表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イシュタルの大地へ  作者: コーキ
2章 フォン・ガルーダの光奴
28/159

27話

 エルンストの街は、キール卿が治める領地エルンストの中心部。 名前は一緒だけど、言わば県庁所在地のようなものだ。 小説ではファーランド王城がある王都よりも人口が多く、物品流通の大動脈らしい。 食材屋や武器防具屋、雑貨屋が軒を連ねて活気もあり、通りを歩く人達も多く、キール卿の統治力が窺える。 


  ツンツン


 肘で脇腹を突っついてくる光ちゃんを見ると、笑ったり真顔になったりを繰り返して無言で『緊張するな』と言っていた。 そうか、光ちゃんは外で話すとマズイもんね……


「うん、大丈夫。 あ、そこの角を曲がった所みたいだよ 」


 光奴だとバレるんじゃないかとドキドキしながらも、平静を装って前を向く。 すれ違う人や商店の人達の視線が私達に向けられてるような気もするけど…… 私達は今運び屋フォン・ガルーダなのだと胸を張った。


「ん? 」


 行き交う人達がゆっくりと、通りの真ん中を開けて道を作り出し立ち止まる。 ちょっと異様な雰囲気に、私達もそれに習って道を開けて立ち止まると、馬に乗った兵士一行が道の真ん中を通り過ぎていった。


「………… 」


 その中に、白く長いマントを羽織ったカイゼル髭の凛々しい男性。 昨日も見た、東南の領地シエスタを治めるアルベルト卿だ。


 こちらには気付いていないようで、一行が通り過ぎると人々もまた普通に歩き出したのを見て、ホッと胸を撫で下ろす。 領主が来た時はこう対処するんだ…… こんなこと小説には書いてないもんね。


「あ…… 」


 チラッと振り返ると一行は、フォン・ガルーダの前で立ち止まっていた。 ミシェルさんが私達を無理矢理おつかいに出したのはこういう事だったのか…… 私は光ちゃんの袖を引き、少し早足で角を曲がった。


 



「ありがとうね、ミシェルにもお礼を言っておいてちょうだいね 」


 ノイエールさんに木箱を渡し、お茶まで戴いた私達は、しばらく雑貨を見て時間を潰す。 もうそろそろ大丈夫だろうとフォン・ガルーダに戻ると、アルベルト卿一行の姿は既になかった。


「戻りましたー! 」


 お店に入るとアリアちゃんが勢い良くダイブしてくる。


「いいタイミングだねえ。 アルベルトも、今帰ったところだよ 」


「やっぱりそう言う事だったんですね。 言ってくれれば良かったのに 」


「おや気付いてたのかい? 言うとお前達も不安になるし警戒しちまうじゃないか 」


 苦笑いするミシェルさんに笑ってみせる。 そんな私達を、倉庫の柱の影から覗くローランさんがいたことを私は知るよしもなかった。




 昼過ぎ、ミシェルさんのデスクで伝票整理をしていると、お店の前を物凄い速さで駆け抜けて行く騎兵の集団が目に入った。


「なんだい? 騒々しいね 」


「何かあったんでしょうか? 」


 ローランさんがお店から通りを覗き見る。 ミシェルさんも眉間にシワを寄せて手を止めていた。


「…… アリアがちょいと心配だねぇ 」


 昼ご飯を食べた後、アルトと散歩に行ってくると出掛けたアリアちゃんはまだ戻っていない。 さっき出掛けたばかりだから戻りが遅いと言う訳ではないが、騎兵が向かった方向が一緒なのはちょっと胸騒ぎがする。


