95話
薄ら笑いを浮かべるバルドルを護るように、ローランはミナミと光の前に立っていた。
「何でこいつがここにいるんだよ…… 」
「誰? 知り合い? 」
抱き抱えられたままミナミが光を見上げると、眉間にシワを寄せた光は軽く首を振る。
「そんな可愛いもんじゃねぇよ、翔子を殺そうとした光奴だ。 だけど…… 」
様子が変だと光は口にした。 目は虚ろ、口は半開きでよだれを垂らしている。
「オマエハイラヌ。 キエロ 」
そう言うとローランは、ミナミと光に殴りかかってきた。 光はミナミを抱えたままローランを飛び越えてかわすが、ローランもすぐに反転して光達に殴りかかる。 左右に飛び逃げながらローランの攻撃をかわし、光はローランの隙をついて脇腹に回し蹴りを入れて吹き飛ばした。 ローランはガラスを突き破ってテラスに転がっていく。
「やるぅ! 強いね君…… 」
「があぁ!! 」
ミナミが光を褒めた瞬間、鈍い音と共に光は仰け反った。 ミナミも光もろとも壁まで突き飛ばされるが、ミナミが光を突き飛ばして二人は激突を免れる。
「大丈夫!? ヒカル君! 」
「ってえよ! 背中は反則だろ! 」
光の心配をするのも束の間、ミナミを一人の光奴が襲う。 ミナミはタイムストップを発動して光奴の足を払い、顔を蹴り上げて吹き飛ばし光に駆け寄った。
「どいつもこいつも正気じゃねぇ! なんなんだこれ!? 」
ミナミ達を取り囲むのは血のようにドス黒く染まった目の数人の光奴だった。 誰も皆ローランと同じように虚ろな目で、口を半開きにしている。
「ぐ…… うぎゃあひぁぁ!! 」
その内の一人が奇声を上げ、頭を抱えて苦しみ出した。 床をのたうち回り、横にいた光奴の足を掴んで引き倒す。
「な、なんだ? 」
「…… リンクだと思う。 精神が耐えられず崩壊してしまったんだわ 」
「リン…… なんだそれ? 」
光の問いには答えず、ミナミは落ちていた槍を拾って駆け出していた。 襲いかかってくる光奴をすり抜け、真っ直ぐにバルドルへ突っ込み眉間を狙って槍を繰り出す。
「うあっ! 」
寸でのところで横から飛び込んできたローランに撥ね退けられ、腹部を蹴り上げられてミナミは宙を舞う。
「かはっ! 」
生唾を吐いたミナミは、襟首を掴まれて壁に放り投げられた。 咄嗟に受け身を取るも、背中から壁に激突してズルズルと床に倒れる。
「おい! 」
光はミナミを担ぎ上げて横に飛んだ。 ゴシャッと轟音が響く。 ミナミの倒れていた床はローランの追撃で大きくえぐれていた。
「大丈夫か!? 」
「…… うん、なんとか。 それよりもバルドルを狙って! 彼らみんな操られてる! 」
ローランを盾にするように立つバルドルは、微動だにしないどころか、鼻の先まで槍の攻撃があったにもかかわらず薄ら笑いを浮かべたままだった。
「アイツがラスボスなんだな? わかった 」
「ヒカル君、右!! 」
ミナミが叫んだのと同時に光の頬にローランの拳が当たる。 それをものともせず、ローランの体が宙に浮いた。 パンチより速く、光はローランのみぞおちにアッパーカットを打ち込んでいたのだ。
「うぉるあぁぁ!! 」
そのままローランの服を掴み、殴られた反動を利用して一回転しバルドルに投げ付ける。 光も後ろに吹っ飛んだが、バルドルはローランもろとも柱に激突していった。
「このぉ! 」
すかさずミナミは長剣を拾い上げてバルドルに走り込んだ。 光奴が左右から突っ込んできたが、ミナミはそれよりも速く走り抜ける。 勢い良く突き出した長剣はローランの左胸を貫き、後ろのバルドルの頭をも刺し抜いた。
「…… なっ!? 」
ビクンと痙攣するローランを押し退けようとバルドルの手が動く。 バルドルはまだ死んではいなかった。
「くっ! 足りない!? 」
バルドルの額に刺さったと思われた長剣は、切っ先だけが額に触れていたのだ。 ローランの肩口から覗いたバルドルの目が赤く光る。 その手がミナミの喉を鷲掴みにしようとしたその時だった。
「飛べぇ!! 」
背後からの叫び声に、ミナミは長剣を離して反射的に横に飛んだ。 その瞬間、光が長剣の柄目掛けてドロップキックをしたのだ。 突き立った長剣はバルドルの喉を串刺しにし、柱を突き崩してテラスへと飛んでいく。 長剣で繋がれたバルドルとローランはテラスを飛び越え、そのまま城外の森へと落ちていった。
「はぁ…… はぁ…… 」
「ぜぇ…… ぜぇ…… 」
ミナミと光はしばらくテラスを見つめ、お互いの顔を見やる。
「…… やったか? 」
「あれで生きてる方がおかしいわ 」
大きなため息を吐いて二人は床に突っ伏す。 ラスボスを倒し、これで終わったと二人が安堵したその時だった。
ザシュッ
血飛沫が舞う。 光に抱き付くようにミナミが覆いかぶさってきた。 赤い目をした光奴の長剣がミナミの背中を斬り裂いたのだ。
「え? 」
呆気に取られる光にミナミは倒れ込む。 背後の光奴はその背中を貫こうと長剣を持ち替えた。 考える暇もなく光はミナミを抱いたまま飛び退き、側にあった柱の破片を力任せに投げ付けた。 掌ほどの柱の破片は砲弾と化して光奴の肩を打ち抜く。 肩周辺を失った光奴は吹っ飛んで動かなくなったが、胸に抱くミナミもまた動かない。 背中の傷口から流れる血に、光の顔は青ざめていく。
「ミナミ! おい! 」
「だい…… じょうぶ、このくらい 」
ミナミは光の胸にすがり付き、苦痛の表情で大丈夫というが、明らかに意識か飛びかけていた。 似たような状況があったと、ハッと気付いた光は自分の腰ベルトを引きちぎってミナミの腹に巻いて止血をする。
「ヒカ…… ル君、浮翔石を壊さなきゃ終わ…… らない! 」
「ふしょ…… なんだそれ!? 終わらないってどういう…… 」
光の襟首を握りしめ、額に脂汗をにじませながらミナミは叫んだ。
「縦穴に戻って! あなたならきっと壊せる! 」
そうこうしている間にも、別の光奴の剣撃が光達を襲う。 かろうじて剣撃をかわし、隙をついてその場を逃げ出す。 光は考えることを諦め、浮翔石の紫の光が漏れる縦穴に飛び込んだ。




