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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
3章 ファーランド王国の使者
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57話

 翔子はマックスの背中に乗って一路エルンストを目指していた。 ソニカの背中に馬は怖いと怯えるアリスを無理矢理乗せ、長めに取った手綱を翔子が握って駆け足で外円道を進む。


「翔子ちゃん速いって! 危ないよ! 落ちたら死んじゃうよ! 」


 ソニカの背中に必死にしがみついて悲鳴をあげるアリスは、半べそをかいて翔子に文句を言う。


「国を変えるなんて私の眠れる力が解放されれば造作もないわ! ってシリウスの前で豪語してたのは誰なのよ? その力で乗馬くらいパッと出来るようになってちょうだい 」


 シリウス率いるギルドの一部隊に囲まれて、テンパったアリスが中二病全開で放った言葉で全てが決まった。 シリウス達はスキル持ちの翔子達をミナミの再来と言い、その眠れる力を頼りにして王都へ殴り込む決断をした。 といってもシリウス達は、アルベルト卿のように国を変えるという大きな目的ではなく、何年も王都に監禁されているというアベルコ卿を解放する為。 シリウス達にとって、アベルコ卿は政権を握る宰相バルドルよりも尊い存在なのだ。


「そ、そうよ! ローレシアで力さえ開放出来ればこんな事造作もないわ! でもそれは今じゃないの! まだ…… 」


「はいはい、ネメシスが邪魔をしてるんでしょ? はやいとこ開放しちゃってよね 」


 アリスの設定を軽くスルーして、翔子は2頭のスピードを上げる。 時間に余裕はない…… 翔子は焦っていた。 今日中にはエルンストに着き、クラッセさんとバートンさんの事をミシェルさんに報告した後、トゥーランまで走らなければならない。 シリウスにはクラッセさんとバートンさんの訃報を伝えたいと時間をもらったが、アベルコ卿は過去にアルベルト卿と領地争いをした相手。 シリウス達が動き出す前にアルベルト卿に伝えておかないと、情報がこんがらがって大変なことになるかもしれないと考えたからだ。  


「ち、ちょっとだけ休もうよ! ソニカだっけ? 疲れたって言ってるよ! 」


 アリスは苦し紛れにそんなことを言い始める。 ソニカはアリスの乗馬姿勢に走りづらそうな素振りは見せているものの、マックスに負けじと鼻息を荒くしている。


「そーなんだー。 んじゃマックス、行くよ! 頑張ってね! 」


 翔子はマックスのお腹をポンと蹴って合図をした。 マックスもソニカも翔子の言葉を理解しているのか、同時に全力疾走の態勢になる。


「うわ! イヤー!! 」


 外円道ですれ違う人達がアリスの悲鳴に唖然として見送るが、翔子は構わずマックスとソニカの体力の続く限り外円道を走り続けた。





「やっと見つけた…… 」


 ローレシア公国に入った光は、草原をしばらく走り続けてやっと生活感のあるポロという村の側まで来ていた。 ここへ来る途中にいくつか村や町を見つけたのだが、人の気配はなくそのどれもが廃墟だったのだ。 


「とりあえずは一歩前進…… かな 」


 辺境の小さな集落といった規模の村で、周りの田畑に人影がちらほら見える。 いつしか雨も止み、米のような穂の作物を刈り取る作業に追われているようだった。


「こっちもやっぱ言葉が通じないんかな…… 」


 光はまた現地の人達に騒がれるんじゃないかと躊躇したが、ローレシア公主の居場所をなんとか聞き出せないかと村に立ち寄る事にした。


「すいませーん! 」


 光は穂を刈り取る作業をしていた一人に道端から声をかけた。 光の声に作業をしていた年配の男が被っていたフードを上げて振り返る。


「んあ? なんだってー? よく聞こえねーよ! 」


 やはり日本語ではなく、光には何を言ってるのか理解出来なかった。 光はペコリと頭を下げて早々にその場を立ち去る。


「やっぱダメか。 まぁこの道なりに進めば城くらい見えてくるだろ 」


 光は草原の真ん中に延びている馬車1台分の踏み均された道を走り始めた。 道は平坦な場所を選んで作られていて、緩やかに蛇行して草原を走っていた。 緩やかな起伏はあるものの、しっかりと土で固められた道は走りやすく、光のペースも上がる。 


