58話
「あなた、何かスキルをお持ちではないかしら? 」
「うぉっ! 日本語だ! 」
ステラは期待に満ちた目で光を見つめる。
「お願い! あなたは何か特別な力を持っているの? 私の一生がかかっているの! 」
「ふ…… ファーランドでは怪力のスキルって呼ばれてたみたいだけど 」
光の言葉にステラの目がキラキラと輝きだした。
「聞いたわよねシュベーゼ! ほらこれで何も問題ないわよね? 」
「なりません! ナラガン様は…… 」
説教を続けるシュベーゼを他所に、ステラは光に更に抱き付いて耳元で囁いた。
「あの男達に追われているの。 理由は後で説明します、この場を切り抜けてもらえないかしら? 」
「…… 切り抜ければいいんだな? 」
抱き付かれて少し赤くなっていた光は、真顔に戻ってタキシードの男達を見回す。 首にしがみついていたステラを抱え直し、左手の男達に狙いを定めると、側にいた馬の尻を強めにパンと平手打ちした。
ブヒヒッ!
「うわっ! 」
叩かれた馬は驚いて二本足で立ち上がり、前足をバタつかせて男達に覆い被さった。 潰されそうになった男達は咄嗟に飛び退き、光はその隙間を一瞬のうちに駆け抜ける。
「なっ! 速い! 」
シュベーゼが必死に目で追うが、ステラを抱えた光はあっという間に豆粒くらいの大きさになっていた。
「な、何をしている! お嬢様をお助けしろ!! 」
シュベーゼが男達に指示を出したが、男達がシュベーゼの指差した方向に目を向けた時には既に光の姿はなかった。 とりあえずその方向に向かって男達は馬を走らせる。
「お嬢様…… なんてバカな真似を 」
シュベーゼもまた馬に跨がり、男達の後を追ったのだった。
草原を一気に駆け抜けた光とステラは、ポロ村の隣町のムーデイルに入った。 光はシュベーゼの追撃を恐れて町には入りたがらなかったが、ステラは平気だと光の手を引き町の中心部へ向かって歩く。
「なんだ、命を狙われてるとかじゃなかったんだな。 切迫してたから相当ヤバイのかと思ったよ 」
「私にとっては死活問題なの。 だっておデブよ? マザコンよ? 世間知らずのワガママ坊っちゃんよ? そんな奴と結婚なんて冗談じゃないわ 」
ステラは人差し指を立てて光に詰め寄る。
「どんな男なのかは知らないけど…… それにしても君に話を聞いてビックリした。 国によって俺らの扱いがこんなに違うんだな 」
「私の方こそ驚いてしまったわ。 地球の方を奴隷だなんて酷い事を…… ローレシアはそんな扱い絶対にしない! 」
ファーランド王国とは違い、ローレシア公国では光奴は神からの授かり物とされ、特に光のようなスキル持ちは公国の宝として重宝されていた。 スキル持ちの光奴と結ばれ、その二人の間に生まれた子は、必ず親と同じスキルを持つ。 ローレシアの現公主メレア・ティアナ・ローレシアもイシュタルと光奴のハーフであり、公主と同じようにハーフの子を持つ事は貴族として名誉な事だった。
「まあその国の価値観ってあるから仕方ないんじゃないか? 」
「それを仕方ないと飲み込めちゃうヒカルは偉いと思っちゃうわ。 それを何とかしようと思わないの? 」
「その為に俺は、この国に助けを求めに来たんだよ 」
ステラはへぇーと嬉しそうに微笑む。
「…… なんでそこで笑顔になるんだよ? 」
「ううん、なんでもない 」
ニコニコしながらウンウンと頷いたステラは、スッと光の横に並んで腕を絡ませてきた。 ピトッとくっついてくるステラに光があたふたしていると、先程のタキシード男達が光とステラを取り囲んだ。
「見つけましたぞステラお嬢様! 」
馬から飛び降りたシュベーゼは、光の腕にベッタリと絡み付いているステラを見てげんなりする。
「お嬢様…… お父様に叱られてしまいますぞ。 その若造のどこがいいのです? 」
「全てよ! 私を軽々と抱えて走るのをあなたも見たでしょう? この方はスキルを持っているわ、私はこの方と結婚してこの方の子供を産みます! 」
「なりませんと言ったでしょう! ナラガン様は由緒あるグランバール家のご子息であり、超越した怪力のスキルをお持ちなのです。 あの方以上の男など存在しないのですぞ? 」
「私こそ嫌だと言ったでしょう!? いつも人を見下した態度で下品に笑うアイツの顔を思い出しただけで吐き気がするわ! おデブで汗臭いのと交わるなんて死んだ方がマシなの! そうお父様に伝えてちょうだい! 」
ガミガミと言い争うステラとシュベーゼを交互に見る光は、二人の痴話喧嘩だと感じてため息をつく。 そのため息を見たステラが思い立ったようにシュベーゼに言った。
「じゃあこうしましょう。 ヒカル様とナラガン、決闘をして勝った方と結婚します! 」
「は? 決闘ですと? 」
「そうよ。 力が優れていると言うのなら、ヒカル様から私を力ずくで奪ってみせなさい! そうナラガンに伝えなさい 」
シュベーゼは開いた口が塞がらない。
「本気ですか? お嬢様…… 」
「もちろんよ、ヒカル様もそう言ってるわ 」
ステラは抱き付いていたヒカルの腕を引っ張って耳打ちする。
「お願い、シュベーゼを見据えてひとつだけ頷いてほしいの 」
痴話喧嘩の内容が分からない光は、ステラに言われた通りに頷く。 シュベーゼの顔色はみるみるうちに赤くなり、腰に据えた剣の柄を握りしめたままプルプルと震えていた。
「…… 後悔しても知らぬぞ小僧 」
シュベーゼは光をギロリと睨み、きびすを返して馬に跨がり去っていく。
「…… なんて言ってたんだ? あの執事さん 」
「クソガキめ、殺してやる! って言ったのよ。 頑張ってね、あ・な・た 」
ステラは背伸びをして光の頬にキスをした。
「はあ!? 何の話をしてたんだよ! あ・な・たってどういう事だよ! 」
突然キスをされた光は真っ赤な顔をしながらキスされた頬の感触を確かめる。 にっこり笑うステラは光を巻き込んだ事に少しも悪びれもせず、再び光の腕をギュッと抱きしめたのだった。




