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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
2章 フォン・ガルーダの光奴
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40話

  捻挫した足が治るまでここで休んでいくといい 


 アルベルト卿のご厚意で、私と光ちゃんはしばらくアルベルト卿のお屋敷にお世話になることになった。 一人ずつ客室を貰い、久々に落ち着ける空間に体の力も抜けて私はベッドに倒れ込む。


 久々の柔らかいベッド…… 体が沈み込む感触がとても気持ち良くて、すぐに眠れそうな感じがしてたが、アルベルト卿に聞いた話が衝撃的で目を閉じても眠れずにいた。


「運しかない…… かぁ…… 」


 現実世界に帰る方法は、このイシュタルに飛ばされた時と同じようにあの強烈な光に包まれること。 簡単に聞こえるけど、光が現れる場所は完全ランダムで、イシュタル大陸のいつどこに現れるのか予測がつかないという。 


「天気予報みたいな、光予報があればいいのに…… 」


 なんて考えてみる。 ミナミはタイミングよくその光に包まれて現実世界に帰っていった…… それは小説だからこその綺麗な終わり方であって、実際は偶然光に遭遇して運良く帰れただけだったんだろう。 アルベルト卿も、ミナミが突然消えてしまったという目撃情報しか知らないと言ってたし……


「どうしよう…… 」


 ここに来れば帰れる方法が見つかると思っていたのに…… 不確定要素が多すぎて頭がこんがらがってきた。 眠れそうにもないのでベッドから起き上がり、窓の横に備え付けられた椅子に座る。 目の前の小さな丸テーブルには、おしゃれなペンと綺麗に切り揃えられたメモ紙が数枚。 ちょっと状況を整理してみようかな…… 私はロウソクに火を灯し、ペンを手に取ってインクを付けた。


 ミナミが現実世界に帰って7年。 その7年間で光奴と呼ばれた人は約100人にも膨れ上がっていた。 四年前の暴動で光奴達はほぼ殺されて数は減ったものの、その後も10日に1人のペースで目映い光に乗って飛ばされてきていた。


 飛ばされてきた光奴は生死を問わず王都に運ばれ、その後の行方は各地を治める領主達も知らないという。 光奴を捕まえると褒賞金が出るというのはギルドが始めたもので、ギルドを統括しているのは国王代理の宰相バルドルだ。


「こんな感じかな…… 」


 大まかな地図を書き、バルドルを中心として領主や情勢を相関図としてまとめてみた。 私の頭の中にあるのは7年前の情報…… 今現在のファーランドとは違うということを忘れないようにしないと。


  コン コン


「は、はい! 」


 小さくドアをノックする音に驚いてちょっと声が上ずってしまった。 『失礼します』と、ワンピースのパジャマ姿のアーティアさんが燭台を片手に部屋に入ってきた。


「明かりが漏れていたものだから…… 眠れないの? 」


「ええ、ちょっと考え事をしていたら目が冴えちゃって。 あの…… アーティアさん、さっきはごめんなさい 」


「ん? あぁ、ミナミの事? ハハ…… 気付かれちゃってたのね。 やはり女の勘は侮れないわ 」


 アーティアさんはミナミに嫉妬してる…… アルベルト卿からミナミの名前が出た時、聞かぬフリをして席を立ったのはそうなんじゃないかと思ってた。


「まだ眠れないのなら少しお話でもしましょうか? 」


「はい、是非 」


 アーティアさんは『ちょっと待ってて』と言って部屋を出ていく。 程なくしてアーティアさんは二人分のティーセットを持って戻ってきて、慣れた手つきで紅茶を淹れてくれた。


「あの…… アーティアさんも私達のせいで眠れないんでしょうか? 」


「そうじゃないのよ、だからそんなことは気にしないで 」


 ニコッと微笑むアーティアさんは、私が書いたメモをカップを片手に眺めている。


「地図? 」


「はい、ちょっと情報整理してみようかと思って 」


 アーティアさんはメモの地図を指差して違うところを指摘してくれた。


「アベルコ領のマウンベイラは今は領主不在なのよ。 3年前からアベルコ卿は王都に監禁されて、ミケランという貴族が代理で統治しているわ 」


「やっぱり7年前からは、あれこれ変わってるんですね 」


 静かに紅茶をすするアーティアさんは、私を見て微笑んだ。 綺麗な人だなぁ……


「それにしても凄いわ…… これだけの情報があなたにはあるのね。 益々あなたの事を頼りたくなってしまった 」


「…… 私? 」


 口に運んだカップが止まる。 なんで私なんだろ……


「単刀直入に言うわね。 アルベルト様を国王にするお手伝いをお願いできないかしら? 」


「へ? 国王…… って? 」


「ショウコ、あなたの知識とヒカルの力があれば、この国を変えることが出来ると私は思っているの 」


 私を真っ直ぐに見つめるアーティアさんは、冗談を言っているような雰囲気じゃない。


「…… 私達にバルドルをやっつけろって言ってるんですか? 」


「いいえ、私達と光の民との懸け橋になって欲しいの。 あなたの持っている力なら、私達の言葉も光の民の言葉も理解出来るでしょう? 」 


 確かに通訳なら出来る。 でもアルベルト卿を国王にするって…… 意図も手段もいまいちよく分からない。


「アーティアさん、あの…… どうしてアルベルト様を国王に? 」


「ファーランド国王が亡くなって4年…… 宰相がこの国の実権を握るようになってから、何かがずれ始めてる。 私はバルドルにこれ以上好き勝手させてはならないと思ってるわ 」


 え…… それって、光奴を引き連れて戦えってこと…… ?


「協力して欲しいの。 アルベルト様がファーランドを統治すれば、光の民達も怯えて暮らすこともなくなるわ 」


 アーティアさんの目は本気だ…… ずっと私達のようなスキル持ちを待っていたのだろう。


「…… 光ちゃんと相談します。 私は1人じゃないです 」


 真っ直ぐ私を見つめるアーティアさんに、私はそう答えるのが精一杯だった。

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