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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
5章 異世界からの帰還
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94話

「逃がすな! 」


「赤髪! うわあぁ!! 」


 柱の陰から突然飛び出してきたミナミに斬りかかる兵士と、その鮮やかな赤い髪に臆して逃げ惑う兵士が入り乱れる。


「ぎゃぁあ! 」


 ミナミは衛兵の脇をすり抜け様に一撃を入れ、槍を突いてきた兵士の穂先を払う。 態勢を崩した兵士の肩を踏み台にジャンプしたミナミは、螺旋階段の欄干に飛び乗り、兵士の一団を飛び越えて二階へと向かった。


「上へ行ったぞ!! 」


「宰相をお守りしろ! 」


 意表を突かれた一階の兵士と、二階で待機していた兵士の怒声が交じり合う。


「やばっ! 」


 控えていた兵士が予想以上に多く、二階へと続く階段の踊り場でミナミは挟み撃ちにあった。


  うわぁあ!


「!? 」


 二階の奥から突然叫び声が響いた。 壁に面したガラス窓は破裂音と共に砕け、側に立っていた兵士は弾かれたように床に倒れていく。 


「何これ!? 」


 スキルを発動させていたミナミには、それが窓を突き破って飛んでくる石礫だとわかった。 割れた窓から外を見上げると、そこには真っ白な楕円形の物体が浮いていたのだ。


「飛行船!? 」


 その飛行船の真正面から近づいてくる、一つの影。 大きな石が王城目掛けて落ちてきたのだった。


「うそっ! ちょっ!! 」


 ミナミは咄嗟に身を翻して大広間に飛ぶ。 その直後、けたたましい音と共に岩のような大きな石が天井を突き破り、兵士もろとも螺旋階段を押しつぶしていった。


  ドオォォン


「なんだ!? 」


 激しい衝突音と衝撃に、アルベルト達もギルド兵士達も天井を見上げる。 螺旋階段を飛び降りたミナミも、何が起きたか分からずしりもちをついていた。


「な…… 」


 石造りの螺旋階段は跡形もなく崩れ落ちて砂煙を上げ、敷いてあった赤絨毯は散り散りに破れて宙を舞っている。 そこにいる全ての者が思考停止して立ち尽くす中、砂煙の中でうごめく影があった。


「っぷはっ! 翔子ー!! 」


 煙をかき分けて出てきたのは光だった。 光はメレア公主専用飛行船に乗り込み、ローレシア公国から戻っている途中だったのだ。 ファーランド王城の位置がおかしいことに気付いた光は、メレアに頼んで飛行船を近づけてもらう。 その中でガルーダに乗って王城に突っ込んでいった翔子を見た光は、いてもたってもいられず王城に乗り込んできたのだった。




「あーぁ…… ヒカルったら着陸固定用のアンカー持ってっちゃって。 これじゃ私達どうやって下りればいいのかしら 」


 飛行船の窓から、メレアは砂煙の立ち上るファーランド王城を見下ろしてため息をつく。


「着陸は如何様にもなりますが…… これでは我々ローレシアがファーランドを攻撃したと取られかねないかと 」


 脇に控えていたヤナハラもまた額に手を当ててため息を漏らす。


「これもあなたの夢の範疇? 」


「とんでもありません。 こうなることがわかっていたら、飛行中止にしていました 」


 『そうよね』とメレアはケラケラ笑った。 『笑い事ではありませんよ?』とヤナハラも苦笑してメレアを窘める。


「だから会ってみたいのよ。 あなたの予知夢を上回るショウコっていう人物に 」


「前にも申し上げましたが、いささか危険すぎではありませんか? ましてや公主自らがおいでになるのも…… 」


「公主だからこそ、ではなくて? 攻め滅ぼしに来たわけではありませんもの、私以上に国の代表として信用してもらえる立場はないでしょう? 」


「…… それはヒカル君の真似ですか? 」


「ええ、彼のあの堂々とした態度を見習いたいなと思って。 信用って大事よ? 」


 メレアは再びファーランド王城を見下ろす。 しばらくその様子を見つめた後、飛行船の船長に指示を出した。


「ファーランドとの国境に向かって飛びなさい。 そこでショウコを出迎えるわ 」


 船長はすぐに操手に命令を出して飛行船の向きを変える。


「…… 王城はそこに向かっていると? 」


 ヤナハラが質問すると、メレアは『そうみたい』と微笑む。


「元の場所に戻ろうとしてるんじゃないかしら。 歴史書には、あの盆地から城を大地ごと切り取った、と記されているのだから 」




「翔子ー! どこだー!! 」


 着陸アンカーの上に立って、光は懸命に翔子の名前を呼ぶ。 砂煙がおさまってきて赤い髪の頭を見つけた光は、すぐにミナミの元に飛び降りてきた。


「翔子! って、あれ? 」


「派手なお出迎えね。 君が翔子ちゃんの想い人のヒカルくんかぁ…… 」


「うぇ? 」


 『へぇー』と光を見聞するミナミを、背後からギルド兵士が槍を突いてきた。 光は咄嗟にミナミを飛び越え、兵士の眉間に肘鉄を食らわす。


「いい動きするじゃない! ちょっと、こっちきて 」


 ミナミは周りのギルド兵士を瞬時に吹き飛ばし、先行して通路へ走っていく。


「今の日本語だったよな…… 」


 首を傾げながらも光はミナミの後を追い、応戦しているレベッカ達の横をすり抜けて通路を走る。

光の姿に驚くレベッカやアルベルトに構わずミナミの背中を追い、やがて浮翔石のある縦穴へと出た。


「ここ、壁づたいに登れるかしら? 」


「…… あんたを抱えてか? なんの為に? 」


 光は見上げたままミナミに問う。


「ここは王の間に直結してるから、ここから上るのが最短なのよ。 この上にボスがいる…… 指揮しているものを倒すのがRPGの基本でしょ? 」


「あんた、まさか小説のミナミか!? 」


「行ける? 行けない? 」


 握手を求めるようにミナミの手が差し出される。


行く(・・)さ! 」


 微笑みながら問いかけるミナミに、光は頷いてその手を取った。 光はグイッとミナミを引っ張り、一回転振り回して上空へと投げ飛ばす。


「わぉ! 」


 ミナミは空中で反転させ、足を下に向けた時には既に光がそこにいた。 ジャンプして追い付いた光はミナミの靴底に手を当てる。


「上に送る! 先行してくれ! 」


 申し合わせたようにミナミは膝を折ってジャンプする体勢に入り、光はミナミが足を伸ばすタイミングに合わせて砲丸投げのようにミナミを押し上げた。


「ちょっ! 強すぎ!! 」


 勢い余ってミナミは天井の鏡に両手をつき、体を前に押し出して王の間へ飛び込む。 光は一気に天井までジャンプしてその後を追った。


「うぁっ! 」


 ミナミのその声に光が咄嗟に身構えると、弾き飛ばされた剣が光の髪を掠めて壁に刺さった。 突き飛ばされてきたミナミを受け止め、縦穴に退避した途端、目の前の壁が豪快に吹き飛んだ。


「痛た…… なんなのあの子! 」


「!! 何でお前がいるんだよ…… 」


 崩れた壁の向こうには、虚ろな目でミナミと光を見据えるローランの姿があった。

 

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