表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
弱気な剣聖と強気な勇者  作者: 中町 プー
17/19

第14話

勇者がジッとこちらを見つめる中、私は彼が求める答えを未だに探していた。


自分の心に嘘をついて、彼の求める答えを提示してやればこのこじれた争いも解決できるかもしれない。


しかし、それは自分が今、握り締めている拳を見れば吹き飛んだ。


今も昔も変わりなく私は力を求めていた。


母を守れる力を。


自分を守れる力を。


勇者を守れる力を。


そして、自分の意志を守れる力を。


そうして、彼の計画に乗らずに、敵として彼の前に立っている。その理由を考えていた。深く考えていた。


しかし、答えは出ない。結局、単なる我儘であったと言えばそうだし、自分のことを分かってもらえないと癇癪を起したに過ぎない。


それを否定する気もない。


がしかし、この男はここまで手を抜いて闘い、未だ、理由を話さない女性に対して、先のことを聞き返したり、論点をずらしたり。なんなのだろう。


いや、もちろん分かっている。こちらの我儘に彼を付き合わせていることは百も承知である。


しかし、あまりにニブくないだろうか?


ここまで明確ではないにしても、部屋に来るは、話をしようと待っているはとこちらから動いているつもりではいた。


確かに私は剣聖という所謂、戦闘狂みたいな部分もあるが、ここまであからさまな態度を見せているのだ。分からないものかね?


