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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
2章 フォン・ガルーダの光奴
22/159

21話

  チュンチュン チュンチュン


 まだ太陽が登る前、雀の鳴き声で翔子は目が覚めた。 空はまだ薄暗く、湿気を多く含んだ空気が吐く息を白く染める。 翔子に抱き付いて寝ていたアリアの姿は既にない。 隣で寝ている光はまだ夢の中だ。


「あれ? アリアちゃん? 」


 翔子が周りを見渡してアリアを探していると、ミシェルの家の方から桶を2つ重そうに担いでくるアリアの姿があった。


「あ、起きた? おねーちゃん 」


 アリアは半分ほど水の入った桶をアルトとアヴィの前に置き、干し草の補充を始める。


「おはよう、アリアちゃん。 朝早いんだねー 」


「これがボクの仕事だからね。 それにアルトもアヴィは、ボクとエミリアの言うことしか聞かないし 」


 アリアはせっせと床の掃き掃除を済ませてアルトのブラッシングを始めた。


「私にも手伝わせてくれる? 」


 翔子はほどいていた髪を一つに束ね、干し草のベッドから起き上がって棚に置いてあったブラシを手に取った。 そのままアヴィの側に寄り、ポンポンと首を叩いて話しかけながらブラッシングを始める。


「…… おねーちゃん凄いなぁ。 ボクなんか最初触らせてもくれなかったのに 」


「馬のお世話は経験あるからねー 」


 シャッシャッと上から下へと力強くブラシを滑らせる翔子に、アリアも張り切ってアルトにブラシをかける。 アヴィも気持ち良さそうに目を細めて、翔子のブラッシングを大人しく受け入れていた。


「この後散歩に行くんだけど、おねーちゃんも一緒に行かない? 」


「うーん…… 行きたいけど、私が外に出て大丈夫かな…… 」


 ミシェル達がせっかく匿ってくれているのに、自分から目立つような事は出来ないと翔子は苦笑いする。


「大丈夫じゃない? ショーコは言葉も分かるし、今の格好ならウチの店員で通用するわよ 」


 エミリアが水を汲んだ木製のジョッキを両手に馬屋に入ってきた。 その一つを翔子に手渡し、もうひとつは『ヒカルの分ね』と棚に置く。


「おはようございますエミリアさん。 ありがとう 」


「朝霧が晴れるくらいに戻ってくれば大丈夫。 今日はアヴィをあなたに任せるわ 」


 一番はしゃいでいたのはアリアだ。 せっせと2頭の背中に鞍を乗せて準備を済ませている。


「それじゃ…… 行ってきます。 よろしくね、アヴィ 」


 翔子の身長を越えるくらいの高さの大きなアヴィの背中に、翔子はスルッと跨がる。


「フフッ 慣れたものね。 アヴィは気難しいから気を付けてね 」


 翔子とアリアはエミリアに見送られて馬屋をゆっくりと出ていく。 店先まで出て見送ったエミリアは馬屋に戻り、光の寝顔を覗き込んでいた。


「寝坊助さん、そろそろ起きてよー。 君にもお仕事してもらうんだぞー 」


 エミリアはクスクスと笑いながら小声で光に語りかける。 エミリアの声に光はムニャムニャと反応するが、またすぐに寝息を立てていた。


「昨日まで兵士に追われていたっていうのに…… 度胸があるのか、能天気なのか 」


 エミリアはため息を一つ。 ツンツンと光の頬を突っつくとピクッと反応する。


  ツン 


  ピクッ

 

  ツンツン


  ピクッピクッ


「ぷくくく…… 」


 いちいち反応する光に、エミリアは笑いを堪えながら静かに楽しんでいた。




  ドドドッ ドドドッ


 朝霧の濃い中、翔子を乗せたアヴィは町の近場にある草原を全力で駆け抜ける。


「気持ちいい! スゴいねアヴィ! 」


 ばん馬のような体躯でサラブレッド並みの走りをするアヴィに、翔子はとても興奮していた。


「は、速いって!! 待ってよおねーちゃん! 」


 アルトの扱いに慣れたアリアだったが、追い付いて行けずに途中で断念する。 翔子とアヴィはそのまま草原をぐるっと回り、アリアの元へ引き返してきた。


「おねーちゃんスゴいね! アルトの方が速いはずなのに全然追い付けない! 」


「私がスゴいんじゃなくてアヴィがスゴいのよ。 私はアヴィの動きに合わせただけ 」


 翔子は嬉しそうに笑う。 アヴィも呼吸が乱れていたが、満足そうに尻尾を振ったりその場でくるくると回っていた。  

 

「動きに合わせる? 」


「そう、馬の動きを邪魔しないこと。 (あぶみ)がもう少し高ければアヴィはもっと速く走れるかも 」


 へぇーっとアリアは翔子の騎乗姿勢を真似て腰を上げ下げしている。


「ちょっとはしゃぎ過ぎて遠くまで来ちゃったね…… 戻ろっか。 戻りながら教えてあげるよ、きっとアリアちゃんとアルトも速くなれるよ 」


「ホント!? やったー! 」


 アリアはアルトの首に抱き付いて喜ぶ。 翔子達は徐々に晴れてきた朝霧に、足早に店に戻ることにした。




「お、帰ってきたね 」


 店の前で出迎えたのは、仕事モードに入ったミシェルとローランだった。 倉庫の奥ではエミリアと光が、今日の配送分の木箱を馬車に積み込んでいる。


「ただいま! ねぇ聞いてミシェル! おねーちゃんスゴいんだよ! 」


「おや? ショーコのおっぱいはそんなに大きくはないんだけどねぇ 」


「ミシェルさん! 」


 真っ赤な顔で苦笑いする翔子に、ミシェルはケラケラと気持ちよく笑う。 横ではきょとんとしたアリアが、自分の胸の大きさをポフポフと確かめていた。


「さあ、積み込んだらすぐ出発してもらうよ。 今日は行き先がちょっと多いからね 」


 アリアはアルトを馬車の前に誘導する。


「ショーコ、今日から仕事頼めるかい? 」


 アリアを見習ってアヴィを誘導していた翔子は、アヴィから降りてミシェルに頭を下げた。


「はい! よろしくお願いします! 」

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