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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
2章 フォン・ガルーダの光奴
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28話

「よーい! ドン!! 」


  ドン!


 地響きと蹴り上げた土を巻き上げながら、光はスタートダッシュをかける。 翔子を置き去りにし、あっという間に馬の集団の後方に追い付いたのだ。 


「よっ! 」


 距離を計りながら最後尾の馬に飛び乗り、兵士の襟首を掴んで上に放り投げる。


「うあぁっ! 」


「なんだ!? 」


 不意に馬から放り投げられた兵士の叫び声に、前を走っていた兵士が振り向く。 が、そこには馬だけが走っていて仲間の姿が見当たらない。


  ドスッ!


 振り向いていた兵士の後ろに光が上から降ってきた。


「うるぁ! 」


 光は兵士を軽々と持ち上げて前を走っている兵士目掛けて投げつける。


「おわぁ! 」


 投げつけられた兵士は、ぶつかった兵士と馬を巻き込んで地面に転がって行った。


「なんだ!? 」


 異変を感じたアルベルトが振り向くと、エルンストの騎兵が次々に宙を舞っている不思議な光景が目に入る。 剣を打ち合わせて交戦していたアルベルトの部下達も、空高く放り投げられているエルンスト兵に呆気に取られていた。


「なっ! 」


 光は5人のエルンスト騎兵を放り投げて、次にアルベルトの部下の馬に飛び移る。


「お、俺は違っ! うおぁ!! 」


 アルベルトの部下まで、光は襟首を掴まえてポイッと横に投げ捨てる。 更にもう一人の部下の馬にも飛び移り、腰ベルトに手をかけて持ち上げた。 アルベルトは慌てて馬のスピードを落として左手を光に向ける。