魔王ですら見抜いていたというのに、この男はすっ呆けた顔で将来だの、生き方などをくどくど説いてくる。


あー考えるたびにすべてが面倒になる。


ここまで二日も悩みに悩みぬいた頭がパンクしそうになり、落ち込み、自分から招いたこの散々たる結果を前にしてどうでも良くなってくる。

私は最後の手段に出ていた。


私は目の前の丸腰の男を蹴り飛ばしていた。


「え?………ウグッ!!」


勇者は呻き声とともに後方へと飛んでいく。


「なんだ!?」


「生き方だの。自由意志だの面倒だ。………かかってこい勇者。雌雄を決する時だ。その面倒な性格を叩き折ってやる!!」


「は?」


私は未だ放心状態の勇者に突っ込んでいく。勇者は慌てたように、魔法を唱えるが、すべてを蹴散らす。


魔法が発動した瞬間、からすべてが塵となる。

剣など要らぬのだ。この拳一つでなんだって壊してやるさ。


闘いとは無情なものなのだ。死ぬか生きるか?ああいいだろう。もうそこまで行っても分かり合えないならば、一度、行くところまで行ってやるさ。


「歯を食いしばれ!!!」


私は勇者の腹部めがけて拳を突き上げる。勇者は寸でのところで飛び上がり威力を半減させる。

しかしやはり痛いのか苦悶の表情を浮かべている。そこに、またしても手刀を突き刺す。


「えっと………ゲホッなんなんだ。何を怒っているんだ!?」


勇者はこちらの突きを捌きながらも、声を張り上げる。


「何がだと?私が昨夜、なんと言ったか思い出せないだろ!?お前にとっては駒の一つだものな!?」


「は!?………えっと初めて会った時に言ったことか!?」


「そうだ!お前が初めて私に投げかけた言葉だ!!言ってみろ!!」


彼が捌いた拳が石床に突き刺さる。それを引き抜き、再度、彼に拳を走らせる。


「考えたんだが。別に普通のことしか言ってないだろ!?綺麗だって!!それだけだ!!怒るほどのことなのか!?」


私は拳を緩めない。なんだ覚えていたのかと安堵する気持ちはあれど、もう止まらない。


また、彼の足にローキックがさく裂する。


「違う!!そこじゃないだろ!?お前は本当に分からず屋だ!!私が怒っているのはお前のそういうところだ!!」


「はぁ!?意味が分からん!!」


勝手な言い分であり、勝手な暴力だと分かっている。しかし、私はこういう生き方しかしてこなかったのだ。


勇者は訳も分からず、殴られていることに怒りも溜まったようでこちらの腕を掴むと後方に放り投げる。


私は受け身を取り、態勢を立て直すと彼に肉薄し再度、蹴りをお見舞いする。


「まだ分からないのか!?この男は!!私はお前が好きだから。だからこんなことになりたくなかったというのに!!」


「え………」


勇者のこめかみに拳が勢いよく入る。勇者はそれを受け止めて痛みも忘れたように突っ立ったままこちらを見ていた。


「えっと………そういうこと?」


私は放心状態の勇者に蹴りを打ち出したが、彼は私の蹴りを止めると私の瞳を見つめた。


「計画に反対とかそういうことじゃなくて………照れ隠し的な?」


「うるさい!!この手を離せ!!その鼻の下を伸ばしただらしない顔に拳を叩きこんでやる!!」


私がじたばたもがき、彼のこめかみ目掛けてもう一度、拳を突く。

しかし止められてしまう。そうして、彼は平然と言葉を発する。


「えっと………俺も。シエラのこと好きだよ?」


「は?」


私は勇者に足を掴まれたまま、固まった。勇者も固まったままこちらを見ていた。


「だから、前から好きだったよ」


「その場のしのぎのために私を謀るのか!?」


「いやいや。本当に。じゃないとこんなこと言わないだろ」


勇者は私の足を離す。そして、こちらに視線を合わすとそのまま地面に倒れてしまった。

私の猛攻は彼の体を想像以上に蝕んでいたようだ。


彼はもう体力がないのだろう。ため息ともに、なんとも吹っ切れたような顔でこちらを見る。


「なんだ……てっきり計画に反対で王への忠誠心。もしくは、そういう生き方こそが剣聖の本分だからだと思っていた。原因は俺かよ。なんか悩んでいたのが馬鹿らしくなるな」


「何が馬鹿らしいだ。こっちは死ぬほど悩んで誘いを蹴ったのに」


「そうだ。ならなんで乗らなかったんだ?」


勇者は体を動かさず、小首をかしげる。


「だって………それは。見限られたと思ったから。私だけ蚊帳の外で、選択肢を迫られて。私は必要ないみたいだったから………」


思わず尻すぼみする言葉に勇者はまたもや安堵の溜息を漏らした。


「そうか。それは悪かった。本当にシエラの自由を意思を尊重したかったんだ。俺の考えをただ押し付けるようなことはしたくなかった」


私は勇者の顔を見ない。ただ、地面に寝そべる彼の隣に座り込んで、下を向いていた。


「私は押し付けてほしかった。そうしてお前に必要だと言って欲しかったんだ」


なんだやはり簡単なことだった。意地を張らずに素直に言えば良かったのだ。


しかし、全てが不明瞭だったあの時の自分にそんな余裕は無かった。

ラングや魔王が突拍子もない告白を始めたことや、勇者の本性を急に聞かされ戸惑わない訳がない。

だから、せめて貴方には私を引っ張って欲しかった。

過去を否定され、生き方が分からなくなった私に道を教えて欲しかったのだ。


「そうか………」


勇者は返事をすると深く息を吸った。そして、静かに吐き出すと、無理やり体を起き上がらせて、こちらに居直る。


「………シエラ。俺さ。これからこの世界を回ってみようと思うんだ」


「なんだ藪から棒に?」


「多分、この国にはもう帰ってこない。この異世界を見て回って、元の世界に戻る方法を探したいんだ」


「そうか………そうだな。お前はもともとこちらの人間ではないしな」


そうだ。それは彼も元居た世界に帰りたいはずである。その方法を探したいに決まっている。

それは忘れようとしていたことだ。

彼には彼の人生がある。私はその言葉を聞いて、諦めをつけようと目を閉じた。

しかし、その時、勇者が言う。


「ああ。それで………出来たらシエラにもその旅についてきてほしい」


「は?」


「これが最後の誘いだぞ?」


「えっと。なんで私なんだ?自己中だぞ私は?酷く暴力的だし、不器用なんだぞ?」


「知ってる。でもシエラと一緒にいたいんだ。二人で旅に行かないか?…………これは断るなよ?昨夜だって断られて傷ついたんだぞ?」


勇者はこちらに起き上がると、私の目を見つめて言った。

なんとも身勝手な誘いである。しかし、昨日とは違う。何かが決定的に違って見えた。


「えっと………はい。よろしくお願いします。勇者」


そう思えば、彼の誘いに二つ返事で了解した。


私は先ほどまで爆発しそうなほど熱くなって心が、スーッと冷めて、何故か宙に浮いたような気持ちになる。

夢心地のような、澄んだ気持ちになった。


「違う。俺はカズヨシだ。俺の名は市川 一義っていうんだ」


「………えっと、分かった。よろしくカズヨシ……えっ?ちょっと!?」


カズヨシは私が手を出し握手を求めると、そのまま私の体を抱きしめた。


その時、彼から私の顔は見えない。

多分、相当気の抜けた、緩んだ顔をしていただろう。

しかし、それをカズヨシに見せたくない私は腕に力を入れて、カズヨシの体を強く抱きしめ返した。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