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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
2章 フォン・ガルーダの光奴
42/159

41話

  ユサユサ……


「翔子、起きろ。 翔子 」


 さっきやっと眠れたのに、体を揺する不快な感覚。 この声は光ちゃんだ。


「なによぉ…… さっき寝たばっかりなのに 」


 柔らかい真っ白な枕に顔を埋め、目を閉じたまま光ちゃんに文句を言ってみる。


「ほら、そろそろ起きないと遅刻するぞ 」


「何言ってるのよ…… イシュタルからまだ帰れてないのに遅刻も何もないじゃない 」


「しょうがねぇなぁ 」


 チラッと薄目を開けると、すぐ側に光ちゃんの顔があった。 最近ずっとくっついていたせいか、光ちゃんの匂いがなんだか安心する…… でもちょっと近いよ? なに? 


「俺が起こしてやるよ…… 」


 光ちゃんの顔がどんどん近づいてきて…… え…… そのままキスしちゃうつもり? ダメ……


「なに顔を真っ赤にしてブツブツ寝言言ってんだ? もう昼だぞ、いい加減起きろよ 」


 ハッと目を開けると、光ちゃんが枕元に座って私を白い目で見ていた。


 夢かい! そうだよね、光ちゃんはそんなキャラじゃないし…… 恥ずかしい。


「うん、起きる…… 」


 気だるい体をゆっくりと起こして、顔を洗いに部屋を出る。 捻挫した足は多少痛むが、昨日処置してもらったおかげで腫れはだいぶ引いていた。


「おはようございます、ショウコ様 」


 廊下をヒョコヒョコ歩いていると、メイドさん達に様付けで挨拶される。


「おはようございます。 あの…… ()というのはやめませんか? 」


「旦那様のお客様ですから。 お気になさらず 」


 気になるから言ってるんだけど…… 苦笑いしていると、向かいからアルベルト卿とアーティアさんが歩いてきた。


「おはようショウコ。 少しは休めただろうか? 」


「おはようございます。 はい、寝坊しちゃいました 」


 ハハハと笑うアルベルト卿の横のアーティアさんに目線を向けると、彼女はニコッと私に微笑む。 昨日の話、アルベルト卿自身はどう思っているのだろう……


「食事を用意させよう。 その後で少し話をしたいのだが良いかな? 」


「はい、ありがとうございます 」


 二人に一礼してメイドさんに洗面所へ案内してもらう。


「そのまま湯浴みしてはいかがですか? 」


 メイドさんに勧められて、私は朝風呂…… いや、昼風呂を頂くことにした。 何日ぶりのお風呂だろう…… 小川でハンカチを使って汗は流していたけど、まともにお風呂に入るのはフォン・ガルーダを出発して以来だ。 なんか自分が汚いようでヘコんでしまう……


  チャプ


 こちらでいう液体せっけんにタオルを浸し、それで体を洗うのだとミシェルさんに教えてもらったのを思い出す。 体を擦るとさっぱりするのだが、泡立たないせいかあまり洗ったという気がしない。 ミシェルさんの所は柑橘系の香りだったが、ここはミントっぽい香りだ。


「ふぅ…… 」


 一通り体を擦って水で液体を流す。 こちらでは湯船の習慣はなく、水で体を流すだけのもの。 ゆっくりと入浴する気にもなれず、もう一度頭から勢い良く水を被って浴場を後にすることにした。


  ガチャ


「あ…… 」


「あ…… 」


 不意に開いたドアの向こうにはすっぽんぽんの光ちゃん。 目が合ってお互いに頭の先から足の先まで見て固まった。 ジワジワと恥ずかしさが込み上げてきて私は思い切り息を吸い込む。


「んきやぁー!? 」


「いだっ!! 」


 ドアを全力で閉めて体の前をタオルで隠す。 裸見られちゃった! 光ちゃんの大事なところモロに見ちゃった!


