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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
3章 ファーランド王国の使者
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49話

 突然のアリスの合流で、翔子達のペースは一気に落ちた。 靴を片方履いていないアリスにボコボコの森の中を歩かせるわけにもいかず、光はアリスを背負って翔子の後を進む。 翔子も少しハイペースで先頭を歩くが、体力が続く筈もなく所々で休憩を挟む。 光もアリスを背負ったまま翔子を両手に抱えて移動距離を稼ぐが、二人を抱えて走るのもそう長くは続けられず、タノーラ湖からレーンバードまであと半分の距離まで進んだ頃には既に太陽が山裾から顔を出し始めていた。


「やっと見えた…… レーンバード! 」


 森を抜けて岩肌の丘の上に出た翔子は、瓢箪(ひょうたん)のように広がる大地のくびれ部分を指差して光とアリスに知らせる。 城壁のように高い壁で周りを囲い、その向こうの大地からの侵入を阻むように大地を分断している。


「まるで万里の長城だな 」


 城壁の端は大陸の端まで続き、その先は白い雲が広がる崖。 ローレシア公国に行くにはレーンバードの目の前に造られた要塞のような建物を通過するしかないようだった。


 「向こうにも同じような壁があるんだ…… 」


 翔子は目を凝らしてローレシアを見つめる。 ローレシア側にもレーンバード側と同じような城壁が霞んで見えた。 お互いを拒絶するように築かれた高い壁は、ここ数年で造られたものには見えない。


