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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
3章 ファーランド王国の使者
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66話

「ありがとうアヴィ、ここでいいわ 」


 エルンストの町を抜けたすぐのところで、私はアヴィの背中から降りた。 アヴィはしきりに鼻先で私の背中を押し、私の周りをぐるぐると回ったり先を歩いたりと、急いで逃げようと言わんばかりの行動を示す。


「一緒には行けないの…… ここであいつを足止めしなきゃ 」


 逃げるべきじゃなかった。 私が大人しくしていればマックスもソニカも死ぬことはなかったし、向かいの住民が斬られることもなかっただろう。 それにローランの狙いは私なのだから、エミリアさん達を無理に追いかけようとはしない筈。


「アヴィ、エミリアさんとアリアちゃんをお願い。 必ずトゥーランのアルベルト卿のところまで送り届けて! 私の言葉、わかるよね? 」


 アヴィは動きを止めて私の目をじっと見た後、スッとお尻を向けて外円道を走り出した。 本当に私の言葉を理解しているみたい…… これも私のスキルなのかな。


「逃げるのは止めたんだ。 やっと僕の想いが通じたんだね、良かったよ 」


 振り向くと、返り血を全身に浴びたローランがそこにいた。 足がすくむ…… けど逃げちゃダメだ。


「勘違いしないで。 キール卿のところに行くんでしょ? 早く行かないとギルドがこの騒ぎを聞き付けて駆けつけて来るわよ? 」


「ダメだよ、まだヒカルを始末してない 」


「待ってたって光ちゃんは来ないわ。 呑気に光ちゃんを待ってる暇あるの? ギルドに捕まればミシェルさんだって守れなくなるんじゃないの? 」


「どこに行ったの? 」


 答える必要はない…… そう思って黙っているとローランは大きなため息を吐いた。


「まぁいいよ。 どのみちあの男だけなら捕まるのも時間の問題。 王都で会えるだろう 」


「…… なんで王都なのよ? キール卿の玩具になるんじゃなかったの? 」


「キール卿が僕達を捕まえたことにして王都に突き出すんだ。 そうすれば、スキル持ちを二人も王都に献上したとして、キール卿の評価は一気に上がるのさ 」


 スキル持ちはポイントが高いのか…… 一体バルドルは何の為に光奴を王都に集めているんだろう。 


「しばらくヒカルに会えないのは残念だけど、騒ぎを起こしてしまった以上仕方ないね。 さぁ、キール卿の屋敷に行こう 」


 差し出してくる右手を睨めつけ、私はそっぽを向いてキール卿の屋敷に向けて歩き出す。 つれないなぁと苦笑いになるローランは、黙って私の後を付かず離れずの距離でついてきた。

ミシェルさんには会えるだろうか…… エミリアさんとアリアちゃんは解放されたみたいだが、アリスの行方は分からない。 きっと光奴とバレて、ミシェルさんと一緒に捕まったままなのだろう。 


「…… 」


 チラッと肩越しにローランを覗き見る。 こいつのワケわからない思考が皆を危険な目に合わせている…… フツフツと沸き上がる怒りが私の足を速く進めた。 私が振り返った事に気付いたローランは笑顔を見せるが、私は何も反応せずにまた前を向く。 今までこんなピンチに何回会ったか分からないけど、そのピンチをくぐり抜けてくれた光ちゃんは側にいない。


  光ちゃんならこんな時どうする? ミナミならこんな時どうする? 考えろ…… 私が物語を作っていくのだとしたら、きっと何か出来る事がある筈だ。


「そんなに早足じゃバテてしまうよ? 急がないでもほら、キール卿の屋敷はそこなんだから 」


 見覚えのある豪華な中世英国風の大きな屋敷が丘の上に見えてきた。 無駄なことかもしれないけど、逃げ出せた時の為に周りの風景と町の方角を頭に叩き込む。


「そんなに警戒しなくても、君は僕が守るから 」


「うるさい! そのセリフを言っていいのは光ちゃんだけ! 」


 ムカついてつい怒鳴ってしまった。


「元気が戻ってきたね、良かったよ。 それにしても、ヒカルはツマラナイ奴だね。 やっぱりあの時追いかけてでも始末しておけば良かったよ 」


 こいつ私を焚き付けようとわざと言ってる…… こんな奴に言わせておいていいの? 早く戻ってきてよ、光ちゃん……


「ん? お前がスキル持ちの光奴だな、入れ 」


 鉄製の門を警備していた警備兵に先導されて、私とローランは正面玄関までの長いアプローチを進む。 あちこちに鎧を着た兵士がウロウロしてる…… 以前ミシェルさんと来た時はガランとしていたから、今はキール卿にとっても異常事態なんだろう。 これでは逃げたとしてもすぐに捕まってしまう…… 光ちゃんみたいなスキルなら良かったのに、どうして私のスキルは翻訳なんだろうと悔しくなる。


「ここで待て。 変な真似はするなよ? 」


 玄関の大きな扉を入った大広間で先導の兵士が交代し、待機していたタキシード姿の執事に私とローランはボディチェックを入念にされた。 腰の短剣は取り上げられ、鉄製の手枷をかけられて腰に鎖を巻かれる。 囚人のような装備をしたところで、奥の部屋から長髪白髪頭の男が現れた。


「ようこそ我が屋敷へ 」


 この男がキール卿…… かなりおじいちゃんの筈だが、鋭い眼光と姿勢の良い立ち姿は歳を感じさせず、ダンディな老紳士という言葉がピッタリだ。


「会いたかったぞ、ショーコ 」


「え? 」


「後ろの男は地下へ連れて行け。 私はその女と話がしたい 」


 キール卿はそう言うと、踵を返して奥の部屋に引き返していく。 ローランは兵士に囲まれて乱暴に連れて行かれ、私は執事さんにそっと背中を押されて奥の部屋へと向かう。 私と話? それよりも、私の事をどうして知ってるの? 何がどうなってるのかわからないまま、私はキール卿の自室であろう部屋へと通されたのだった。

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