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イシュタルの大地へ  作者: コーキ
6章 少女の仕事
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101話

 ファーランド王城が墜落して一週間が経った。


 キール卿の宣言とミナミの後押しもあって、政権は無事ミシェ…… いや、フローラ・フォン・ファーランド王女が受け継ぐことになった。 崩壊した王城は再建する余裕はなく、しばらくの間はマウンベイラタンドールにあるのアベルコ卿の豪邸が仮の王城になるのだそう。 ファーランド王国の物流など、国民の生活に不足が出ないことを最優先に、各領地の有力貴族の備蓄を使って現状を保っているらしい。


 政治に関しては私はさっぱりわからないから、どう手伝えばいいのか…… フローラ王女も書面が苦手なのは相変わらずらしく、今はアーティアさんが王女の側で補佐をしている。





「あれから10年かぁ…… 懐かしいな…… 」


 背中に大怪我を負ったミナミさんはタンドールで手当てを受けた後、彼女の希望でトゥーランのアルベルト卿のお屋敷で療養中だ。 てっきりアルベルト卿が付きっきりになっているかと思ったら、シエスタの領主としての仕事が忙しく領内を飛び回っているらしい。


「傷の具合はどうですか? 」


 ガルーダに乗れる私は、重要文書等を各領地へ届ける空の宅急便の役目をしている。 今日はアルベルト卿宛の届け物を兼ねてミナミさんのお見舞いにトゥーランに来ていた。


「大分楽になったよ。 でも日本と違って医療技術が進んでないから、完治にはまだまだかな。 傷跡も残りそうだし 」


 苦笑いするミナミさんは肩から背中全体を包帯で覆い、うつ伏せでベッドに横になっていた。


「ごめんなさい、私があの時ちゃんと手を取れていれば…… 」


「何言ってるのよ。 君は私をこちらに戻してくれた救世主なんだから。 それにこの傷は私の不注意。 責任感じることないよ 」


「でも…… ミナ…… 南海さんこんなにキレイなのに 」


 目を丸くして私をマジマジと見ていたミナミさんは突然笑い出した。 体を揺すったのが傷に響いたのか、「イタタ……」と眉を寄せる。


「ご、ごめんなさい! あの…… 何かおかしな事言っちゃいました? 」


「あー、いやいや。 お世辞でも嬉しいわ。 翔子ちゃんにとって私はもうオバサンの域に入ってるんじゃないの? 」


「お世辞じゃありません! 全然オバサンじゃありません! ホントにキレイだなって 」


 彼女は三十路手前だと言う。 目や髪は今は赤くないが、切れ長の目や高い鼻、整った顔立ちは美人の一言だ。 髪こそ黒いが、ちょっと日本人離れしてるかも。


「ありがとう。 翔子ちゃんも可愛いよ? 光君が放って置かない訳だ 」


「ふぇ!? 」


 予想しない発言に言葉が詰まる。


「光君は? 一緒じゃないの? 」


「はは…… 光ちゃん、極度の鳥嫌いで…… 」


「そっかぁ。 私は乗って大空飛んでみたいけどなぁ 」


 逃げ出すように私と離れた光ちゃんは今、各領地から派遣された人達に混じって王城の残骸処理に参加している。


「光君で思い出した。 翔子ちゃんのスキルなんだけど、発動条件があるみたいね 」


「条件? 何ですかそれ 」


 スキルに発動条件なんてあるんだろうか? 気合い入れるとか、集中するとか…… あ、私もあの事思い出しちゃった。


「気付いてないの? っていうか今がその状態みたいね 」


「別に光ちゃんが誰とキスしようが関係ありませんし。 あのデレデレした顔が、とにかくムカついただけです。 南海さんだって浮気じゃないんですか? 」


「アル様のこと? もちろん好きよ。 あの時は君の力を引き出すのに、あれが一番効果的だった…… といっておこうかな 」


 ムカッ! ミナミってこういう人だったの? いや、確かにあの時光ちゃんの側にいて安心してたのは否定しないけど、私を焚き付けたいからってディープキスはないんじゃない?


「そうね…… ちょっとやり過ぎたと反省してるわ。 でもそのやきもちパワーが君の本来の力を引き出した、のかもね 」


「やきもちなんて妬いてません! 」


「ウソ言っちゃダメよ? リンクした時にバレてるんだから 」


 ボン! と頭から湯気が出た…… かもしれない。 ミナミさんは小さく笑っていたが、バカにされてる感じはしなかった。


「いいなぁ、初々しくて。 まぁそれはいいとして…… 」


 よくない!


「翔子ちゃんも光君も、日本に戻りたい? 」


「…… 迷ってます。 光ちゃんはどうかわかりませんけど、私はもうあちらに居場所がなくなっちゃいましたから 」


 ミナミさんは寂しげに私をじっと見つめていた。 彼女はあの状態のまま10年も暮らしてたんだっけ……


「そっか。 翔子ちゃんも私と同じなんだね 」


「はい…… あ、でも南海さんのこと、本條さんが心配してましたよ 」


「え!? 」


 ミナミさんは驚いてガバッとベッドから上体を起こした。 が、すぐにヘナヘナとベッドに沈み込む。


「ダメですよ起き上がっちゃ! 」


「まみさん…… 私の事覚えてたんだ…… 」


 ベッドにうずくまるミナミさんの頬に一筋の涙が見えた。


「まみさんには迷惑かけっぱなしだなぁ…… どうしよ…… 」


「…… やっと翔べたんだねって言ってましたよ 」


「そっか…… 」


 止めどなくミナミさんの頬を涙が伝う。 ミナミでも泣くんだ…… と思うのは失礼な事だろうか。 小説の中では伝説的な強さで、涙を見せることなんてないと思ってた。


 そうだよね…… ミナミさんも同じ人間だもん。 

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