 この世界は平気で武器を向ける…… 私達は身をもってその事を知っているからだ。


「あの…… 私達が様子を見てきましょうか? 」


 あまり外を彷徨くのは良くないだろうが、昨日行った平原なら人目もあまりないし、さほど遠くはない。


「頼めるかい? お前達も気を付けるんだよ 」


 私達はミシェルさんに見送られてお店を出る。 念の為にとミシェルさんから受け取った短剣を腰のベルトに通し、私達は平原に向けて走り出した。





「ん? 」


 民家が途切れ、平原に差し掛かったところで私の後を走っていた光ちゃんが何かに気付いたみたいだ。


「どうしたの? 」


 私も立ち止まり、呼吸を整えながら光ちゃんに聞く。


「…… 血の臭いがする 」


 光ちゃんの視線は平原の先。 私には何も感じないが、身体能力がパワーアップされている光ちゃんには分かるのかもしれない。


「まさか…… アリアちゃん!? 」


 背筋にゾクッと悪寒が走る。 光ちゃんが向ける視線のその先に走り出そうとすると、光ちゃんに手を取られて引き留められた。


「アリアと決まった訳じゃない。 落ち着けよ 」


「アリアちゃんかもしれないじゃない! 手遅れになる前に助けに行かなきゃ! 」


「俺らが行って何ができる!? 」


「できるよ! 光ちゃんならなんとかしてくれるもん! 」


 目を見開く光ちゃんに、ハッと自分がバカな言ってしまった事に気付く。 私じゃない…… 光ちゃんに危険を冒して飛び込んで来いと言ってるようなものだ。


「…… ぷっ! ハハハ…… 」


 突然光ちゃんが噴き出した。 え?


「そうだった。 お前が物語を作るんだよな! 行くか! 」


「え? どういう意味…… 」


「俺、お前に『自分の物語を作ればいいじゃん』って言ったの忘れてた。 お前についていくって決めたんだ。 お前がなんとかしろと言うのならなんとかしてやる! 」


 光ちゃんは満面の笑みを私にくれる。 バカ、ケガするかもしれないのに…… 死んじゃうかもしれないのに…… カッコいいじゃん。


「おねーちゃーん! おにーちゃーん! 」


 遠くからアリアちゃんの声が聞こえてきた。 振り向くとアルトが砂煙を上げながら街道を走ってくる。 その背中には手綱を握るアリアちゃんとぐったりとした兵士が1人。


「アリアちゃん!! 」


 勢い良く私達の横を通り過ぎ、ブレーキをかけるアルトに私達は駆け寄った。


「良かった! ケガしてない!? 」


 目に涙を浮かべて頷くアリアちゃんは、普段のように私にダイブすることなく強気な表情をする。


「何があったの? 」


「馬の兵隊に襲われたの! 殺されそうになったけど、白いマントのおじさんに助けて貰って…… この人を頼むって! 」


 白いマント? アルベルト卿だろうか。 アリアちゃんの気が動転してて状況がよく分からないけど、一緒にアルトに乗ってきた女性の兵士は背中を袈裟に斬られ、服を真っ赤に染めていた。 光ちゃんは慌てて自分のベルトを引き抜き、上着を脱いで女性の傷口に当ててベルトを締めた。 効果があるかは分からないが、少しでも出血を止めるための処置だ。


「アリアちゃん、落ち着いてこの人をミシェルさんの所に。 大丈夫よ、きっと助かるから 」


 私自身おびただしい血を見て足が震えているが、それをアリアちゃんに悟られないように気丈に振る舞う。


「お願いねアルト。 行って! 」


 私はパンとアルトの脇腹を叩く。 私の気持ちを汲んでくれたのか、アルトは顔を上げていななくと、即座にエルンストに向けて走っていった。


「光ちゃん…… 」


「行こうぜ。 アリアに約束したんだろ? 」


 光ちゃんは背中を見せて屈んでくれる。 危険だけど…… アルベルトに捕まっちゃうかもしれないけど、アリアちゃんを助けてくれた人を放ってはおけない。 私は地を蹴って光ちゃんの背中に乗る。


「光ちゃん! 血の臭いのする方を追って! 」


「了解! 」


 徐々にスピードを上げて走る光ちゃんの背中から、私は真っ直ぐ前を見据えた。 震える足は光ちゃんがギュッと掴まえていてくれている。


 怖いけど怖くない! 


 やがて遠くに、私達の前を馬の集団が横切るのが見えた。 先頭を走る騎手は白いマントをなびかせている。


「光ちゃん! あれ! アルベルトさんが追われてる! 」


「オッケー! 」


 光ちゃんは急ブレーキをかけ、私をその場に降ろすと、クラウチングスタートの態勢になった。


「言ってくれ翔子 」


「…… 遊んでる? 」


「いいからいいから 」


 ちょっと楽しんでいるように見える光ちゃんに呆れながら、私はお決まりの合図を口にした。


「よーい! ドン!! 」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