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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
3章 ファーランド王国の使者
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72話

 飛び去ってしまった翔子を追いかけようにも、鳥が大の苦手な光は体が硬直してしまって動くことすら出来ず、ステラに抱きつかれたまま立ち尽くしていた。


「おいおい…… 鳥は反則だろ翔子…… 」


 これでは、雨の中必死に国境を越えてきた意味がない。 光は今までしてきた事が凄く無意味に感じて、点になったガルーダの姿をずっと見つめていた。


「彼女も地球の方? ガルーダに乗って来るなんてあり得ないわ 」


「あり得ないってどういう事だよ? 」


「ガルーダは神鳥なの。 人には慣れず、近寄ることすら出来ないと言われているのに、騎獣にするなんて信じられない 」


「神鳥ね…… そんな存在をあいつはどうやって手なずけたんだ…… 」


「さあ、彼女のスキルなんじゃないかしら? 人間以外の動物と通じ合えるとか 」


「まあ…… 聞いてみるのが一番確実か。 ステラ、ここからメレア公主の所まで後どれくらいある? 」


「あそこに黒い煙が立っているの分かる? あの発電所の隣がメレア公主のいらっしゃる首都サンルークよ 」


 ステラの指差す方向には高い煙突のような塔が建っていて、その上側からはモクモクと真っ黒い煙を吐き出していた。


「発電所!? イシュタルにも電気が通ってるのか? 」


「そう、サンルークは電気の力で街灯を動かしているの。 松明よりも数倍明るいの! メレア公主とヤナハラ摂政の知恵なのよ 」


「ヤナハラ…… 日本人なんだな。 もしかしてメレア公主も日本人なのか? 」


「いいえ、メレア様はスレイヴァン家のご令嬢だもの。 ヤナハラ様は地球の方だということは知ってるけど、その二ホン(・・・)人かどうかは私にはわからないわ 」


「とにかく会ってみるしかないな。 行くか 」


 光はリュックに入れていた封書を取り出して眺める。 白い封書は水分を少し含んでシワシワになっていて、とても偉い人に渡せるような状態ではなかったが、それでも目的を果たさなければと光は気合を入れ直す。


「きゃっ! 」


 光は封書を手に持ったままステラを抱え上げ、モクモクと煙を吐く塔を目指して走り出した。


「凄いヒカル様! こんなに速くも走れてしまうのね! 」


 翔子のようにスピードには慣れていないが、ステラは悲鳴を上げることなく目をキラキラさせて感動している。


「ビビらないんだな。 見慣れてるっていうか…… ローレシアにはそんなにいっぱいスキル持ちがいるのか? 」


 光は息が切れない程度にスピードを押さえながら、首に腕を回しているステラを見下ろした。


「そうね…… 国民の1割にも満たない位だけど。 色々なスキルがあるけど、ヒカル様のようなパワー系の人が一番多いかな。 ナラガンはその中でもトップクラスの力を持っているのに、ヒカル様ったら容赦ないんだもの! 」


 隙ありとばかりにチュッと光の頬にキスするステラ。


「ば! それやめろって言ったばかりじゃねーか! 翔子にも勘違いされたまんまだし…… 」


「勘違い? 私は本気よ? ヒカル様をおとす為ならなんだってするつもりだから 」


 満面の笑みを見せるステラに光はため息をひとつ。


「ヒカル様にとってあの方はなんなの? フィアンセ? 」


「…… 幼馴染。 恋人とかそういうの、俺もあいつも意識したことはねーよ 」


 『ふーん』とジト目で見るステラに、光は遠慮がちに苦笑いした。


「ホントだってば 」


「別に幼馴染でもフィアンセでも、私はヒカル様を諦めるつもりはないもの 」


 ニコッと笑うステラに光は顔を赤くする。 光は現実世界でもモテないわけではなかったが、ここまで積極的に好意を寄せてくるステラに戸惑いを隠せず、照れ隠しに話を元に戻す。


「そ、それは置いといて。 メレア公主ってどんな人なんだ? 」


「置いとかないでよ…… まぁいいけど。 とても綺麗で優しくて思慮深い方よ。 先代のバーナード公主が急死されて皆が浮足立っていたけれど、当時国庫管理官だったメレア様が皆をまとめて下さったの。 それ以来ローレシア公主代理として務めてらっしゃるけど、次期公主として選ばれるんじゃないかしら 」


「ん? ローレシアって国のトップは国民が選ぶのか? 」


「うん? そっか、ファーランドは王家制が続いてるのね。 ローレシアもずっと昔は王家ってあったらしいんだけどね、イシュタルが半分になって王家が滅んでからは、力のある名家の中から公主を選ぶのよ 」


「へぇ…… だから名のある名家になろうとお前の親父さんも必死になってたのか? 」


 笑顔だったステラの表情が曇った。


「…… 悪い、余計な一言だった 」


「ううん、本当の事だから気にしないで。 名家と言っても、スキル持ちの方がその家系にいるかどうかを競っているだけ…… メレア様と同じ力を持つ家系こそ名家だと、皆は信じてしまっているの。 おかしな話でしょ? スキル持ちこそ名家の証なんて 」


「皆はってことは、お前はそうは思わないのか? 」  


「スキルを持っていなくたって有能な方は沢山いるわ。 スキルを持っていたってナラガンのように無能な者もいる。 特に地球の方の2世は、その力に溺れるものばかり…… スキルが全てではないわ 」


「はは…… 日本にも似たような連中はいっぱいいるぞ。 血筋だけが全てじゃない、全くだ 」


 そんな話をしているうちに発電所の塔は目前まで来ていた。 ステラを抱えたまま光は小高い丘の上で立ち止まる。


「これがサンルーク…… 」


 塔の横には市街地が広がり、高い城壁に囲まれた城を円状に取り囲んでいた。 遠目からでも分かるくらいに市街地は人々が入り乱れて活気に溢れていて、左右に伸びる太い街道には荷馬車が多く出入りしている。 塔の横にある火力発電所からは、見慣れた電柱を介して城へ一直線に電線が伸びていた。


「行きましょうヒカル様。 それをメレア様に渡さないとならないんでしょ? 」


「ん? ああ。 でも簡単に会えるんだか…… 」


「大丈夫! 私には秘策があるのです 」


 ステラは笑顔で光にウインクをして見せるのだった。

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