変えた片鱗が見られる。
「貴様のカードを一部照合したが、該当者がいない」
「いない? いや、照合?」
俺がエレーナの言葉を反芻するも、いまいち理解できないでいた。
「いないってどういうことですか? カイくんは現にここに……」
「そうか、名前は思い出したか。他に思い出したことは?」
「いや特には」
エレーナが神妙な顔つきで考え込む。まさに考えるひとだった。
「おそらく、貴様は異なる世界から来た異世界人だ」
「は?」
「えぇ?」
やっと再び口を開いたかと思うと、エレーナはとんでもないことを口走った。
「大丈夫か?」
「人を憐れむような目で見るんじゃないっ!」
エレーナがくわっと目つきをつり上げて怒りを露わにした。鬼のような4形相が一瞬見えたので、怯んでしまう。
「……私のじーさんからきいたことがあってな。お前と同じように、気付いたらこの世界にいたと言っていた」
「え、それって……」
ライカが隣で驚いた声をあげる。エレーナの言葉に耳を疑ったのは俺も同様だ。
「つまり、エレーナのじーさんも異世界人ってことか?」
「あぁ」
エレーナが話す異世界の存在。また、記憶がない俺がそうだと言われても実感などあるはずもなかった。
「まぁ、言葉も通じるし、クロノスゲートも知っている。異世界から来たこと自体はさして問題はないだろう」
「なんだ。問題ないのか」
「いや、異世界から来たこと自体は……と言っただろう」
「?」
今度は何だと言うのだろう。まぁ異世界から来たということ以上に驚くことはないだろう。そう身構えていたのだが、エレーナはまだ何か言いたげな様子だった。
「何だよ、何があるんだ?」
「ライカ・オブミリア。君ならある程度予測がつくのではないか?」
「……この学園の規定、クロノシストランクですよね?」
エレーナの言葉に促され、ライカも思い出したように目を見開く。神妙な顔つきとともに出てきた言葉は、やはり俺が聞き慣れないものである。一体どういうことなのかさらなる説明がほしいところだ。
「この学園……というよりこの世界の構築と言ってもいいかもしれない。この世界は魔力に満ちており、クロノスカードとともに生きているんだ。デッキが身分証明となっていると言ったほうが分かりやすいかもしれんな」
「マジか。まぁ俺からしたら……」
全く知らないカードゲームなら辛いところだが、よく知るクロノスカードであるなら、俺にとっては願ってもないことじゃないだろうか。そんな風に考える俺を遮るようにして、エレーナは否定する。
「ゆえに、クロノスカードの強さがそのままその人間の生きる強さに直結している。イカサマなんて可愛いもんだ。クロノスカードによる犯罪件数は年々増加しているほどにな。そしてこの学園は……クロノスカード養成施設、都内でも最大、最強を誇る学校、いや学園都市にあたる」
「ここが……クロノスカード最強の学園都市……」




