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魔王軍のアウトサイダー  作者: 海月くらげ
17/23

絶望

今年もよろしくお願いします

 魔導国カサンドラの路地裏、フードを深くかぶったとある人物の姿があった。この国における魔法以外の戦力である「正規軍」、その中でも若くして隊長クラスまで上り詰めた「エリン」であった。しかし、かつての面影はなく、その表情は暗く落ち込み、目の下には隈ができ、生気のない目で路地裏をあてもなくさまよっている。そのアンデッドのような見た目に通りがかる人々は恐怖し、遠巻きに眺めている。

 エリンがこうなっているのは理由がある。国の期待に応えられず、部下は1人を除いて全滅。責任を取るために処刑されそうになりそこを転生者ライトになんとか救われたものの軍はクビに。毎晩死んでいった部下に恨みつらみを吐かれ続けられるという悪夢を見続けている。唯一の心の癒しであり始めて恋心を抱いた人物でもあるライトは知らぬ間に新しい女性を連れていた上にいい雰囲気になっていた。

 部下をいたずらに死なせ、誇りだった軍はクビに、恋慕の情を抱いていた相手は別の女性といちゃつき、エリンの心は既に立ち上がれないほどボロボロになっていた。食べたものを胃が受け入れずに吐き出し、日に日に痩せこけていく。エリンの中に既に生きる気力はなかったが友人や仲間の善意、そして奥深くに眠る本能がエリンに死ぬこと(それ)を許さなかった。

「(なぜ・・・私は生きているんだ・・・)」

 エリンは生気のない目で表の通りを見る、映る景色は幸せそうに歩く家族、いちゃつくカップル、活気溢れる人々、気づけばその目に涙を浮かべ、声も上げずに泣いていた。なぜ自分はあそこに居ないのか、なぜ自分はこんなに不幸なのか。そうだ、こんなに世界に絶望しているなら、こんなに生きる意味を見出せないのなら、こんなに悲しいなら、楽になろう(自決しよう)、そう思いながら目をつむった。


 最初に変だと思ったのは喧騒が聞こえなくなったことだった、恐る恐る目を開けると見知らぬ建物の中だった、調度品やらを見ると貴族の屋敷だろうか、そこのホールにエリンは居た。突然のことではあるが、全てに絶望しているエリンは特に反応を示さなかった。

「ワープさせてきたってのに反応薄いな、ええ?おい」

 知ってる声が聞こえてきた、目を向けるとそこには自身を痛めつけ部下を殺した諸悪の元凶「レクター」とその従者「マリア」が居た。しかしエリンにとっては既にどうでもよかった。むしろ自分を殺してくれるのかと期待していた。レクターがこちらに近づいてくるのを確認すると目を閉じ、終わり(それ)がくるのを待っていた。しかしレクターは自分の望んだそれをいつまでたっても与えてこない。エリンはレクターを冷酷で残忍で子供っぽいという認識を持っていたので不思議におもった。

「おい、目を開けろ」

 その言葉通りに目を開ける。

「はは。転生者サマってのは随分とひどいもんだなぁ。作戦失敗して、大量の部下を失ったやつに(救い)を与えてやることもしねーってのは」

 エリンは黙って聞く。

「全部観ていたからなあ。勝手に救って、自己満足して、あとは女といちゃついて、笑えるなあ。その救ったやつが自分のことを好いてるとは思いもしないもんなあ」

 エリンは黙って聞く。

「でもな、俺はテメーの気持ちはわかる」

 顔をレクターの方に向ける。

「俺もな、昔似たようなことがあった。自分の研究に誇りを持っていた、有用性も解いた、でもやつらはそれを踏みにじった、何度もな。好意を抱いていた女も、見せつけるように男とベタベタしていたよ」

 レクターが言葉を紡ぐたびにエリンは安心感に似た何かを感じていた、自分だけじゃない、この感情を理解してくれるという仲間意識のようなものが芽を出した。全てに絶望していたのも手伝って自分が苦しんでる元凶がレクターだということすら考えられなかった。

「だから、俺の下につけ。壊そうじゃねぇか、ムカつくもん全部」

 今のエリンに断れるはずもなかった。

 __________________

 魔族領と人間の領地の狭間、両陣営が激しくぶつかり合う最前線。押し込まれ気味だった魔族側はビッグジョーの指揮によりなんとか押し戻していた。指揮をとってるビッグジョーの元へ1人の魔族が慌てた様子で飛んでくる。

「でっ、伝令っ!ビッグジョー様っ!緊急の伝令ですっ!」

「だー!聞こえてるから叫ぶな!まだそこまで年いってないわ!」

「し、失礼しました。それよりビッグジョー様、偵察隊からの伝令です!最前線(こちら)に向かってくる人間の増援の中に転生者の姿を確認したとのことです!」

「・・・わかった、至急魔王にこのことを伝えろ、ゴーレムと機械兵の増産もだ。偵察隊は命をかけてギリギリまで情報を送れ」

「り。了解しました」

 伝えに来た魔族は大急ぎで飛んでいく。

「老人の感というか、嫌な予感がする」

絶望を焚べよ

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