「なんか昔の日本の田舎みたいな景色だな 」


 軽く息を弾ませて、光は周りを眺めながら走る。 左右に広がる田畑や、その田畑の真ん中にポツポツと建っているかまぼこ型の倉庫や民家。 あぜ道は測量されたように真っ直ぐに作られ、ファーランド王国で見たような雑な作り方ではなかった。 


「ん? 」


 ふと前方に土煙が上がってる事に光は気が付いて目を細める。 馬が全速力でこちらに向かって走って来ていて、その背中にはエメラルドグリーンの長いスカートがマントのようになびいていた。


「なんだあれ…… 追いかけられてるのか? 」


 マントの正体は長い銀髪の女性だった。 カクテルドレスのような豪華なドレスに白い肌、頭には小振りのティアラを着けている。 その後ろからタキシード姿で馬に乗った男が数人、その女性を取り囲むように後を追いかけてきていた。


「この世界は追いかけっこがブームなのか? 」


 巻き込まれたくない光は進路の邪魔にならないように道から外れて様子を窺う。 その一団が光の目の前を通り過ぎようとした時、女性の乗った馬が光の前で急停止した。


「ちょっ! こらっ! なんで止まるのよ! 」


 女性が馬の腹を蹴ろうが手綱を振ろうが、馬は言うことを聞かず光に寄ってきてしきりに匂いを嗅ぐ。


「うわっ! なんだよお前 」


 頬擦りまでされた光は翔子を真似て首の横をポンポンと撫でて馬の気分を落ち着かせようとしたが、それが逆効果になって余計になつかれてしまった。


「こら、走りなさいって! う、きゃぁ! 」


 女性が無理に手綱を引いたのが気に食わなかったのか、馬は大きくいなないて立ち上がり女性を振り落とす。


「あぶなっ! 」


 女性が頭から地面に落ちそうになったところを光はスッと受け止めた。


「大丈夫? って言っても通じないか 」


 苦笑いする光に女性は光の顔を見たまま固まっている。


「だよね。 すぐ降ろすから暴れないでくれよ? 」


 女性をお姫様抱っこしていた光が足から先に降ろそうとした時、追いついてきたタキシード姿の男達に取り囲まれてしまった。


「お嬢様を放せ! 馬から引き摺り下ろして何をするつもりだ! 」


 タキシード男達は馬から飛び降りて一斉に腰の剣を抜く。


「うわ、マジかよ! 」


 光にはなぜ剣を向けられたのか分からない。 それでも急いでこの場を離れなければと、光が女性から手を離した瞬間、女性のほうから光の首に腕を回して抱き付いてきた。


「待ちなさいシュベーゼ! 私この方となら結婚してもいいわ! 」


「は? 」


「?? 」


 シュベーゼと呼ばれたタキシード男は唖然とし、口をパクパクさせて目を見開く。 光は女性とタキシード男が揉めている理由も突然抱き付かれた意味も分からず、ただ目をパチパチとさせていた。


「お、お、お、お嬢様! 本気ですか!? 立場をわきまえて頂かないと困ります! 」


「本気よ! この方だって地球の方なのだから問題ないでしょ! 」


「大ありです! どこぞの馬の骨ともわからぬ輩との子供など…… 」


「ナラガンに抱かれるなんてまっ平ごめんなのよ! 」


 シュベーゼはため息をつき、顔を左手で覆って俯いた。


「いいですかステラお嬢様、ナラガン様は素晴らしいスキルをお持ちの方なのです。 しかもナラガン様からのお申し出なのです、こんな名誉なことはないのですぞ! 」


「嫌よあんなおデブ! じゃあこの方もスキルを持っていれば何も問題ないのね!? 」


 光にお姫様抱っこされたままステラは光に向き直った。


「あなた、何かスキルをお持ちではないかしら? 」

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