「ま、待て! それは私の部下だ! 」


「? 」


  ポイッ


「うわぁぁ…… 」


 部下は大の字で空高く舞い、草むらの中に落ちていく。 急停止したアルベルトは馬に乗ったまま両手を上げ、光に戦意がないことを必死にアピールして見せた。


「君はあの時の…… 」


ありがとう(・・・・・) 」


 光は覚えたての片言の言葉でアルベルトにお礼を言い、頭を下げて走り去る。 物凄い速さで走り去って行く光を、アルベルトは唖然と見つめていた。


「ご無事ですかアルベルト様! 」


「あ、あぁ…… 」


 光に放り投げられたアルベルトの部下が、片腕を押さえながらアルベルトの元に走り寄ってきた。


「お前達は無事か? 」


「モルドットがやられてしまいました。 ハンスは…… 無事のようです 」


 草むらから起き上がったアルベルトの部下は、頭を押さえながらも大きく手を振っていた。


「レベッカも無事でしょうか…… 」


「わからぬ。 あの少女が間に合ってくれれば助かるだろう 」


 アルベルトとその部下は、土煙しか見えなくなった光の後ろ姿を見つめていた。


「…… 助けてくれたんでしょうか 」


「かもしれぬ。 片言だったが、『ありがとう』と言っていたからな…… あの少女に関係しているのだろう 」


「追いますか? 」


「いや、お前達もそのケガではまともに動けぬだろう? まずはこの場を離れるのが先決だ。 レベッカは…… 信じるしかあるまい 」


「承知しました 」


 アルベルトは地面に横たわっているエルンストの騎兵達を見据える。


「やってくれるなキール…… 」


 部下達が残った馬で走り出すのを見届け、アルベルトもその後を追って馬を走らせた。





 白いシーツの上、アルベルトの部下のレベッカは目を覚ました。 うつ伏せに寝かされ、傷口には処置が施されて包帯が巻かれていた。


「うっ! 」


 彼女は起き上がろうとしたが、背中に力が入らずその場に崩れる。 その横にはアリアが涙目で座っていた。


「あ! ミシェルー! 兵士のおねーさん起きたよー! 」


「ミシェル…… ? 」


 アリアの大声にミシェルがゆっくりと部屋に入ってきた。 ミシェルはアリアの両肩に手を置きアリアを落ち着かせる。


「ほら大丈夫だったろう? 」


「うん、さすがミシェルだね 」


 ミシェルはアリアの頭を撫でてハハハと笑う。


「具合はどうだい? 」


「はい、ありがとうございます…… ここは? 」


「エルンストだよ。 この子を助けてくれたんだってね、お礼を言うよ 」


「はっ! アルベルト様! 」


 レベッカは再び起き上がろうとしたが、やはり顔を歪めてシーツの上に崩れた。


「傷は浅くはないんだ、無理をするものじゃないよ 」


 ミシェルは押さえつけるようにシーツをレベッカにかける。


「でもアルベルト様が! 」


 「大丈夫。 彼はそんなヤワじゃないし、今頃ワタシの娘達がなんとかしてる頃さ。 それよりも今はゆっくり休んで傷を治さないとだよ 」


「娘…… ですか? 」


「そう! つい最近娘になったばかりなんだけどね、これがまた可愛くて可愛くて…… 」


「ミシェルさーん! うわっ! 」


「おねーちゃん! 」


 バタバタと戻ってきた翔子を、アリアが涙目でダイブして迎えた。 その二人をミシェルは更に抱き上げて頬擦りした。


「大丈夫だったかい? ショーコもヒカルもケガしてないかい? 」


「だ、大丈夫でふ。 あ、この人も無事だったんですね、良かった 」


 翔子はアリアに頬擦りされながらもレベッカの無事を喜ぶ。


「ヒカルの止血が良かったんだよ。 傷は深くて痕は残ってしまうけど、命に別状はないよ 」


 翔子と光は安堵のため息を1つ。


「ありがとうございます。 あの…… アルベルト様は? 」


「追っ手を追い払って上手く逃げたみたいですよ 」


 翔子がそう言うと、レベッカは『良かった』と肩の力を抜いた。


「何があったか聞かせてくれるかい?  」


「はい。 私達はトゥーランへ向けて帰還する途中、道端で倒れていた光奴の少女を発見しました。 その少女は傷だらけで、既に亡くなっていたのですが。 その場に放置せず、トゥーランへ連れ帰って弔ってやろうとアルベルト様が仰ったのです 」


「まぁ…… 彼らしい選択だねぇ 」


「え? 」


 ミシェルの言葉に翔子は耳を疑う。 ミシェルは『後で説明するよ』と翔子に伝えると、再びレベッカの話に耳を傾けた。


「すると突然、エルンストの騎馬隊に取り囲まれ、我らがその少女を殺したと詰め寄ってきました。 兵士はその少女はスキル持ちだと言い、突然攻撃してきたのです。 勿論抗議しましたが…… 」


「…… キールにハメられた、そんな感じだねぇ 」


「はい、その時にその子が偶然通りかかったのです。 目撃者はマズかったのでしょう、兵士は突然その子にも斬りかかって…… 咄嗟に応戦したのですが、斬られてしまいました。 情けない話です 」


「すまなかったね、この子が安易に近寄らなければこんなことにはならなかったのに 」


「いえ、その子が悪い事ではありません。 私の未熟さが悪いのです 」


 レベッカはアリアに微笑む。


「君は喧嘩している私らを止めようとしてくれたんですものね。 ありがとう 」


 アリアは涙ぐみながらも、レベッカに首を一生懸命振っていた。


「ううん、ごめんなさい 」


「まぁ、暫く動くこともままならないんだからゆっくりすることだね。 アルベルトにはワタシから連絡しておくよ 」


 キョトンとするレベッカにミシェルはウィンクを1つ。


「失礼ですが…… アルベルト様とはどういうご関係ですか? 」


「なーに、古くからのちょっとしたご関係だよ 」


 ミシェルは少し気不味い感じで私に微笑むのだった。

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