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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
3章 ファーランド王国の使者
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62話

「ショーコの様子は? 」


「アリアと一緒に眠ったよ。 よほど疲れていたんだろうねぇ 」


 自室から戻ってきたミシェルは、馬屋で4頭の世話をしながら待っていたエミリアに答えた。 エミリアの横には木箱に座り込むアリスと、それを見守るアーティアが腕を組んで柱に寄りかかっている。


「アリスと言ったかい? アンタは大丈夫なのかい? 」


「ええ。 アタシは馬に酔ってただけだから 」


「そうかい。 おや、ローランはどこに行ったんだい? 」


「ちょっと出てくるって外に行ったわ。 今はそっとしておいた方がいいんじゃないかしら 」


「そうだねぇ…… 」


 ミシェルは日が落ちて暗くなった窓の外を見る。 翔子からクラッセとバートンが死んだ事を聞いたローランは、遺品の短剣の鞘を受け取った後、しばらく倉庫に立ち尽くしていたのだった。 ローランにとってクラッセは命の恩人であり良き兄貴分で、フォン・ガルーダで生活できるようになったのも言葉を教えてくれたのもクラッセのおかげだったのだ。


「ショーコと一緒に二人を看取ってくれたんだってね、ありがとう 」


「アタシは何もできずただ側にいただけよ、お礼を言われるほどのものでもないわ 」


 気まずそうに目を背けるアリスにミシェルとエミリアは顔を見合わせた。


「ショウコが急いでトゥーランに行きたがってたけど、あなた何か知ってる? 」


「アタシにはイマイチ状況が分からないけど…… 」


 アリスはマウンベイラのギルドに助けられたことをアーティアを含めた3人に話した。 翔子が懸念していたシリウスとアルベルトのバッティングにいち早く気付いたアーティアは、スッと立ち上がって身支度を始める。


「ミシェル様、私は一足早くアルベルト様の元に戻ります。 きっとアルベルト様にもこの情報は有益に思えますので 」


「そうかい。 それじゃこれを彼に渡しておくれ 」


 ミシェルはポケットにしまっておいた封書をアーティアに手渡す。 アーティアは一礼して封書を受け取り、見送りはいらないと断って足早に倉庫を出ていった。


「戦争になるのかな…… 」


 アーティアが出ていった出入り口を見つめてエミリアがつぶやく。 


「そうさね…… それを最小限に食い止める為に、ワタシが生き残ったのかもしれないねぇ 」


「…… それじゃトゥーランに行くの? 」


「彼に手紙を貰ってから、ずっと考えていたことだよ。 クラッセとバートンに聞いてからと思っていたけど、そうもいかなくなってしまったしねぇ 」


 そこで会話が途切れてしまう。 手持ち無沙汰になったアリスは、草を食んでいるアヴィに手を出すが、フンっと鼻息で反撃されてビクついていた。 気付いたエミリアがクスクスと笑う。


「その子、私とアリアとショーコにしかなつかないのよ 」


「祥子ちゃんは馬と会話出来るのかしら…… そっちの馬も凄い言うことを聞いてたし 」


「そうかもね。 あなたもスキル持ちなんでしょ? スキル持ちが身近に何人もいるなんてビックリするわ 」


「それよ! そのスキルって何なの? 魔法? どうやれば発動できるのよ? 」


 突然食いついてきたアリスに、エミリアは目をパチパチさせて固まった。


「発動もなにも…… 光奴の特殊能力を私達はそう呼んでるだけで…… 」


「私には翔子ちゃんと同じように、こちらの言葉が翻訳される能力があることはわかったわ。 他に何が出来るのか知りたいの! 」


 ミシェルとエミリアは顔を見合わせる。


「ヒカルとローランは怪力のスキルだけど、他にはミナミのようなスローモーションとかかねぇ? 嗅覚や味覚が鋭くなる人もいたよ 」


 アリスはうーんと唸って面白くなさそうな顔をする。


「身体能力向上系なのね…… 魔法なら良かったのに。 でもまぁいいわ、発動条件はなんなのかしら…… 」


 ブツブツと自分の世界に入ってしまったアリスに、ミシェルもエミリアもただ呆然とアリスを見つめるしかなかった。


「あ、アリス? 他にもスキルを持ってるの? 」


 エミリアが申し訳なさそうにアリスに質問するが、アリスは自分の世界に入ったまま聞こえていない。


「アリス…… 」


 しばらく帰ってこないアリスを引き戻そうとエミリアがアリスの肩に手を伸ばした時だった。


「フォン・ガルーダのミシェル! そこを動くな! 」


 剣や槍を構えたキール配下の兵士がドカドカと倉庫から押し入ってきた。


「!? 」


 エミリアは咄嗟に腰の短剣に手を伸ばして身構えようとしたが、剣を顔先に突き付けられて動きを止める。 ミシェルやアリスも同様に剣や槍を突き付けられ、兵士達に取り囲まれてしまった。


「いきなり武器を突き付けるとは何の真似だい? アンタらはキールのとこの私設兵だろう? 」


「お前を光奴隠匿の罪で拘束する! 」


「………… 」


 ミシェルは目の前の兵士を見据えて一歩前に出た。 剣を目の前に突きつけても怯まないミシェルに兵士も負けじと睨み返すが、更に一歩踏み出して間合いを詰めてくるミシェルに思わずたじろぐ。


「なんでギルドじゃなく、アンタ達がここに来たんだい? タレコミでもあったんかねぇ? 」


「僕ですよ。 身の安全は保障します…… だから抵抗しないで下さい 」


 倉庫の入口から入ってきたのは真剣な表情のローランだった。 目の周りを赤く腫らし、その手にはクラッセの短剣の鞘がしっかりと握られている。


「ローラン、アンタ…… 」


 ミシェルは動きを止めてローランを見据えた。 裏切りとも取れるローランの行動に、ミシェルは悲しげな表情を浮かべる。


「どうしてこんなことをするんだい? 」  

 

「あなたを死なせない為ですよ…… 分かってください 」


 ローランはそれ以上何も言わず、スッと倉庫の入り口から姿を消したのだった。

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