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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
2章 フォン・ガルーダの光奴
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38話

「また二人になっちゃったね…… 」


 二人はギルド兵を散々振り回した後、再び崖の下の池まで戻ってきていた。 池の水で顔を洗い、喉を潤し、近くの木の上に寝床を作る。 以前使った焚き火の跡もそのままで、近くには豚と思われる骨が散乱していた。


「レベッカさんが無事ならそれでいいだろ 」


 光は組み合わせた枝にゴロンと横になる。 眠る訳ではなく、じっと一点を見たまま難しい顔をしていた。


「なぁ翔子、俺ら光奴ってこの世界のなんなんだろうな…… 」


 翔子はアルベルト達と会話した内容を、落ち着いた頃を見計らって光に伝えた。 光奴の扱いや噂話、ローレシア公国の存在…… 光はそれを聞いて難しい顔をする。


「ギルドってなんなんだ? 警察のようなものじゃなかったんか…… 」


「うん…… 私もそうだと思ってたんだけどね。 バルドルの犬ってだけみたい 」


「宰相だっけ? そういえばこの国ってまだ次の国王って立ってないんだよな? 」


「分かんない。 みんなの話の中にも国王って名前は出てこなかったけど…… 」


「ちょっとおかしくねぇか? 4年前に崩御して未だに国王不在…… 実権はそのバルドルって宰相が握ってるんだろ? 」


「そうだと思う 」


「なんか国王を罠にハメて国を乗っ取ったボスキャラみたいだよな 」


 プッと翔子が吹き出す。


「ボスキャラって…… そのボスキャラをやっつけちゃうつもり? 」


「それもアリなんじゃね? 」


「だけど私達の目的は日本に帰ることだよ? ゲームみたいに戦うことなんて出来ないよ、危ないよ! 」


「帰れる手段の見当ついてるのかよ? 」


 光はムクッと起き上がって翔子の前にあぐらをかき、グイッと翔子に詰め寄るように顔を近づける。 翔子は仰け反って顔を赤らめた。


「ち、近いって…… 」


「どうなんだよ? 本当に俺らは帰れるんか? 最初の目的だった国王はもういない。 ギルドは俺らを捕まえようとしてるし、アルベルトは立場上動けないし 」


「で、でもミナミは帰れたんだよ? きっとアルベルト卿が何か知ってる…… 」


「じゃあなんでアルベルトは光奴を送り返さずに匿ってるだけなんだ? 方法を知っているなら匿わずすぐに送り返せばいい筈じゃないか 」


「そんなの私だって知らないわよ! でもミシェルさんはアルベルト卿なら知ってるって言ってたじゃない!」


「あまり人の話を鵜呑みにするなよ。 それにお前が知ってる世界から7年が経ってるんだ、変わっててもおかしくない 」


「そんなの! …… そんなの…… 」


 涙ぐむ翔子に対して光は至って冷静だった。


「じゃあ私は何を信じて進めばいいのよ…… 」


 光は顔を両手で覆って俯く翔子の頭を撫でる。


「キツく言い過ぎた…… ごめん。 俺はお前を無事に現実世界に帰したい。 だからさ、情報をできるだけ集めよう。 お前の翻訳能力に頼るしかないんだけど…… 」 


 翔子は顔を覆ったまま首を横に振る。


私を(・・)じゃなくて二人で(・・・)、だよ。 私だって光ちゃんを無事に現実世界に帰したいもん 」


 『そっか』と光は笑う。 翔子もグイッと涙を拭いて光に笑って見せた。


「ケンカしたって仕方ないもんね、頑張って帰ろう 」





 翌朝、翔子と光はまだ日が登る前に崖を上がり、以前光が追いかけられた放牧場に立っていた。 目的は小屋に常備されている食糧と武器になりそうなもの、そして衣服だ。


「借りるだけだからね、借りるだけ 」


 牛や豚にガン見されながら翔子は恐る恐る小屋に侵入する。 光が入口で見張りをする中、翔子は棚や置いてある木箱を片っ端から開けて中身を確認するが、食糧も衣服も見つけることは出来なかった。


「翔子、急げ。 人の声がする 」


 慌てて翔子が小屋を飛び出すと同時に、女性の叫び声が辺りに響いた。


「また出たのか! ギルドに報告しろ! 」


 突然の叫び声に放牧場の仲間がスコップを構えて駆け付けてくる。


「早く乗れ翔子! 」


 屈んで背中を向ける光に、慌てて飛び乗ろうとした翔子は小石につまずいて転ぶ。


「逃げて光ちゃん! 」


 足を捻った翔子は、足の痛みに顔を歪めて起き上がることが出来ない。 光は即座に走り寄り、翔子を抱えて駆け寄る男達の頭上へ飛んだ。


「どっちに行けばいい!? 」


 宙に浮いている間に光は翔子に方角を聞く。


「あっち! トゥーランはこの方向だと思う! 」


 呆気に取られる男達を飛び越え、綺麗な着地を決めて光は獣道を走り出した。


 入り組んだ獣道をひた走り、分岐点は高くジャンプしたり木に登ったりして方向を確かめる。 二人はまずトゥーランへ行き、アルベルトに渡しそびれたミシェルの手紙を届けようと決めた。 人目を避けて森の中を一直線に突っ切るが、何度も狩人や商人らに出くわし、その度に驚かれたり追い回されたりした。 やっとエトの村の外れまで辿り着くことが出来たが、やはり人目を嫌ってぐるりと迂回をする。 森の中からトゥーランの民家の明かりが見えたのは、リエッタの村を逃げ出してから5日後の深夜だった。


「あの…… アルベルト卿はお戻りですか? 」


 翔子は光に背負われながら、アルベルトの屋敷の裏口玄関を警備していた兵士に訪ねる。


「お戻りになってはいるが、今何時だと思ってい…… あ! お前この間の! 」


 光を見た兵士が、光を指差して声を張り上げる。 二人は揃ってシーッと口の前に指を立てた。 兵士は慌てて自分の口を塞いでコクコクと頷く。


「夜遅くにすみません、どうしてもアルベルト卿にお会いしたくて 」


「分かった、とりあえず中に入られよ 」


 二人の素性を知っていたのか、兵士はすんなりと裏口玄関のドアを開けて二人を中に入れた。 くまなく辺りを警戒し、誰もいないことを確認すると自分も中に入る。


「リエッタでの事はアルベルト様に聞いております。 よくぞご無事で 」


 そう言うと兵士はバタバタと廊下を走って行く。 しばらくすると、ガウンを着たアルベルトが早足で廊下を歩いてきた。


「ショウコ! 無事だったか! 」


 アルベルトは目を見開いて、翔子と光の側に駆け寄る。 背負われたままの翔子にアルベルトは首を傾げ、ボッコリと腫れた翔子の足を見て声を張り上げた。


「アーティアを呼べ! すぐに手当ての準備を! 」


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