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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
2章 フォン・ガルーダの光奴
33/159

32話

 アルトとアヴィが牽く荷馬車に揺られ、私達はシエスタへ行く途中の村ハイドンへ到着した。 仕事のついでだからと乗せてくれたエミリアさんの横には、今にも泣きそうなアリアちゃんが俯いている。


「こらアリア。 そんな顔してちゃショーコも不安になっちゃうでしょ? 」


 アリアちゃんは黙って頷く。 とてもなついてくれていただけに私も後ろ髪を引かれる。


「大丈夫ですよアリアさん、トゥーランまでは私が無事に送り届けます 」


 レベッカさんもまた、あまりミシェルさんにお世話になる訳にはいかないと馬車に便乗していた。 昨日ムチャしたせいで傷口が開いている筈なのに、痛い素振りを全く見せない。 そこはやはり兵士という職業柄なのだろう。


「それじゃ私達はここで。 ショーコ、頑張ってね 」


 エミリアさんが御者台から手を振る。 私は深く頭を下げてそれに答えた。


「ありがとうございました。 お世話になりっぱなしで何も返せてないけど…… 」


「気にしないでよ。 君達を拾ったのは私のおせっかいだし 」


「おねーちゃん! 」


 笑顔で見送ってくれるエミリアの横から突然アリアちゃんがダイブしてきた。


「また! また会えるよね!? 」


 その言葉に私も泣きそうになるが、懸命に堪えてアリアちゃんを強く抱き締める。


「そうだね、きっと会えるよ。 だからその時まで笑顔でいてほしいな 」


 ミシェルさんの受け売り…… 多分もう会うことは出来ないが、アリアちゃんが笑って生きていけるのなら必要な嘘だと思う。


「ヒカルも元気でね。 私、君の事気になってたの知ってた? 夜のお相手もしてみたかったわ 」


 え…… 


ありがとう(・・・・・) 」


 ぶっ!? いやいや光ちゃん、今それ言うことじゃないよ!


「じゃあねおねーちゃん! おにーちゃん! 」


 御者台の上で泣きながらも笑顔で手を振るアリアちゃんに、私も馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。


「私達も出発しましょう。 今日中にはシエスタへ入れると思います 」


 レベッカさんに促されて、私達は後を追うように歩き出した。




 本来、領地間の移動は馬車で行うとレベッカさんは言う。 徒歩ではさすがに町は遠く、それでも日暮れ頃にはあの吊り橋までは辿り着ける予定だそうだ。 


 しばらく歩くと、シエスタとエルンストを繋ぐ大きな吊り橋の柱が見えてきた。 もう少しですね…… そう声を掛けようとレベッカさんを見ると息が少しあがってきていることに気付く。


「…… 少し休みませんか? 」


「いえ、景色を見る限り少し時間が押しています。 私の事は心配無用です 」


 振り向いて笑顔を見せるレベッカさんの額には玉になった汗が滲んでいた。 やっぱり傷が痛むんだ……


「光ちゃん 」


「うん? 」


 私はレベッカさんを指差す。 私の気持ちを察してくれた光ちゃんは、レベッカさんの前に立ちはだかった。


「どうしました? 私の事なら…… はぅ! 」


 光ちゃんは有無を言わさず、レベッカさんを背負い上げて歩き出す。


「光ちゃん、少し走ろう。 時間押してるって 」


 私が先頭をきって走り出すと、光ちゃんも背中のレベッカさんに気を使いながら後をついてきた。


「ヒカルさん! これではヒカルさんがバテてしまいます! 」


「光ちゃんはそんなことでバテたりしませんよ。 それに、私が言わなくてもそうしてたと思います 」


「…… 甘えさせてもらいます 」


 レベッカさんは光ちゃんにもたれかかってぐったりとする。 やっぱり怪我の具合が良くなかったんだ……


 ハイドンに引き返した方がいいだろうか。 考えながら走っていると、吊り橋の前に立つ人影が見えてきた。 旅人…… の装いではない。 行商人のような荷物も抱えてはいない。 あれは……


「ローランさん! 」


 思わぬ人物の姿にびっくりして駆け寄る。 なんでこんな所に? いつ追い抜いた?


「どうしたんですか? 倉庫で仕事をしてた筈じゃ…… 」


「君達をシエスタに行かせる訳には行かないんだ 」


 ローランさんは背中のリュックサックから短剣を取り出し、リュックサックを投げ捨てた。 刃先を私に向けてゆっくりと近づいてくる。


「え…… 」


 私の頭の中は真っ白になっていた。 行かせる訳には行かない? どうして剣を向けるの?


