37話
「トゥーランにいたかと思えば、ギルドもよほど暇なようだなネブール 」
アルベルトは翔子と光を庇うようにギルドの前に立つ。 ギルド兵の団長ネブールはマルベスさんの家の中をしきりに覗き見ていた。
「光奴がここに逃げ込んだと目撃証言があったものですからねぇ、中を拝見させてもらいますよ 」
彼はアルベルトに一礼して強引に体を滑り込ませてきた。 だがアルベルトは彼の肩を掴み、押し戻して睨む。
「私の部下の治療中だ。 立ち入ることは許さん 」
アルベルトとネブールはそのままの態勢で互いに睨み合う。 ネブールはふと翔子と光に目を向けた。
「…… 見ない顔ですねぇ。 お名前は? 」
「ショウとヒカエルだ。 私の部下だが? 」
「貴方に聞いているんじゃないんですよ領主様。 領主様に紹介させるとは、なってない部下ですねぇ 」
ギルド兵達は翔子達を取り囲んだまま武器を下ろそうとしない。
「なっていないのは貴様の方だネブール! ギルドと言えど、私に剣を向ける事の意味をわかっているのだろうな? 」
「分かっていますとも、アルベルト卿。 貴方には光奴を匿っているという疑いがあるのですよ。 以前からね 」
「知らぬな。 疑いがかかっているのはキールも一緒だろう? スキル持ちを王都に献上しないというな 」
「他の領主の事は私の管轄外ですから。 さあ、疑われたくなければそこを退いて頂きましょうか 」
アルベルトはキッとネブールを睨めつけた後、翔子と光を背に隠すように玄関から体を引いた。 ネブールは薄笑いを浮かべて部下のギルド兵数人と家の中に入っていく。
「光ちゃん、アルベルト卿がピンチだよ…… 」
アルベルトのマントの後ろに隠れて翔子が光に耳打ちする。 取り囲むギルド兵に悟られないようゴニョゴニョと話す内容に、光はただその言葉に耳を傾けて最後に一つ頷く。
「アルベルト様…… 」
翔子はアルベルトにも後ろから耳打ちする。 アルベルトはギルド兵に気付かれないよう体を傾けて翔子の言葉を聞く態勢を取った。
「上手く話を合わせて下さい。 あの…… ありがとう 」
「? うぉ!? 」
翔子の言葉を合図に、光はアルベルトを軽々と持ち上げて勢い良く家の中に放り投げた。
「な、何事だ!! 」
突然ドアを突き破って飛び込んできたアルベルトに、ネブール達ギルド兵とバラム達は慌てる。
「うるあぁぁ!! 」
家の外では光がギルド兵の足を片手で持ち、振り回して群がるギルド兵を蹴散らしていた。
「うわぁ! なんだコイツ!! 」
「光奴だ! なんて力してんだ! 」
護衛兵の格好をした光にギルド兵達はなすすべもなく吹き飛ばされていく。
「何をしている! 光奴一人ごときに何を手こずっているのだ! 」
「ですがネブール様! コイツとんでもない力で…… うわぁ! 」
光が振り回していたギルド兵を投げつけられ、その兵と一緒に草藪に消えていく。
「まさか貴方の部下に紛れ込んでいたとは…… 」
ネブールはアルベルトを睨み付ける。 アルベルトは唖然とドアの外で暴れる光と翔子を見つめていた。
「フフ…… 騙された、という顔ですな。 後は我々に任せてもらいましょう 」
ネブールは腰の剣を抜いて部屋を出ていく。
「ショウコ、まさか私を庇うつもりで…… 」
態勢を立て直し、慌てて飛び出そうとするアルベルトをアーティアが止めた。
「なりませんアルベルト様! あなたがここで飛び出せば、領民と庇っている光の民はどうなります!? 」
「しかし! 」
「あなたは領主なんです! ご自分の立場をお考え下さい! 」
アーティアに言われてアルベルトは歯を食いしばる。 立ちあがり、鬼のような形相で腰の剣を鞘ごと引き抜いて投げ捨てた。
「また私は救えないのか…… 」
拳を握り締め、肩を震わせるアルベルトの腕にアーティアはそっと手を添えた。
「ぬがあぁぁぁ!! 」
光は立ち木を無理矢理引き抜いて、取り囲むギルド兵達に振り回す。
「光ちゃん! もういい、逃げよう! 」
光の背中に張り付くように隠れていた翔子が叫ぶ。
「先に行ってろ! 」
翔子は全力で外円道を走り出す。 光はネブールに持っていた木を投げ付けると、翔子の後を追って逃げ出した。 すぐに翔子に追い付き、翔子は慣れたように背中に飛び乗る。
「付かず離れず、だよ! 頑張って! 」
「了解! 振り落とされるなよ! 」
翔子の狙いは、自分達がアルベルトの目を欺いて懐に入り込んだとネブールに思わせることだった。 少しでもアルベルトから自分達にギルド兵を引き付けようと、適度な距離を保ってトゥーラン方向に逃げる。
「追え! 逃がすな! 」
木の下敷きになりながらもネブールは部下に指示を出した。 動けるギルド兵は全て二人を追いかけ、ネブール一人が取り残される。
ジャリ……
木の下敷きになって倒れているネブールにアルベルトが詰め寄る。
「貴方の懐に入り込んでいたとは…… ですな 」
「そう言って私に剣を向けたことをはぐらかすつもりか? 覚悟しておけよネブール 」
アルベルトは冷や汗を垂らすネブールを見下ろし目を細めて威圧した後、遠ざかっていく翔子と光をじっと見つめていた。