「ご、ごめん! 入ってるの知らなくて! 」


「なんでそこにいるのよー! 」


「い、いや、メイドさんが服を洗濯するからみたいなジェスチャーするから、ついでに風呂入っちゃおうと思って 」


 ドアの向こうからオドオドと言い訳する光ちゃんの声。 なにこのラブコメ的な展開……


「早く出てってよ! 」


 ドア越しに光ちゃんに叫ぶ。 ゴソゴソと慌てて服を着る音が聞こえる中、メイドさんと思われる声も聞こえてきた。


「どうされました? 服を脱いで渡して下さいって言ったじゃないですか 」


「えっと…… うーん…… 」


 私はドアに耳をくっつけて聞き耳を立てる。 光ちゃんには何を言ってるのか分からない様子。


「言葉が通じないのは不便なものね 」


「どうしたの? アイカ 」


 別のメイドさんの声。 


「ヒカル様に服を着替えてもらおうとしたんだけど、やっぱり言葉が通じなくて 」


「そんなの無理矢理ひん剥いちゃえばいいのよ。 ついでに湯浴み場に突っ込んじゃえば? 」


「うわわっ! ちょっ! 」


 慌てる光ちゃんの声と、はしゃぐメイドさん達の賑やかな声。 ちょ…… まさか!


「行ってらっしゃいマセー! 」


 嫌な予感がしてドアから離れると、突然ドアが開いて素っ裸の光ちゃんが飛び込んできた。


「きゃっ! 」


 光ちゃんは目を真ん丸にして私に突っ込んできて、勢い余って私は床に押し倒された。


「…… 」


「あ…… ハハ…… 」


 密着する体の間にはタオル一枚。 あまりにも突然のことで、苦笑いする光ちゃんの目を見たまま何も言えなかった。


「す、すぐ出るから! 」


 光ちゃんはギュッと目を閉じて体を起こす。 と、光ちゃんの胸や腕に青アザがいくつもあるのが目に入った。


「ちょ…… ちょっと待って光ちゃん! 」


「んあ? 」


 スッと胸のアザに手を添えると光ちゃんはピクッと体を震わせる。 そういえば……


「くすぐったいぞ 」


「…… 体の洗い方わかる? 」


「わからん。 シャンプーも石鹸もないし 」


 そうだよね、言葉が通じないのはホント不便な事だ。


「後ろ向いて。 背中、流してあげる 」


 とても恥ずかしいけど、そんな言葉が素直に出た。 私が今まで無傷でここまで来られたのは、光ちゃんが体を張って私を守ってくれたからだ。 今も石造りの床に押し倒されたのに、体のどこも痛くない。 このアザの一つ一つがその証みたいなもの…… なら私はこの翻訳の力を使って、光ちゃんの目となり耳となって光ちゃんを守るべき。 きっとこの特殊能力はそういうことなんだよね……


「こっちは向かないでよね、恥ずかしいんだから 」


 私は液体せっけんにタオルを浸し、光ちゃんの背中を擦っていく。 背中にもあちこちに青アザ…… 強く擦らないように気を付けながら、広い背中を丁寧に洗っていく。


「ありがと、光ちゃん 」


「ん? 何がだよ? 」


「なんでもないよ 」


 わかってるくせに…… 気取らないのが光ちゃんらしい。 散々光ちゃんの背中に乗ってたけど、こんなに広かったっけ…… なんかとても逞しく見えてしまう。


「ねぇ光ちゃん…… この世界の為に、私と一緒に戦ってくれる? 」


 ちょっと脈略が無さすぎたかもしれない。 アーティアさんとの話を知らない光ちゃんには突拍子すぎる話…… 


「おう! もちろんだ 」


 それでも光ちゃんは二つ返事で答えてくれる。


「お前の作る物語なんだ、確認なんか取る必要ないじゃん 」


 私に甘すぎるわよ、バカ…… つい顔が緩んでしまう。


「…… うん、あのね…… 」


 私は光ちゃんの背中を優しく洗い上げ、ついでに頭にも液体せっけんを付けて泡立たない髪をワシャワシャしながら、アーティアさんとの会話を光ちゃんに話した。

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