「ショーコ様! 下がって下さい! 」


 叫び声と共にレベッカさんが私とローランさんの間に割って入った。 腰の長剣を抜いてローランさんに対峙した瞬間、レベッカさんの脇腹をローランさんの右足が捉えた。


  ゴキン!


「あぐっ!! 」


 鈍い音がして、レベッカさんは横に吹き飛び地面を転がった。 剣を振り落とし、仰向けでレベッカさんは動かなくなってしまった。


「なっ!? レベッカさん!! 」


 駆け寄ろうとすると、ローランさんが私の前に立ち塞がる。 レベッカさんを吹き飛ばしたこの力…… 思わず一歩後ずさる。


「手負いの剣士などどうでもいいよ。 大人しくミシェルの手紙を渡して 」


 ローランさんは再び私に刃先を向けた。


「…… なんで? 」


 私の質問に答えずローランさんが一歩を踏み出した途端、私の横を突風が吹き抜けた。


  ゴスッ!


 ローランさんが一瞬で後方に吹っ飛ぶ。 光ちゃんが私の後ろから飛び出し、ローランさんに殴りかかったのだ。


「逃げろ翔子! 」


 叫ぶ光ちゃんの声にビクッとしながらも、私は吹き飛ばされたレベッカさんに駆け寄って体を揺する。


「レベッカさん! レベッカさん!! 」


 何度も体を揺するが、レベッカさんはピクリとも動かない。 まさか…… そう思って口元に耳を近づける。


「…… ぁ…… ぅ…… 」


 良かった、生きてる! とにかくレベッカさんを抱き起こそうと脇の下に腕を入れるとレベッカさんの体に違和感を感じた。 肋骨が折れてるのかもしれない。


「光ちゃ…… 」


 光ちゃんを呼ぼうと光ちゃんを振り返ると、光ちゃんはローランさんに5メートル近くも吹っ飛ばされていた。 やっぱりローランさんは光ちゃんと同じ力を持ってるんだ。


「くっ! んの野郎! 」


 光ちゃんは体を捻って上手く着地し、すかさずローランさんに体当たりをした。 吹っ飛ばされたローランさんもまた反転して見事に着地する。


「逃げ…… 下さ…… ショーコ…… 様…… 」


 私の肩を震える手で掴み、レベッカさんは私を払いのけようとする。


「一緒に逃げるの! 」


 レベッカさんを怒鳴り付けて頭を胸に抱える。 離すもんか…… 絶対私1人では逃げない!


 「痛いと思うけど我慢してね! 」


 私はレベッカさんの肋骨が折れていない側の脇の下に体を入れ、レベッカさんを無理矢理立たせて光ちゃんを探す。 吊り橋から離れた場所で戦っている光ちゃんは、振り回す短剣を巧みにかわしながらローランさんを蹴り飛ばしていた。 とにかく橋を渡ろう。 光ちゃんがローランさん…… いや、ローランを引き付けてくれている今がチャンスだ!


「頑張ってレベッカさん! 」


 意識が朦朧としているレベッカさんに必死に声を掛けて吊り橋を目指して走る。


 重い…… 重いけど! やっとの思いで橋のたもとに辿り着くと、光ちゃんが地面を転がりながら吹っ飛んできた。 仰向けに倒れた光ちゃんは苦笑いを私に向ける。


「ヤベーぞ翔子! アイツ俺と同じ力を持ってやがる! 」


 私達を追い詰めるようにゆっくりと近づいてくるローランは、光ちゃんの力を相手にしても引けをとっていないようだった。 


「ど…… どうして!? 」


 私はローランに叫ぶ。 どうしてこんなことをするのか私にはさっぱり分からなかった。


「目立つような事はするなって言った筈だよ 」


「…… え? 」


「鉛筆なんて作ったら、ミシェルが光奴と内通してるってバレるじゃないか 」


 え…… なにそれ…… それって……


「その上ミシェルの手紙でアルベルト卿が動き、それを宰相が知ったらミシェル達の身が危ないじゃないか 」


 それで私達を追いかけて…… ローランの目には涙が滲んでいた。


「だからここで死んでよ 」


 ローランは短剣を構えて突っ込んでくる。 すかさず光ちゃんが足払いをかけ、つまずいてバランスを崩したローランを蹴り上げる。 すぐに起き上がった光ちゃんは、私の腰ベルトに着けていた短剣を抜き、私の腰に腕を回して持ち上げ吊り橋へ走り出した。

 

「翔子! 絶対レベッカさん離すなよ! 」


  バツン!


 光ちゃんは短剣で吊り橋を支える腕の太さほどもある太いロープを叩き切る。 支えの一本を失った吊り橋は大きく傾き、ミシミシと悲鳴をあげ始めた。

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