「なんか想像してたのと違う。 軍事境界線みたいに金網張って仕切ってるものだと思ってた 」


「…… だな。 完全拒絶、ここからでもわかる 」


「行けそう? 」


 翔子は光の横に立って裾を掴む。 想像より厳しそうな国境越えに不安を隠せないでいた。


「…… 正直無理だと思う。 レーンバードを強引に突破したとしても、ローレシアが素直に通してくれるとは思えない 」


 光の真剣な表情に翔子は肩を落とす。


「でもあそこを越えないとローレシアには行けないんでしょう? 迂回って出来ないの? 」


 1人元気なアリスは、ローレシアに行けば力が解放されるものだと信じて不満を漏らす。


「迂回なんてないわよ。 あの長城の切れた先は崖なのよ? もしあったとしても、あの厳重さを見れば押さえられてる可能性が高いわ 」


「そんな弱気でどうするのよ! ここはアタシ達が主人公なのよ? 」


「主人公か…… ミナミのようになれる気はしないけど 」


「ミナミ? 」


  ぐうぅ…… 


 不意に光の腹の虫が鳴る。 翔子は光をジト目で見上げて、光は翔子を見たまま片眉を吊り上げる。


「そんなアメリカ人みたいなリアクションしてもダメ。 緊張感ないなぁ 」


  ぐうぅ……


 今度は翔子の腹の虫が鳴った。 光はジト目で見下ろし、翔子は光を見たまま片眉を吊り上げる。


「フフ…… あはは! 」


 その様子を光の背中で見ていたアリスが笑い出す。


「ありがと、光君。 ちょっと降ろして 」


 アリスは翔子から預かっていたリュックの中から最後の固パンを取り出して半分にちぎり、翔子と光に手渡した。


「はい、お腹空いてるからきっといい考えが浮かばないんだよ 」


「え…… アリス、自分の分取ってないよ? 」


「私は…… お腹空いてないんだ。 光君におんぶしてもらってるだけだし。 ほら食べて食べて 」


 押し付けるようにパンを二人に差し出して、アリスは髪を手櫛でとかし始めた。 翔子は渡されたパンとアリスを見比べて、おもむろにパンをちぎりその片方をアリスに渡す。


「じゃあ少し多めに貰うね。 食べておかないと力出ないよ 」


「え…… だってアタシお荷物じゃん 」


「食べれる時に食べないと、ホントにツラくなるのよ。 お腹空かせた主人公なんてカッコ悪いでしょ? 」


「…… ありがと 」


 アリスは翔子から両手で丁寧にパンを受け取る。 半分を受け取った光はパンをじっと見つめ、思い立ったように右手に見えるタンドールの町に視線を向けた。


「どうしたの? 光ちゃん。 食べないの? 」


「翔子、アリスを連れてタンドールに行けるか? 」


「タンドール? …… え? 」


 光は何も答えずレーンバードに視線を向けていた。 ハッと気付いた翔子は光の袖を掴んで自分の方を向かせる。


「ダメだよ光ちゃん! 危なすぎるよ! 」


「まだ何も言ってねぇよ 」


「わかるよ! 1人でローレシアに突っ込む気なんでしょ!? 」


 翔子は首を大きく振って光の目をじっと見つめる。


「1人なら無茶して突っ込んでもなんとかなるって考えてたんでしょ? 私も行く! 」


「お前が行ったらアリスはどうなる! 二人を守りながら突破は出来ねぇよ! 」


「光ちゃんならなんとかなるもん! 今までだってなんとかなってきたもん! 」


「今回は要塞みたいな所に突っ込むんだ。 逃げ場がないかもしれないし、下調べにに行ってくるだけだって 」


「別の方法を考えようよ! アルベルト卿には無理でしたってちゃんと言うから! 」


「その間にアリスみたいな光奴が何人犠牲になるんだよ!? 」


 翔子と光の言い争いはヒートアップしてくる。


「アンタだって一回戻った方がいいって言ってたじゃない! アンタだけわざわざ危ない橋を渡るようなマネをする事ない! 」 


「俺だって色々考えてたんだよ! これが最善なのか俺にだってわからねえし、俺らが戻ってる間にも光奴は飛ばされてくるんだ。 アルベルトだって他の方法が思い付かないから俺らにこんなことを頼んできたんだろ? だから今なんとかしたいんだ 」


「…… 言い出したら全然聞かないんだから 」


 翔子は涙声で呟いた。 俯いてグイっと目元を拭う。 


「泣くなよ。 絶対帰ってくるから 」


「泣いてないもん! そのセリフずるいのよ! 」


 ドン、と翔子は光の胸を拳で突く。


「わかった、タンドールで待ってる。 約束したからね 」





 光は翔子とアリスを抱えてクレーターの急斜面を降り、タンドールに程近い岩場を流れる川まで移動して身を隠した。 一先ずここで食糧とアリスの服一式を翔子に買ってきてもらい、準備が出来次第別行動を取ることにする。


「この制服がダメなの? 」


 岩場に隠れて待っている間、アリスは不思議に思う事を光にとことん聞く。


「こっちの人間は制服で光奴かどうかを見分けるらしいからな。 とりあえず俺らも着替えたら、簡単にはバレないようになったから 」


「ふーん…… それじゃこっちの人間は皆、東洋系の顔してるんだ? 」


「そういう訳じゃないけどな。 西洋系、東洋系の顔立ちは俺らの世界とあまり変わらんと思う 」


「エルフとか獣人とかモンスターとか…… 魔法ってないの? 」


 光はウーンと考える。 『さぁ?』と光が両手を広げると、アリスはため息をひとつ。


「翔子に聞けよ。 アイツはこの世界に詳しいから 」


「そういえば、彼女じゃないの? 」


「…… 誰が? 」


「翔子ちゃん。 そうとしか見えないほど仲いいよね 」


「幼馴染だよ。 ほっとけないというか、危なっかしいというか…… 」


 ふーん、とアリスは膝に顎を乗せて唸る。


「悪かったわね、危なっかしくて 」


 岩の後ろからヒョコっと顔を出した翔子は、小さなリュックを光に投げ付けた。 光は難なくそれをキャッチするが、今まで使っていたリュックがパンパンになっていることに目を見張る。


「そんなに何を買ってきたんだ? 」


「パンとちょっとしたものよ。 それでもアーティアさんが持たせてくれたお金の半分だから 」


「俺にもパン一つ 」


「その中から持っていって。 さっきの量じゃ足りないと思って、多めに買ってきたから 」


 翔子はリュックからアリスに着せる服を取り出してアリスに合わせる。 光はリュックを漁り、一口大のパンにかじりつく。 ふとパンを咥えたままリュックの中身を見ていた光の動きが止まった。 翔子がリュックの中袋に入れていた、白い封筒が目に入ったのだ。


「何個か持って行きなさいよ、レーンバードまでまだちょっとあるんだから 」


「…… あぁ、うん 」


 光は手頃なパンと一緒にその封筒を抜き取り、翔子の見ていない隙にパンと一緒に渡された小さなリュックに詰め込んだのだった。

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