表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イシュタルの大地へ  作者: コーキ
1章 主人公になりきれない少女、異世界に立つ
1/159

プロローグ

 ギュッと閉じた瞼を開けたそこには、緑一色の草原が広がっていた。 人の手が入った建物などは一つもなく、そよ風に揺れる草が足首をくすぐる。 雲ひとつない真っ青な空。 緑と青は、パステルカラーで塗り分けされたようにくっきりと境目を作り、それ以外の色は何もない。


「…… え…… 」


 藤井 翔子(ふじい しょうこ)は空を見上げる。 頭上から照りつける、今まで見たことないほど大きな太陽。 日射しは強いが、ジリジリと焼けるような暑さはなく汗ばむことはない。 暑くも寒くもなく、半袖のセーラー服で過ごすにはちょうど良いくらいだ。 時折吹く撫でるようなそよ風が、翔子の肩ほどの真っ直ぐな髪を揺らした。 


「え? 」


 翔子は視線を右へ移した。 正面の景色と変わらない緑の草原と水色の空。 次に左に視線を移すと、草原は緩やかに下り坂になっていて、その先には水平線のように真っ白い雲が広がっていた。 


「…… え? え!? 」


 水平線のように雲が見えるのはおかしい。 翔子は暫くボーッとその水平線を見つめ、恐る恐る後ろを振り返る。 草原は三日月のように弧を描き、その先には枯れ木が目立つ雑木林が広がっていた。 雑木林は奥に行くに従って緑豊かな森林に変わり、その森林の先にはぽっかりと抜け落ちたように湖が佇んでいる。


「…… なに? これ…… 」


 翔子の立っているここは高台らしく、遠くまで見渡すことができた。 正に絵に描いたような綺麗な大自然だが、セーラー服の女子高校生が一人で来る場所ではない。 翔子がおもむろに手元を見ると、両手には一本のほうきとちり取り。 ついさっきまで、翔子は教室の床を掃いていた筈だった。


「…… そうだよね、掃除してたよね? 」


 放課後、罰として一人教室の掃除をしていた翔子。 床のゴミを掃いていた時に、突然辺りが真っ白になるほどの強烈な光に包まれた。 眩しくて目を瞑り、目を開けたらこの草原。 とりあえず現実逃避して、ほうきで草原を掃いてみる。 手に伝わる草を掃く感触やちり取りを握る感触を確かめ、翔子は目をパチパチさせていた。 呆けた顔で辺りをぐるっと見回す。


「あ…… 」


 遠くに霞んで見える山を見て翔子は声を漏らした。 霞む山の手前、湖の直上に浮かんでいるように見える一つの城。 ゴシゴシと目を擦り何度も見返してみるが、その城は大地からお玉で掬われたような、半円の浮遊する岩盤の上に建っていた。 普通なら気が動転してパニックになりそうな風景だが、翔子はあまり慌てずにその異様な景色を見つめる。


「ここ…… 」


 翔子には、この景色に思い当たる節があったのだった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