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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
4章 反旗を翻す者
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74話

「これは…… 」


 レベッカは二人の部下と共に、フォン・ガルーダの店舗の中でに立ち尽くしていた。 夜中に突然、トゥーランのアルベルトの屋敷に飛び込んできたエミリアとアリアから翔子の危機だと聞き、未だ怪我が完治していないにも拘わらずトゥーランから駆け付けたのだ。 マックスとソニカの亡骸は既に片付けられていたが、おびただしい血はフォン・ガルーダ店舗前に残っており、壊された壁や玄関はまだ手付かずの状態だった。


「レベッカ隊長 」


  フォン・ガルーダ付近に情報収集に行っていた部下の一人が戻ってきて、店内のレベッカに報告する。


「周辺の住民からの情報なんですが、スキル持ちの光奴はキール卿の兵士に捕らえられたようです。 ショーコ様かどうかは定かではありませんが、若い女性もその中にいたとか…… 」


 レベッカは静かに胸をなで撫で下ろした。 


「ショーコ様が殺されたという情報がないならそれでいい。 しかしキール卿か…… 迂闊に手を出せないな 」


 肩を落とすレベッカだったが、すぐに迷いを断ち切るように首を大きく何度も振ってフォン・ガルーダを出た。


「キール卿の屋敷へ向かう。 お前達は…… 」


「シエスタの私兵がここで何を嗅ぎ回っているのだ! 」


 レベッカの後ろからギルド兵が叫びながら駆け付けてきた。 そのままレベッカ達を取り囲み、いつでも斬りかかれるよう武器に手をかけている。


「…… 私の主宛の荷物が一向に届かないので急かしに来たのだ。 来てみれば運び屋はこの有様、何があったのか説明願いたい 」


「運び屋の主がキール様に連行されたのは聞いている。 それ以外は貴様らには関係のないことだ 」


 素っ気ないギルド兵の態度に、レベッカの部下は一歩前に出ようとするが、レベッカはすぐに右手で制止した。


「領主の私兵なら仕方がない事だが、ギルドに大きな面をされるのは心外だな。 我々に敵意があるとみなすが? 」


「フン、他所の領地で何を言っている! 貴様らはこのエルンストでは平民と変わらないんだぞ? 」


 レベッカは見下すギルド兵士を見据えて一歩も引かない。 取り囲むギルド兵士が腰の剣を次々に抜き、徐々に間合いを詰めてくる。 それでも引こうとしないレベッカとギルド兵士の睨み合いがしばらく続いた。


「往来で何をしている! 剣を退かぬかバカ者が!! 」


 その膠着を破ったのは私兵を従えたキールだった。 突然の領主の登場に驚いたギルド兵士達はすぐに剣を収め、その場に片膝をついて伏礼する。


「周辺の修復作業はどうした!? 何も進んではいないではないか! 」


「はっ! 人手が足りぬゆえなかなかはかどらず…… 」


 冷や汗を垂らしながら弁解するギルド兵士の言葉に、キールの片眉がつり上がる。


「なら貴様が率先して動かぬか! 」


 キールは老体とは思えない腕力でギルド兵士の胸ぐらを掴み上げ、フォン・ガルーダの店先に投げ飛ばす。 これにはレベッカも驚き、取り囲んでいたギルド兵士達は慌てて散り散りになった。


「ふん、態度だけはデカいくせに全く役に立たぬ連中だ 」


 キールはパンパンと手を打ち合わせて埃を払い、横目でレベッカとその部下を流し見る。


「アルベルトの犬が何用だ? ショーコならもうここにはおらんぞ 」


「なっ!? 」


 突然の翔子の名前にレベッカは驚きを隠せない。


「やはりショーコ絡みか。 アルベルトはどうした? 」


「…… 私はショウコ様の配下です。 ショウコ様が危機だと知り、居ても立ってもいられずアルベルト様に無断で飛び出して参りました 」


「あの小娘の配下だと? シエスタにはお前のようなショーコの部下がいるのか? 」


「正式には私だけですが。 ですがショウコ様をお慕いしている者は大勢います 」


「ではアルベルトの息がかかっていると見てよいのだな? 」


 険しい顔になるキールに、キールの私兵達は武器に手をかけ始めた。 レベッカの部下もまた武器に手をかけて私兵の動きに身構える。


「アルベルト様から頼み事を受けてはいますが、私がショウコ様をお慕いしたのはそれ以前のこと。 ショウコ様をお守護り出来るのなら、アルベルト様にも剣を向ける覚悟です 」


 威圧的な強面のキールにレベッカは臆することなく真正面から詰め寄った。


「ショウコ様はご無事なのですか? 」


 どちらかが武器を抜けば戦闘になるような緊張の中、レベッカとキールは一瞬も目を離さず睨み合う。 両部下が見守る中、先に動いたのはキールだった。


「良い目をする…… 全く、あの小娘には振り回されるな 」


 キールは左手を上げて私兵に武器から手を離すよう指示した。


「屋敷へ戻る。 貴様らもついて来るがいい、面倒だが説明してやる 」


 キールはくるりとレベッカに背を向け、待機していた移動用の馬車に乗り込んだ。 ドカリと座席に座ったキールはドアを開けっ放しのまま目線でレベッカに同席するよう呼ぶ。


「レベッカ様、お気を付け下さい 」 


「警戒しても仕方あるまい? 私の馬を頼む 」


 レベッカは部下に微笑むと、踵を返してキールが待つ馬車に乗り込んだ。

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