最終話
王は王城の隠し通路を抜け、市街地の裏路地にでたところで何者かに暗殺されていたようだ。
王城についても詳しいラングとゼーラが先に待ち伏せして殺したのだろう。
第一王女は未だ発見されていない。彼女はラングたちの猛攻を掻い潜り、他国へと逃げ果せたらしい。
そういった情報が私の耳に入るころにはもう次の新王が王座へと深く腰を下ろしていち。
魔王は地下の牢獄での出来事を赤裸々に語った後、この国に長居するつもりはないようで、看守長ステイル・ボールと共に魔王城へと帰っていった。
第三皇女が魔王城に同行したのは謎であったが。
逃げたフィーネとマルクスは市街地の宿屋で待っていたようだ。おおかた予想はつくが、やはりそういうことであった。
剣聖の一族であるロード家と王国とのつながりも前王が死んだことで、すべて断ち切られた。
ロード家の本家の人間は喧しく抗議していたが、私とラングが結託している旨を聞くと、途端に口をつぐんだ。そうしてゼーラが家長となるのにもあまり時間はかからなかったようだ。
彼はあまりそういった指揮をするタイプの人間ではなく、老後は国の南端に位置する島で奥さんと優雅な暮らしをと考えていたそうだが、その夢はいともたやすく潰えた。
彼の妻。所謂、ラングの母親は一度お目にしたが二人とは全く似ておらず、穏やかな雰囲気の女性で彼女を前にして笑うラングとゼーラの顔は酷似していた。
そうして、勇者が根をはった他国の協力もあって国の再建にはあまり時間はかからなかった。
しかし前よりも目に見えて豊かになったのは確かだ。
私が知らなかった地方の国民も賑わいを見せ、勇者は満足そうに己の職務を全うした。
勇者の自分の仕事がすべて終わると、彼は思い出したかのように言った。
「よし、明日から旅に行こう」
「え?」
「いや、用意はしていたんだ。もちろん、シエラも来るよな?」
「ああ。もうお前のそういうところには慣れた。それより結婚式はいつにするんだ?」
「ならば、それも明日にしよう」
「もう勝手にしてくれ」
私は適当な返事をしかぶりを振るう。
彼はにやけた面で意思を伝達する魔法を用いて魔王に連絡をとっていた。
そうして、国の端にある田舎町に住んでいるフィーネたちにも連絡を取ると、知人だけの小さな結婚式を挙げた。
20人ほどの小さな結婚式にはゼーラ、ラングも来ており、ラングの息子も来ていた。
結婚式は司会をラングが行ったことから、粛々と行われ、終わると式後のパーティーに主役である私たちの姿はない。
私と勇者はお互いの薬指に指輪を光らせ、すぐさま旅に出たのだ。
急いで行くことに意味はあるのか?パーティーくらい出ろよ?主役だろ?と野次が飛んできたが、勇者はにこやかに「それは、あんたらにくれてやるよ」と言い放った。
その先に何があるのかは分からないが、これからの旅はあの頃の魔王討伐の旅のような無機質な旅ではない。
どこか高揚感が沸き立つ、胸踊る旅である。
隣にいるこの人の夢を追う旅。
私は私の夢を見て、彼に随行する。
「後悔しないか?」
「馬鹿じゃないのか?それなら行かない」
「それもそうだな」
彼がまた嫌らしい笑みを浮かべたので、それを見た私も思わず笑みが零れる。
まずは結婚を控える魔王のもとに向かおう。
魔王は転移魔法で先に魔王城にいるだろうが私たちはゆっくりと色んな国を見て回る。
のらりくらりと旅をして、彼が帰る方法を探すのだ。
勿論、私は彼の故郷にも付いて行くつもりだし、彼もそのつもりだ。
私達がこれから先、離れることは二度とないだろう。
勇者は「さぁ。行こうか」と少年のように目を輝かせ、私は苦笑しながらもそれに付いて行く。
あの時と同じだ。
私は勇者に恋をしたのだ。




