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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
4章 反旗を翻す者
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83話

 私は再びガルーダの背中に体を預けて、王都を迂回しシエスタのトゥーランを目指していた。


「なんかいいように使われてる気がする…… 」


 愚痴を一つ言ってみたが、ガルーダの翼を扱えるのが私しかいないのだから仕方がない。 シリウスと合流した私とレベッカさんは、昨日マウンベイラに戻れなかったことの顛末と、アルベルト卿の助力があるかもしれないと伝えた。


  是非ともご助力願いたい! 


 説明をしたレベッカさんの手を取り、にこやかにそう答えたシリウスは、アベルコ卿の脱出を最優先に考え自分達の退路は考えず王城で果てる覚悟だったらしい。 シリウス達が王城で暴れたら、きっと王城はすぐに浮上を開始するだろう。 そうなれば退路がなくなるばかりか、10人程のギルド兵士では王城の軍兵には敵わないと知っていたのだ。


  アルベルト卿の私兵は強い


 それは彼が元軍人だっただけでなく、『彼の人望に惹かれて多くの手練れが集まっているのですよ』とシリウスが言っていた。 シリウスだけでなく、彼の部下も口を揃えてそう言っていたのだから、シエスタに集まる戦力は相当なのだろう。 レベッカさんもその一人らしく、シリウス達はみんな敬って挨拶をしてたっけ。


「急がなきゃ…… 」


 戦争になるのは嫌。 でも顔見知りが死ぬのはもっと嫌。 死なせない為なら、私はなんだってすると心に決めた。


「…… 」


 ふと光ちゃんの顔が頭をよぎる。 ステラだかシタラだか知らないけど、今頃仲良くやってるんでしょう。 でも……


  キー


 ガルーダが何を思ってか不意に鳴いた。 きっと私の心を読み取って励ましてくれてるんだといい方向に考える。


「うん、大丈夫。 光ちゃんがいなくても頑張れるから。 いつまでも頼ってばかりじゃダメ 」


 ふわふわしたガルーダの背毛に突っ伏す。 暖かい感触に守られながら、私はガルーダに頑張ってと強く願った。





 あっという間に私はトゥーランの上空に差し掛かる。 馬で急いだにしても約1日掛かるだろうという距離を、たった一時間ほどで飛んでしまうのだからこの子は頼もしい。 アルベルト卿の屋敷の時計塔を掠めるように飛ぶと、見たことのある部下さん達がそれぞれに弓を手に出てくるところだった。 私が慌てて大きく手を降って見せると、弓を構えたままあんぐりと口を開けて呆然としてる。


「ショーコ様!? 」


 一気に中庭に降り立ち、取り囲んで弓矢で警戒する部下さん達の前に飛び降りて私は両腕を大きく広げた。


「撃たないで! この子は私の大事な子だから! 大丈夫だから! 」


「ガルーダを騎獣にしたのか! 驚いたな 」


 部下さんに囲まれながらアルベルト卿がゆっくりと姿を現した。 興味津々な顔は、まるで新しいアトラクションを楽しみにしてる子供みたいでちょっと可笑しい。


「エミリアとアリアから聞いている。 よくぞ無事でいてくれた 」


 近付けて来るアルベルト卿を追い抜いて私に飛び付いて来る女の子が一人。


「おねーちゃん!! 」


 受け止め切れずにしりもちをついてしまったが、私の胸で大泣きするアリアちゃんの頭をそっと抱きしめる。


「ただいま、アリアちゃん。 よかった…… 」


「ショーコ! 無事だったのね…… うあっ!? 」


 エミリアさんも駆けつけてくれたが、首をもたげて様子を窺うガルーダに驚いてアルベルト卿の後ろに隠れてしまった。


「エミリアさんも。 大丈夫、この子は人を襲ったりしないから 」


「嘘でしょ…… 神鳥が人に慣れるなんて聞いたことない 」


「ショーコがそう言うのだ、信じる他あるまい 」


 アルベルト卿は既にガルーダに手を伸ばして喉元をくすぐっていた。 ガルーダもまた目を細めて気持ちよさそうにしているところをみると、とりあえずは警戒していなくて一安心する。


「アリアちゃん、ゴメンね。 私またすぐに行かなきゃならないんだ 」


「えー! 」


 眉をひそめて抗議するアリアちゃんに苦笑いで返してアルベルト卿を見上げる。 アルベルト卿は既に引き締まった領主の顔に戻っていた。 真っ直ぐに私を見つめ、次の言葉を待っている。


「マウンベイラのアベルコ卿を慕う人達と協力して、ファーランド王城に潜入します 」


「監禁されているであろうアベルコの奪還、ということだな? 」


「はい、見つけ次第私がガルーダで連れ出します。 一緒に潜入する同志が城内を撹乱してくれます。 ですが…… 」


「その者達の退路を確保しろ、ということだな? だが王城は既に空の上だろう。 それをどうするかだが…… 」


「〈浮翔石〉って知ってますか? 王城の動力源なんだそうです 」


 アルベルト卿は顔をしかめる。


「ショーコ、それをどこで…… 」


「いいよ、ミナミ 」


 私はあの時のように体の奥に意識を集中させる。 徐々に胸の中心が熱く息苦しくなった。


「おねーちゃん、髪が 」


 アリアちゃんの声にふと目を開けると、肩に掛かった髪が透き通るようなワインレッドに染まっていくのが見てとれた。


「おねーちゃん、目が赤い…… 」


「大丈夫よ、痛くないから 」


 優しく微笑むと再び目を閉じる。 流れ込んでくるもう一人の意識…… それは全身を暖かく包み、やがて自然と私の口を、喉を動かし始めた。


  久しぶりね、アル様


  …… まさか! まさか!


 二人の会話がどこからともなく聞こえた。 目を開くと、アルベルト卿の驚愕した顔が目の前にある。


「こんにちは、アリア?ちゃん 」


「おねーちゃん? ううん、違う。 誰? 」


「君は凄いね。 初めまして、私はミナミ。 名前くらいは聞いたことあるかな? 」


「うん、強くて優しくて悪い人 」


 顔がひきつるのがわかった。 そっか、アリアちゃんにとってはミナミは悪い人なんだ。 どういう悪いかはわからないけど。


「悪いのかぁ…… そっか、ゴメンね。 その責任を取りに来たんだよ 」


「ふぅん? 」


「ミナミ! おぉ…… ミナミ…… 」


「あなたは疑わないのね 」


「疑うものか! その目は誰のものでもないお前の輝き! 口調も、アル様と呼ぶなどお前しかおらぬ! 」


 泣き崩れそうに私の前にひざまずいて、そのまま抱きしめようとするアルベルト卿を、ミナミは人差し指をアルベルト卿の唇に当てて制止した。


「ダメよアル様、今は私であって私ではない。 この体も心も翔子ちゃんのものだから 」


「おぉすまぬ 」


 ビックリした。 でもダンディなアルベルト卿がこんな砕けた優しい顔をするのは意外だった。


「〈浮翔石〉については私が説明するわ。 アル様には悪いけど、もうマウンベイラ隊は王都の側に待機してるの。 是が非でも兵を出してもらわないと 」


「そうか。 ローレシアからの支援も待ってはいられない状況なのだな 」


 アルベルト卿は深くため息を吐いてしばらく考え込んでいたが、私の目を見て一度強く頷いた。

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