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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
3章 ファーランド王国の使者
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54話

 馬車に近付くにつれて不安が大きくなっていく。 馬車を引いていたのはマックスというフォン・ガルーダの馬だ。 私はアリスと金髪ギルド兵士に支えられながら、刺された御者の顔を確認した。


「バートンさん! 」


 私はアリスと金髪ギルド兵士を振り払って、横たわっているバートンさんの側に座り込んだ。


「バートンさん! バートンさん!! 」


 右胸に突き立てられた短剣。 傷口からは血が滲み、刺し痕は背中まで達しているのか、体の下は血の海になっていた。 バートンさんの首の下に腕を入れて持ち上げ、ヌルッと腕に絡み付く血でバートンさんを落としそうになり、なんとか胸に抱き寄せる。


「バートンさん! 翔子です! しっかりして! 」


 バートンさんはヒューヒューと喉を鳴らして微かに息をしていた。 まだ助かる…… 誰が見ても致命傷と思う深い傷だが、それでも私はギルド兵士達の顔を見て助けを求めた。 だが兵士達は誰もが顔を背け、金髪ギルド兵士は目を私から逸らさず首を横に振った。


「看取ってあげて下さい 」


「…… うぅ 」


 必死に涙を堪えてバートンさんの顔を見る。 焦点が合っていないのか、バートンさんはユラユラと右手を上げて私を探していた。


「…… ショー…… コ、ま…… た会…… えたね…… 」


「うん! そうだよショーコだよ! 」


 宙を彷徨う右手を捕まえて自分の頬に当てる。


「…… クラッ…… セは…… ? 」


 辺りを見回すと、並べられた数体の死体の中にクラッセさんを見つけた。


「側にいるよ。 だから安心して 」


 震える声でそう伝えると、バートンさんは目を閉じて口元を緩ませる。


「良か…… った。 ショーコ、マック…… スとソニカを…… 頼む…… 」


「バートンさん? 」


 バートンさんの右手から力が抜けて頬から滑り落ちた。 私の全身を悪寒が走り抜ける…… 雨と血に濡れたバートンさんの顔を袖で優しく拭き、ギュッと胸に抱き寄せた。


「いやぁー!!! 」


 小雨だった雨はまた強くなり、私の悲鳴のような叫びとバートンさんの血は雨にかき消されていった。






 私達は亡くなったクラッセさんとバートンさんと共に、シリウスと名乗った金髪ギルド兵士の拠点に身を寄せていた。 ギルドとは関わりを持たない方がいいのだが、クラッセさんとバートンさんの死に、今は何も考えられず言われるがままシリウスについてきた。 シリウスはずぶ濡れになった私達を拠点の湯浴み場に案内してくれて、着替えを用意してくれると言う。


「知ってる人だったのね 」


 湯浴み場でべっとりとついたバートンさんの血を洗い流してくれるアリスは、器用に状況を把握して私の面倒を見てくれていた。


「うん…… 無口な人だったけど、照れ屋さんで優しい人だった 」


「そっか 」


 また無言で洗ってくれるアリスの気遣いが助かる。 死にゆく知り合いを腕の中で看取るのってかなりツライ……  マンガなんかで、愛する人の胸で死んでいく感動シーンがあるけど、あんな綺麗なものじゃないし、あるのは悲しみと怒りと悔しさだけ…… 感動なんてしないんだと初めて知った。


「はい、キレイになったよ 」


「ありがと、アリス…… 」


 タオルで髪を拭いてくれるアリスの手が止まる。 どうしたのかとアリスに振り向くと、ポロポロと涙を溢すアリスの顔がすぐ側にあった。


「ど、どうしたの? 」


「ツラいよね、平気なわけないよね 」


 アリスは裸のまま背中から抱き付いてきた。


「…… アリスが泣くことないじゃん 」


「我慢しなくていいよ。 暗黒竜と契約を交わしたアタシが受け止めてあげるから 」


 こんな時に中二病ネタを出してくるとは…… 


「フフッ、大丈夫だよ。 まだその力にお世話になる時じゃないから 」


 『そっか』とアリスは涙を拭いて再び私の髪を拭き始めた。


「これからどうするの? 光君もそろそろ戻ってくる頃じゃない? 」


「光ちゃんはしばらく戻って来ないと思う 」


「…… なんでよ? 」


「ローレシア公主宛の封書が見当たらないの。 多分光ちゃんがリュックから抜き取って、そのままローレシアに向かったんだと思う 」


「…… なにそれ。 下見に行ったんじゃないの? 裏切ったの? 」


 ムカつく…… 事情も知らないくせに。


「裏切ったなんて言わないで。 光ちゃんは私達を危ない目に遭わせないように、1人で危険な所に乗り込んだんだよ? ローレシアだってどんな国なのかわからない。 そんなところにアリス、あなたは飛び込んで行ける? 」


「危険? どうしてわかるのよ? そのローレシアって国に行けば助かるんでしょ? 日本に帰れるんでしょ? 」


「わからないわよ! この国を変えたいと思う人に頼まれたから行くのよ! 」


 つい声が大きくなってしまう。 湯浴み場で女二人が口喧嘩なんて見れたものじゃないが、そんなことはどうでもよくなっていた。


「はぁ!? 頼まれたから行くって救世主か勇者のつもり? 光君がいなきゃ何も出来ないくせに偉そうに言わないで! 」


「そうよ! 私は光ちゃんみたいな力も度胸もないわ! それでもこの国を! あなたを助けたくて頑張ってるんじゃない! 」


「なにそれ! この世界の主人公になったつもりでいるの? 見てたらコソコソと逃げることしかしてないのに、助けるとか勘違いしてるんじゃないの!? 」


「仕方ないじゃない! 私達は追われてここまで生き延びてきたんだから! 」


 そんなことわかってる。 光ちゃんのスキルに頼りっぱなしなのも否定しない。 けど私のスキルがなければ、私達はここまで来れなかったのも事実だ。


「どうしました!! …… あ 」


 突然湯浴み場のドアが開いてシリウスが飛び込んできた。 私とアリスは口をポカンと開けたままシリウスに振り向いた。 ヒートアップしていた感情が一気に恥ずかしさに変わる。


「キャー!! 」


 私達は揃って悲鳴を上げてお互いを抱きしめながらその場に座り込んだ。


「どうした! 」


「なんの騒ぎだ!! 」


 シリウス配下のギルド兵士達が次々に湯浴み場に集まってくる。


「ぎゃー!! 見ないでー! 」


「いやー! 」


 たくさんの男達に全裸を見られ、こっちの方がパニックになる。


「み、見たいなら私を見なさいよ! 」


 突然アリスが私の前に仁王立ちしてギルド兵士達に振り返った。 


「おぉ…… おっ……じゃなくてちっぱい……… 」


 ギルド兵士達から小さな歓声と落胆の声が上がる。 私の目の前にはアリスの小振りな可愛い白いお尻。


「ちっぱい言うな!! ほらそこ! 残念そうな顔するんじゃない! 」


 アリスは腰に手を当てて指を指して怒ってる。


「え…… ? 」


 アリス、今言葉が理解出来てた? 

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