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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
2章 フォン・ガルーダの光奴
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42話

「先程はメイド達が失礼しました 」


 食事を頂いている最中、アーティアさんが2人のメイドさんと共に頭を下げてきた。


「お二人は恋人同士なのだと思っていたもので…… 」


「いえ、あまり意識したこともないですから。 ちょっとビックリしただけです 」


 深く頭を下げるメイドさん達に両手を振って苦笑いをする。 気を取り直して、私は同席しているアルベルト卿に話を持ち掛けた。


「あの…… お話というのは? 」


「昨日アーティアが部屋にお邪魔したそうだね。 朝方まで付き合ってもらって申し訳ない 」


「いえ、私も眠れませんでしたから 」


 アルベルト卿は優しく微笑んでため息をひとつ。


「その…… 国王になるおつもりは? 」


「数年前から皆に言われていることなのだがな、私自身考えあぐねている。 確かにこの国は傾き始めているが、国民が生活出来ていない訳ではない。 光の民には申し訳ないがな 」


「…… 真意がわかりません 」


「自信がないのだ。 私が国王として立てば、当然私に反を抱く貴族らが黙っている筈がない。 再び領地争いが起き、国民同士のいがみ合いになり国が荒れる。 このシエスタの領主として、私を慕ってくれている領民に苦労を強いたくはないのだ 」


 兵士やギルドは別として、戦う力を持たない国民は争いになれば虐げられるのは目に見えている。 私も血を見るような結果は嫌だ。 ここはハッキリと言わなきゃ!


「協力しようとは思っています。 でも私も光ちゃんも、戦う力を持ってはいません。 どんなことであろうと、人を殺すような真似は出来ません。 そんな私達が何に協力できますか? 」


「…… ローレシア公国へ行ってはくれまいか? 」


「ローレシア…… ?」


 私の知らないイシュタル大陸のもう一つの国。


「ローレシア公国は今現在、このファーランドと国交を一切拒否している。 が、君達なら受け入れてくれるかも知れぬ 」


「…… 意味がよく分からないんですけど…… 」


「ローレシアはメレア公主が統治する国。 その政務を行っている者の中には、光の民がいると聞いたことがある。 メレア公主はお優しい方だと聞く。 光の民の君達なら、国同士の事情に関係なくお会いできると思うのだ 」


「え? 光奴が政治に関わってるんですか!? 」


 アルベルト卿は強く頷いた。


「情けない話だが、私の兵力では領地を守りながらギルドに対抗することが出来ない。 ローレシアに外交を頼み、バルドルに外から圧力をかけて欲しいと考えている 」


「圧力をかけてどうするんです? 国同士で戦争でもするつもりですか? 」


「そうではない! 王都に入り込むきっかけを作りたいのだ。 ここ数年、バルドルは高位貴族達を王都から遠ざけて何かを企んでいる。 光の民達を集めているのもそれに関係しているのは間違いないのだ…… 頼む、私に力を貸してくれ 」


 アルベルト卿はこの国を変えようとしてる…… でも民を想い、今まで動けなかった事を悔やんでるんだ。 行ったところでどうにかなるものなんだろうか…… でも国交すら持たない他国に助けを求めざるを得ないということは、ファーランド王国は相当ヤバい状況なのかもしれない。


「わかりました。 メレア公主に会ってみればわかるんですね 」


 アルベルト卿は私に微笑んで頭を下げた。 一領主が頭を下げるのは王族のみと書かれていたのを思い出す。 アルベルト卿が私なんかに頭を下げるのは、ホントに八方塞がりだったのかもしれない。


「マウンベイラのレーンバードには、国境を隔てる高い城壁が建てられていて警備も厳重だ。 特に今はアベルコが王都に監禁されていて、レーンバードの警備はギルドの直轄にあるが、レーンバードの国境の突破口は私が作ろう。 よろしく頼む 」


 私はアルベルト卿と話したそのままの内容を光ちゃんに伝えた。 返ってきた答えは『オッケー!』の一言。 光ちゃん、なんかノッてる?


「だけどアルベルト卿の手助けは要らないんじゃないか? 逆に目立って動きづらくなりそうだけど 」


「その突破口、私にお命じ下さいませんか!? アルベルト様! 」


 振り向くと、執事さんの肩を借りてレベッカさんが食堂の入り口に立っていた。


「レベッカさん! 」


「ショウコ様! よかった! 」


 執事さんの手を離れ、倒れそうになるレベッカさんを体全体で受け止める。 レベッカさんは良かったと何回も呟き、私を強く抱きしめた。


「まだ起きてきちゃダメじゃないですか! 」


「あなたに救われた命です! お役に立てるのなら惜しくはありません! 」


 そんな大袈裟な…… せっかく助かったのに、ポンポン命を投げ出されても困る。


「アルベルト様! 」


 必死に訴え続けるレベッカさんに、アルベルト卿も困った顔をしていた。


「わかった。 ショウコ、君にレベッカを任せる 」


「えぇ!? 」


 アルベルト卿の言葉にレベッカさんは喜びを隠せず、私をギュッと抱きしめてきた。


 任されても困るって!


 アルベルト卿に助けを求める視線を送るが、アルベルト卿はにこやかに首を振る。


「一度言い出したら、何を言っても無駄な困った奴なのだ。 これよりレベッカは君の指揮下に入る、遠慮なく使ってくれ 」


「使ってくれって…… 」


「どうした? 」


 光ちゃんに事情を説明すると、『なんだ』とひとつため息をつく。


「好都合じゃん。 お前の命令が絶対なら、ここで俺達の帰りを待つように伝えればいい 」


 そっか、それならレベッカさんも傷を癒すことに専念できるか。


「それじゃレベッカさん、私達が戻るまで…… 」


「嫌です 」


 言い切る前にレベッカさんに否定されてしまった。


「いや、あの…… 」


「待ってろと仰るのでしょう? それではショウコ様のお役に立つとは言えません! 」


「でもまた傷口が開くでしょう? そんな状態で…… 」


「平気です! 私にやらせてくだ…… 」


 ああもう!


「ダメです! ここで待機して、私達の帰りを待っててください! いや、待ってなさい! 命令です! 」


 レベッカさんは目を丸くし、悔しそうに口をへの字に曲げる。


「お前の負けだレベッカ。 ショウコの命とあらば聞くしかあるまい 」


 アルベルト卿はクックッと楽しそうに笑う。


「レベッカさんが待っててくれるなら、私も光ちゃんも何が何でも帰ってこなきゃって気持ちになれるから。 重要な役目なんですよ? 」


「…… 了解しました。 お早めにお戻りください 」


「うん、約束です…… 」


 私もレベッカさんをギュッと抱きしめる。


「それとアルベルト様、お手伝いは遠慮します 」


「なっ!? 」


 目を丸くして驚くアルベルト卿に、私はミシェルさんの言葉を思い出して笑ってみせた。

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