第6話
「え?どういうこと?」
私が硬直し、部屋を見渡すと、ラング親子は気を遣ってなのか、手に持っていた麦酒が入ったグラスを静かにテーブルに置いた。
「ん?だからこの国を壊そうかなと」
勇者はまたも同じことを繰り返し、他の者もそれに同意したように言葉を発せず押し黙る。
私だけが部外者のように取り乱していた。
「えっと………意味がわからないんだが?」
「いや、魔王から聞いただろ?」
「いや、ただここに来いと言われて………そうだ!そんなことよりもなんで魔王が生きているんだ!?」
私は魔王を指さして、勇者に問う。
魔王はテーブルに置いてあるオードブルの盛り合わせの中からソーセージを一つ取り、パクリと食べて、「え?なんや?」とこれまた軽い口調で返事をする。
それを見た、ゼーラもあ、飲んでいいんだとすっ呆けた顔で麦酒をぐいっと飲み込んだ。
こちらがこれほど驚き、困惑しているというのにこの態度だからまるで私が間違っているような気になる。
いや、私は正しい。この場面を見て、納得できるものがいるだろうか?
否。そんな奴がいるなら連れてこい。
私は混乱し、「は?」「あ?」とまるでごろつきのような返答をしていると、魔王は説明する気になったのか、グラスを置き、こちらに居直る。
「えっと………ほら。勇者とやり合ってるときになんか勇者からこのラドニアって国が胡散臭いから一緒に壊さへんかって持ちかけられて、それで協力しよかなって。だからそもそもあの時、死んだんやなくて、死んだふりやな。狸寝入り的な?」
「は?」
「おいおい。魔王。その言葉この世界じゃ通じないから」
「お。せやな!はははは」
勇者と魔王は二人して謎の話をして笑い合う。
おかしい。
五年の歳月を共にし、この男を殺すために頑張ってきたのに、今では一緒に酒を囲んで笑い合っている。
意味が分からない。
「つまり、勝手に異世界なんてのに転移されて、右も左も分からない人間に選択肢もなしに魔王を討伐しろと脅す。拒めば、殺してまた新しい勇者を呼ぶっていうこの国に復讐しようかなってな」
勇者はこともなげに今までのことの顛末を告げる。
それに魔王が酒を飲みながら、口をはさむ。
「うわー大変やん。君、向こうでは普通に出世街道乗ってたんやろ?なにやったっけ?ほら、あれ。IT系やろ?」
「そうそう。それで家に帰ってたらいきなりだぜ?やばいだろ?」
「それはご愁傷様。俺も普通に働いてたら、急に前魔王に呼び出さて、そこから君が次の魔王や!て言われて魔王になったんやで?意味わからんやろ?」
「うわー、怠いな。むこうに家族とかいただろ?」
「ああ。それはでも一人暮らしやし、かまへんよ。心残りなんは始めたゲームとか、終わってないアニメとかあって悲しかったわ。俺はもう一生、結末が分からんのやなって」
「ああ。俺もドラマとか、自分がついたプロジェクトもほっぽってここに来たから心残りだ」
彼らはまるで旧友と会ったような雰囲気を出しながら、しみじみと会話を進める。
言っていることが分からないし、勇者がこんなに饒舌に話している姿を見たことがなかったので私は喉まで出かかっていた文句を飲み込んでしまう。
この状況について説明を要しているのは私のみで、他の勇者メンバーも毅然とした態度でこの不思議な夜会にすでに溶け込んでいた。
勇者は昔話に花を咲かせながらも、私が困惑している様子を見て、一旦話を切ると、「すまん、すまん」と手刀で空を切り、話を続ける。
「そうそう。話の続きだったな。えっとここに来たってことはシエラも参加ってことでいいな?」
「ん?えっと………まだ状況が把握しきれていないんだが?」
「そうだな……えっとまぁ、それでこの国が胡散臭いなと思った俺は、ここの国に詳しい人間で俺を手伝ってくれそうな人間を探していたわけだ。
そうしたら、この国に不満を持っている人たちがいたからその人たちに色々裏で根回しをお願いしたわけ。それがそこのロード親子だな」
「そうですね。いや、勇者様に脅されるとは思ってもみませんでした。温厚で優しい方だと聞き及んでおりましたから。まぁ、私共も勇者様も目的は一緒でしたので、そこから協力体制に入りましたが」
ラングは今までのような高慢な態度ではなく、侍女のようにおとなしく、下手にへりくだって話す。
そして、彼の話しているときの表情や、柔らかい物腰はやけに自然に見えた。
私はこの男のこんな姿を見たことがなかったし、見たくもなかった。
いや、彼が本当はこういった礼儀に重きを置いている人間であるのではないかと鑑みる時間も、心の余裕もあの頃の生きるのに精一杯であった私にはなかったのだ。
あの鬼教官もとい剣の師範であるミルバがラングにも心を許し、稽古をしているのを不思議に思っていたあの時の私が馬鹿に思えてくる。
今では勇者が前のラングのような高慢な話し方で、ラングが勇者のような丁寧な話し方なので入れ替わっていると言われても私は信じてしまうだろう。