表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イシュタルの大地へ  作者: コーキ
3章 ファーランド王国の使者
49/159

48話

 材料を集めて戻ってきた光ちゃんは、あっという間に火をおこして焚き火を作ってくれた。 ロープを使って物干し場を作り、先に自分の上着を速攻で乾かしてアリスに差し出す。


「こっちに着替えれよ。 脱いだら絞るから 」


 そう言って光ちゃんは木陰に離れていく。 無言で光ちゃんの上着を受け取ったアリスは、モゾモゾとブラウスを脱ぎ始めるが、体が震えてる上に濡れて肌に張り付くブラウスに悪戦苦闘している。


「手伝ってあげる 」


 アリスを焚き火の側に立たせてスカートのファスナーを下ろし、ブラウスの袖を引っ張って脱がせてやる。 私より華奢な体つきに、戦いに身を投じていたという割には日焼け一つない真っ白な肌。 黒の下着を着けているあたりはさすが暗黒竜と契約を交わした者…… ということにしておく。


「下着は…… 恥ずかしいよね。 着けてれば乾くからいいか 」


 アリスに光ちゃんの上着を羽織らせ、脱いだブラウスとスカートを光ちゃんに手渡す。


「ブラウスって結構弱いからねじ切らないよう気を付けてね 」


 『オッケー』と受け取った光ちゃんは慎重にブラウスとスカートを絞っていく。 私も力いっぱい絞ったのに、まだポタポタと滴が落ちてきていた。 


「翔子、あのアリスってのも連れていくつもりか? 」


 光ちゃんが焚き火に当たりながら俯いているアリスをチラッと見た。 彼女に聞こえないようにボソボソっと呟く光ちゃんはあまり良い顔をしてない。


「見捨てるなんて出来ないじゃない。 私達と同じだよ? 」


「見捨てるとは言ってない。 一度戻った方がいいんじゃないか? 」


「でもレーンバードはもうすぐだよ? ここからトゥーランに戻ったら、それこそ何日かかるか…… 光ちゃんが一生懸命走ってくれたことも無駄になっちゃう 」


「…… 」


 片眉を吊り上げて光ちゃんは難しい顔をする。 


「大丈夫だよ、ローレシアの公主は優しい人だってアルベルト卿も言ってたし、ちょちょいと国境を越えるだけだし 」


「その国境を越えるのが問題なんだろ? お前1人なら守れるかもしれないけど、2人を守れるかと言われたら自信ないぞ 」


 そう言われると私も不安になる。 食糧は1人増えたことであと半日分、水筒の水はもう残り僅か。 アーティアさんから少しのお金は持たせて貰ったから、町や村なら食糧調達はできる。 それを考えると、ここからならタンドールかレーンバードへ向かった方が無難なように思えた。


「まぁ…… 彼女の服が乾くまでに考えてくれ、軍師様 」


 光ちゃんは微笑んでアリスの制服を手渡してくる。


「…… 光ちゃんは焚き火にあたらないの? 」


「彼女、上着羽織ってるけど裸同然だろ? 近づくわけにいかないじゃん 」


 ブラとパンツは着けてるけど…… そういう問題じゃないか。 とにかく早めに服を乾かして出発しないと、時間ばかりかかってキツくなる。 パッとブラウスとスカートをロープに干し、ついでにタオルも干してアリスの側に座った。


「アリス、光ちゃんも焚き火にあたっていい? 」


「え…… あ、うん。 翔子ちゃんの彼氏? 」


「違うわよ! 」


 力なくではあるけど、アリスがクスクスっと膝を抱えたまま笑った。 少し落ち着いてきたみたい。


「力いっぱい否定するのも怪しいけど。 光君だっけ? ちゃんとお礼言ってなかったわ 」


 私は『光ちゃん!』と一声掛けて手招きで呼ぶ。 光ちゃんは焚き火を挟んでアリスの向かいに座り、頭を掻いたり腕を掻いたりして居心地悪そうにしていた。


「えっと…… 溺れそうになったのを助けてくれてありがとう 」


 ビクッと光ちゃんの体が跳ねた。 ん? なんでびっくりしてるんだろ……


「そっか、日本人なんだっけ。 久々に日本語聞いてちょっと驚いた 」


 苦笑いする光ちゃんにアリスはポカンとしていた。


「…… どういう事? 」


「イシュタルは言語が違うから。 私には翻訳の力が働いてるから分からないけど、こちらの言葉は聞いたことない言語みたい 」


「ふーん…… 翔子ちゃん、その≪力≫って何? 」


「この世界では≪スキル≫って言うみたい。 私は…… 」


 アリスに私の力と光ちゃんの力をざっくりと説明する。 話の最中、アリスは自分の掌を見たり腕を見たり足を見たり…… あまり不思議がる様子もなく相づちを打っていた。


「それじゃ私もスキルを持ってるって事なのね 」


 さっきよりアリスの目が輝いてる。


「発動条件は何? 魔方陣? それとも呪文? 」


 アリスは腕を振り上げたり額に指を揃えてあてがったり。 あ…… 中二病のスイッチが入っちゃった。 


「いや、そういう事じゃなくてね。 あの…… アリス? 」


「私の中にはまだ眠ったままの暗黒竜の力があるのよ…… それを目覚めさせるキーがこの世界のどこかにある筈。 …… そう、祭壇だった。 それを見つけないと私の…… 」


「おいおい…… 」


 私と光ちゃんは顔を見合わせて苦笑いする。 アリスの言う暗黒竜の力というのがどんなものなのか分からないが、もしかしたらアリスも何かのスキルを持っているのかもしれない。


邪教集団(ネメシス)の連中め…… どこまでも私の邪魔をするつもりなのね…… 」


 おーい、戻ってこーい! …… まぁ落ち込んでるよりはいいけど。


「光ちゃん、このままレーンバードに向かおう。 色々考えてみたけど、やっぱりその方がいいと思う 」


「そうか、了解。 まぁ絶対危ないってわけでもないしな 」


 光ちゃんは笑って同意してくれる。


「何? そのレーンバードって 」


「私達は今、トゥーランって町からレーンバードって言う国境の町に向かってるの。 そこから隣の国のローレシア公国に行く途中なのよ 」


「ローレシア…… なんだか懐かしい響きだわ。 きっとそこに封印を解くキーがあるんだわ 」


 設定が増えた…… 勘違いしないように少し状況説明しておこうかな。


「あのねアリス…… 」


 アリスの制服が乾くまでの間、この国の現状や私達光奴の立場等を簡潔に話す。 アリスは目を輝かせて私の話に食い付いて聞いていたが、光ちゃんは呆れた目でアリスを見ていた。 あらかた説明した後に空を見上げると、大きな月が森の上に顔を出し始めていた。 スカートもブラウスもほぼ乾いてるし、そろそろ出発しないと食糧がもたない気がする。


「着替えてアリス。 そろそろ出発したいの 」


 その言葉に光ちゃんは後ろを向く。 アリスは気分がノッてるのか、躊躇なく羽織っていた上着を脱ぎ捨てて乾いた制服に着替え始めた。


「あ…… 」


 スカートのファスナーを上げた時にアリスが何かに気付いて声をあげる。


「靴、片方ない…… 」


 え…… 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