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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
2章 フォン・ガルーダの光奴
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36話

「…… へ? 」


 この奥に光奴が何人も……


 レベッカさんが何日か前に、アルベルト卿が保護していると言っていた事を思い出す。 


「安心しな。 俺達は領主様から光の民の保護を任されている者だ。 ギルドの連中になんか引き渡さねぇよ 」


「あの…… この奥に光奴が何人もって…… 」


「このシエスタにやって来た光の民のうち、ギルドより先に発見できた者達を保護している。 全ては領主様の意向でな、ギルドにバレないように匿ってるのよ 」


「バレないように? アルベルト卿とギルドって対立してるんですか? 」


「随分とイシュタル(こちら)に詳しいようじゃが、それは後で聞かせてもらうかの 」


 バラムさんはよっこらせと木製の椅子を私の側に持ってきて腰掛ける。 ちょっと長い話になりそうだけど、これは聞いておかなければ今の情勢が分からない。


「お嬢さん、名前は? 」


「翔子と言います 」


「よい名前じゃな。 翔子はミナミという光の民がこの世界にいた事を知っとるかね? 」


 私は≪イシュタルの空≫について簡潔にバラムさんとマルベスさんに説明し、レベッカさんとエミリアさんに聞いたその後のことを話した。


「そこまで知っているなら話は早いの。 簡潔に言ってしまえば、このファーランド王国はもう別物の国になってしまったのじゃ 」


「べ、別物? 」


「国王亡き後に、この国の実権を握ったのはバルドルという宰相だ。 バルドルは光の民を忌み嫌い、片っ端から捕まえて王都に呼び寄せて処刑していったんだ 」


「そんな…… 私達だって来たくて来てる訳じゃないのに…… 」


「それを良しとしなかったのが、このシエスタの領主アルベルト・コールベルじゃ。 じゃがあの男も領地を治める立場じゃから、表立って宰相の意に反することも出来んでの。 全ての光の民を救うことは叶わないが、宰相の犬であるギルドの目に触れる前に保護しようとしてるのじゃ 」


「そうだったんですか…… 」


 かなり遠回りしてしまった…… 狩人達に捕まった時に大人しくトゥーランに行っていればと悔やむ。


「お前さんは言葉を理解出来るスキル持ちだからな、ギルドが血眼になって探してたのも頷ける 」


「…… どういう事ですか? 奴隷としてこき使ったりするのも、そんな特殊能力は邪魔になるだけなんじゃ…… 」


「奴隷、というのは王都に光の民を集める口実に過ぎんよ。 集められた光の民のその後は、誰も姿を見たという話を聞かないのじゃ 」


「じゃあどうして…… どうして私達はこの世界に呼ばれたの? 誰かが光を使って転移させてるんじゃないの!? 」


 訳が分からなさすぎてつい怒鳴ってしまう。


「これも噂でしかないんだが…… 」


 マルベスさんは言おうか迷っていたようだが、私の目をじっと見て口を開いた。


「軍事利用の為の実験体にしている、という話がある 」


「じっ…… 験体…… ? 」


「誰がどのようにして、光の民をこの世界に呼び寄せているかは分からない。 だが、バルドルは、ローレシア公国に対抗する軍事力を手に入れようとしているという話がある 」


 ローレシア? 軍事力? なにそれ……


「え…… イシュタルって浮遊大陸なんでしょ? ファーランドって大陸全体を統治してるんでしょ? 」


「イシュタル大陸は確かに浮遊大陸じゃが、レーンバードの向こうにはローレシアという国があるのじゃよ 」


 レーンバード…… 聞いたことのない言葉に耳を疑う。 地名? 町の名前? 


「そうか、お前さんはローレシア公国を知らないんだな。 北のアベルコ領の北端、レーンバードという国境の町の先には別の国があるんだよ。 ここより遥かに技術が進歩した国がね 」


 ≪イシュタルの空≫には登場しない国。 ミナミはその国の存在を知っていたんだろうか……


「戦争…… してるんですか? 」


 なんとなく見えてきたような気がする…… 私達をスキル持ちと呼ぶ理由も、光奴を捕まえる理由も。


「ローレシアが攻めて来ることはない。 むしろ和平を望んでいるのだ 」


 聞き覚えのある凛々しい声…… 気が付けば、ドアの前にはいつの間にかアルベルト卿と光ちゃんが立っていた。


「光ちゃ…… 光ちゃん! 」


 思わず光ちゃんに飛び付いてギュッと抱きしめる。


「よ、良かったぁ! 怖かったよぉ! 」


「泣くなよ。 よく頑張ったな、エライエライ 」


 よしよしと私の頭を撫でる光ちゃんに、普段なら子供じゃないと文句を言うところだが、今は無事で帰ってきたのと寂しかったのでいっぱいだった。


「レベッカの容態は? バラム 」


「安心は出来んがな、今は薬で眠っとるよ 」


 アルベルト卿はレベッカさんの顔を覗き込み頬を撫でる。


「死ぬなよレベッカ。 彼らが体を張って救ってくれた命だ、無駄にしてはならん 」 


 アルベルト卿は連れてきたアーティアという女性によろしく頼むと言うと、私に向かって片膝をついた。

 

「キール領での一件、危ないところを救って頂き感謝しきれない。 その上部下の命まで救って貰うとは…… 領主としてではなく、個として感謝する 」


 私と光ちゃんに深々と頭を下げるアルベルト卿にあたふたしてしまう。


「いえ…… みんなのお陰であって、私は何も…… 」


「謙遜されるな。 ショウコ、君がいたからこそ彼もあの少女も動けたのだ。 ありがとう 」


「いや、あの…… どういたしまして 」


 アルベルト卿の紳士なお礼にちょっと顔が火照ってくる。 いや、照れてる場合じゃない…… 


「あの…… アルベルト卿。 光奴が戦争の道具にされるって本当ですか? 」


「そんな話もあるが、真実かどうかは私にも分からぬ。 王都に連れていかれた光の民の行方は、各領主にすら知らされないからな。 ただ…… 」


 アルベルト卿は何かを言おうとしたが、ひとつ咳払いをして口を閉じてしまう。


「教えて下さい。 私達に関係することなのですよね? 」


「…… 屋敷に戻ってからでよいか? 今はレベッカを救いたい 」


 そうだよね、私もレベッカさんは心配だ。


「このバラムとアーティアは、以前は王都の腕利きの医者でな。 今は訳あって私の配下にいる。 後は彼等に任せておけば大丈夫…… ということでショウコ、私達は外で治療が終わるまで待つとしようじゃないか 」


 アルベルト卿に促され、私達はバラムさんとアーティアさんを残して部屋を出たその時だった。


「おはよう…… いやもう『こんにちは』の時間ですな、領主様 」


 玄関先で私達を待ち構えるように立っていたのは、槍や剣を私達に向けているギルド兵士の一団だった。

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