第8話
「まずロード家ですが、本家と分家問題が表で浮上していましたが、あれは正確には違います。
前剣聖と一緒に金をじゃぶじゃぶ滝のように使い果たした彼らと、それを止めようとするうちの父との派閥に分かれていたのです。
彼らは無い金を編み出すために次に国に取り入り、そのために自分たちの派閥からどうしても剣聖を出したかったのです。しかし、問題が起こりました。さてなんでしょう?」
いや、なぜにそこで質問なんだ?普通に教えくれよと私は半ばうんざりしながらも、彼に問う。
「なんだ?」
「さてなんでしょう?」
「お前がその顔で二度、同じ質問するのはアレだろ?どうせまた私か?私が剣聖になったからか?」
「はい。正解です」
五分ほど話して分かったが、このラングという男は非情に面倒くさい。
確かに論理的な説明を求めていたが、話を私が本当に理解しているのか逐一確認するためにいちいち質問してくるのが癇に障る。
「君、面倒くさいな。合コンでもそんな質問攻めのやつはもうおらへんで」と魔王がまた絡んでくるが、この時ばかりは激しく同意する。
ラングはそれを無視して再度、話し始める。
「シエラさんがあまりに強すぎたので、彼らは下士官学校で貴方に味方はいないと思わせるために良からぬ噂を立てて、貴方を孤立するようにし、貴方が自分たち以外に頼れぬような状況にするために色々画策していたようですね。
まぁ、それを信じている人間も少なかったようですが」
「いや、だが誰も私に近づいてこなかったぞ?男も女も寄って来なかった」
私の抗議に、ラングはまた今日何度吐いたか分からぬため息を零した。
「それは、貴方が強すぎて純粋に怯えていたのです。彼らの反応はいたって普通です。そりゃあ剣技で魔法を封殺したり、いとも簡単に城を落とすような人は怖いでしょ?」
「さいですか」
「まぁ、その下士官学校の後もミルバさんの頼みで私は何度か貴方をうちの家に来るよう誘ったのですが。それも断られましたし」
「そうだよ。何度も誘ったでしょ?あれで受けてくれてたらシエラちゃんはうちの別荘で悠々自適な生活が待っていたんだよ。でも、全部断られたし………。」
しょぼくれたゼーラの追撃を受けて、私も考え込んでしまう。
確かに、聞けば彼らは私を普通の人間として生きる道を提供するべく、助けようとしてくれていたのだろう。
もしかしたら、あの話を受け入れていれば母の病気もあそこまで悪化しなかったのかもしれない。
しかし、そんなものは今更だ。
もう戻れない話に未練なんてものはない。
「いや、あんな下種の誘いを受ける奴はいないだろう。それに私が断ったらすぐ去っていっただろうが?もうちょっと粘ってくれていれば………」
私の問いかけに、ラングは極めて冷静な返事をする。
「いえ、怖いですし。貴方に脅されればみんな逃げますよ。私、まだ死にたくありませんし」
「今から国に歯向かおうっていう奴の言葉とは思えないな。軟弱者め」
私は額を押さえて、こんなことでいいのかと部屋を見渡すもフィーネと目が合う。
「私もシエラちゃんと戦うなら、国盗りに臨むかな。」
フィーネが遠慮がちに口を開き、それに賛同するように頷くマルクスがいた。
「確かに、お嬢ちゃんと戦ったら肉片一つ残らなそうやな。嫌やわ」
「わしも嫌」
「俺も無理だな。」
「お前たち結託すんの早いな」
酔っ払い相手に話すのもそろそろ疲れてきたが、ようやく話が分かってきた。
レプリカを渡したのも、そうすれば私が泣きついてくるだろうというゼーラの案だったらしい。
彼らはずっと私をロード家から遠ざけるべく動いていたそうだ。
それも、私がレプリカから剣撃を飛ばしたことで失敗に終わったそうだが。
そうしてその後、ロード家は剣聖になった私に入る金を横流し続けて私腹を肥やしていたとか。
結局、私はロード家にいいように使われて、そのままロード家も王も使い勝手の悪くなった私を破棄すべく魔王討伐隊にあてがったわけだ。
あまりに強い力は、彼らにとって脅威になったのだろうとゼーラは言う。それは私の今までの功績を見れば分かる。
今まで私がこなしてきた黄龍の退治やら、国境付近の盗賊団の排除やらはおおよそ一人の人間に任せる仕事ではない。いわゆる戦死させることが目的だったのだろう。
しかし、それもすべてこなしてしまい、こうして最強の剣聖が生まれたのが一番の誤算であるとか。
言いたい放題だ。
こちらはそれを依頼されたからこなしてきたのだし、剣聖として国民のために仕事をしてきたというのに。
すべては彼らの手の上で踊らせていただけのことだったのだ。
涙は出ないが、凄まじい脱力感が体を襲った。
なんとも、やるせないのだ。
私はフィーネに愚痴でも聞いてもらおうと振り向くとそこに彼女はいなかった。
マルクスも消えていた。
聞けば、今から朝まで隣の寝室に二人で寝ると言う。
僧侶が酒に女にと、煩悩にまみれるにも程があるだろう。
私は何だが全てが馬鹿馬鹿しく思えて、遂に酒に手を伸ばした。