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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
3章 ファーランド王国の使者
72/159

71話

「ヒカル様の嫁よ! 」


 …… あまりにも唐突な言葉になんて返したらいいか分からない。 なんですと?


「あの…… どういうこと? 」


「どうもこうもないわ、私はヒカル様と結婚するの。 あなたが誰だか知らないけど、私の旦那様を攻め立てるのは許せないわ 」


「…… なにこれ、光ちゃん 」


 なんだか無性に腹が立ってきた。 必死になってメレア公主を探してるかと思ったら女を口説いてたの? しかもすっごい美人だし。


「結婚してねーし、ステラが勝手に言ってるだけだって! たまたま…… 」


「いーえ、私達は運命的な出会いを果たしたの。 私を窮地から救ってくれて、呪縛から解放までしてくれた…… 私はヒカル様の子供を身籠り、育てるの 」


 ステラは光ちゃんの腕に絡み付いて大きな胸をギュッと押し付けた。


「な、何してるのよ! 離れなさい! 光ちゃんも鼻の下伸ばして何まんざらでもない顔してんのよ! 」


 ガルーダも私の感情を読み取り、翼を大きく広げて威嚇する。 光ちゃんは目を見開いて怯えながらも、ステラを庇うように抱きついてジリジリと後ずさっていく。


「落ち着け翔子! とりあえずその鳥を何とかしてくれ! 」


「その前に説明してよ! 子供ってどういうことよ!? 」


 なんでこんなにヒステリックになってるんだろ…… なんだか自分が抑えきれない。


「こういうことよ! 」


「あ…… 」


 ステラは光ちゃんの顔を両手で挟み、無理矢理振り向かせて唇を重ねた。 時が止まったように長いキス…… 光ちゃんも振り払おうとせずただ黙ってキスを受け入れている。


「あ…… あ…… 」


 フツフツと何かがお腹の中で暴れ始める。 ガルーダはより一層翼を広げてくちばしを大きく開けて威嚇する。 なにこれ…… なんかもうどうでもよくなってきた。


「…… ぷはっ! ステラ! お前何を! ち、ちょっと待て翔子! これは…… 」


「もういい…… 」


 私はガルーダの首元をポンと叩いた。 ガルーダは威嚇をやめて勢い良く翼を羽ばたかせて宙へ舞い上がる。 


「うわっ! 」


 羽ばたいた風圧に飛ばされそうになる二人を横目に私を乗せたガルーダは一気に上空へと上がっていく。


「翔子! ちょっと待…… 」


 遠くから聞こえる光ちゃんの声は風切音に書き消された。 どうでもいい…… 光ちゃんが誰とくっつこうと私には関係のないこと。 でもなんでこんなにイライラするんだろ…… なんかそれもどうでもよかった。 とにかくあの二人の前から離れたい。 ガルーダはそんな私の気持ちを察してか、急旋回してファーランド方面へと飛んだ。


「…… シリウスのとこ、行こっか 」


 マウンベイラのギルド拠点を出て2日、きっとシリウスはアベルコ卿を連れ戻す為の準備をして私の帰りを待ってる筈。 ガルーダにタンドールに向かって欲しいと伝え、私は空を仰ぐ。


「…… 」


 胸が苦しい…… 原因は光ちゃんだってわかってる。 私が死に目にあってたのに。 クラッセさんとバートンさんが亡くなったのに。 フォン・ガルーダが大変な事になってるのに。 光ちゃんは何をしていたの? いや、光ちゃんのことだから襲われてたあの銀髪女を助けただけなんだろうけど、なんであんなにデレデレしてるのよ。 キスまでしちゃって…… いや、光ちゃんからしたわけじゃないけど。 あーもう! イライラするなぁ。


  ヒュン


 下から突然私の横を矢がかすめて飛んでいった。 慌てて下を見ると、考え事をしてる間にタンドールの上空に着いていたらしく、降下を始めていたガルーダにギルド兵が矢を放ったのだ。


「ちょっ! 攻撃しないで! 」


 そのギルド兵の中にシリウスの姿を見つけて大きく手を降る。


「なっ! ショウコ!? 打ち方止めぇ! 」


 なんとか私だと気付いてくれたみたいで、弓を構えていたギルド兵が広場を開けてくれた。 町の中にガルーダが降りてくることは前代未聞なんだろう、町の人は逃げ惑い、取り囲むギルド兵は武器を構えて唖然としていた。


「遅くなってごめんなさい。 色々な事が重なってしまって 」


「構いません。 まさかガルーダを従えて戻ってくるとは…… ショウコ、あなたは本当に凄い人ですね 」


 シリウスもさすがにガルーダにビビってるらしく、退け腰になりながら苦笑いしていた。


「従えるとは言わないわ…… たまたまこの子が私を助けてくれたの。 武器は収めてくれない? この子は大丈夫だと思うから 」


 シリウスは手を上げて部下達に武器を下げるよう指示するが、部下達は信じられないといった顔で恐る恐る武器を下ろす。


「やっぱり前代未聞? 」


「ガルーダが人になつくなど聞いたことがありません。 ましてや背中に乗ることが出来るなど、恐らくあなたが初めてですよ 」


 そうなんだ…… ガルーダの顔を見ると、ガルーダは嬉しそうに私の頬にくちばしを擦り付けてくる。 シリウスはそんな様子の私を見て微笑み、隠れて静観している町の人に向けて叫んだ。


「聞け人々よ! 我らはこれよりアベルコ様奪還作戦を開始する! このガルーダまでもを従える光の民ショウコ様が、必ず成功へと導いてくれるだろう! 」


「!? シリウス! いきなり何言い出すのよ! 」


 隠れて覗き見ていた人々がざわつき始める。 騒ぎを聞き付けて駆け付けてきた他のギルド兵もまたその場に立ち止まり、お互いに顔を見合わせて私を指差していた。


「大々的にバラしちゃっていいの? 王都に刃向かうって言ってるようなものじゃない 」


「いいんです、この町の誰もがアベルコ様の帰還を待ち望んでいるのです。 あなたもこれだけのパフォーマンスをしてくれたのですから、これを機に皆をまとめあげるのです。 邪魔する王都側のギルドなど恐るに足りませんよ 」


「…… でも私どうすれば…… 」


 なんか大変な事になってきた。 正直何をすればいいのかさっぱり分からない。


「あなたの思うがままに。 あなたはこの町の英雄になる存在だと私は信じています。 そんな不安な顔をせず胸を張って下さい 」


「でも私、戦うことなんて出来ない。 スキル持ちって言ったって凄い力なんか持ってないもの 」


「剣を合わせる事だけが戦いではありません。 周りを見て下さい、これだけの人々がアベルコ様の帰還を待ちわびているのです 」


 危険はないと感じたのか、徐々に集まってくる人々は期待に満ちた目で私を見ていた。 広場の奥では町人とギルド兵の揉み合いが始まっている。


「…… 行こう、王都に 」


 私のその一言にシリウスの部下達や町の人から一斉に歓声が上がった。 拳を天高く突き上げ、拍手の嵐が広場を埋め尽くす。 シリウスは嬉しそうに微笑み右手を差し出してきた。 こうなったらやるしかない…… どのみちアベルコ卿を連れ戻さないとアリスがヤバいだもの。 差し出されたシリウスの右手を取ってしっかりと握り返すと、再び町の人から大歓声が沸き上がった。


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