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弱気な剣聖と強気な勇者  作者: 中町 プー
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第11話

一夜開けた、次の日の朝。


私は一睡もせずに、王の間へと赴いた。


眠れなかった理由は言うまでもなく、昨夜の勇者との一件のせいだ。


祝賀会とは違い、今回は報奨金、賞の授与などがあるためだろうか。勇者パーティーは王の間へと集められた。


これから授賞式が始まる。そして、彼らの計画が遂行される。


私は腰に差した剣を確認した。これはレプリカではない。もちろん本物の龍剣でもない。下士官学校で生徒が振るう、練習用の剣だ。


しかしながら、昨日の夜に借りに行き、一度振るえば模造品との違いに驚いた。それと同時に,いまから戦が始まるのかと胸躍る気持ちに私の心は掌握された。

_


人に恋しようが、私は剣聖なのだなと自覚した。


そうして、勇者パーティーが続々と集まるなか、最後に勇者が現れた。

その恰好は魔王討伐の時と同じく、最高級の甲冑に身を包まれ、腰に彼の愛用するエルフの剣を差していた。

そして、私の顔を見ると、極めて冷静に会釈した。


私も勇者パーティーに会釈を返すと、何故かフィーネは笑みを漏らした。


そして、こちらに近寄り耳打ちする。


「ま、私はなんとなくこうなるかなって思ってた」


彼女はそれで満足したようで、私の返事を待たずに私の隣に並んだ。

勇者、私、フィーネ、マルクスが王の間の中央に横一列に並ぶと、ファンファーレとともに豪華な衣装に身を包まれた王が王の間の中央最奥に位置する王座に座する。


王が顔を見せたことで、私たちは各々、顔を地面にむけ、膝を地につけた。


王の隣には第一皇女と第三皇女がいた。第二皇女は隣国であるスタッドパレス共和国に嫁いだ身であり、彼女はスタッドパレス共和国の急な帰還要請で今日の早朝には帰ったようだ。


そう、門番たちが噂話をしているのを聞いた。


しかし、これが勇者の仕業であることは明白である。


豪勢なドレスを着た女性二人の隣には大臣、宰相、大司教といった人間が位の高い順に並んでいた。


その他の貴族は王の間の扉の前に整列し、王宮勤めの人間たちはその傍らに並んだ。


楽器隊はファンファーレを拭き終えるとすぐに壁際に控えた。その中で一人の男の目が妙に光っているように思えて、私は腰の剣を揺らし再度、気持ちを引き締めた。


そうして私は時がくるのを待った。


何も知らぬ王が祝辞を述べているところ、ただ待っていたのだ。


祝辞が終わり、皆が一息つき、次に待ち構える授与式に移ろうとしていた。

王の側近の男が恭しく礼をし、式典を進めていく。


王が自分の顎鬚をなでおろし、宰相が小さく咳き込んだその時、彼の喉に短刀が生えた。


それが合図だったのだ。


宰相の首から大量の血が噴き出しもがき苦しむと彼が床に倒れこむよりも早く、楽器隊の中にいた青年が楽器を捨てて、こちらに躍り出た。


それと同時に王の間の扉が勢いよく開かれ、魔族が何十人と入り込んできた。


その光景に恐れおののいた大臣や大司教は、一瞬硬直したが、己の本分を思い出したのか、王宮に轟くほどの声を張り上げる。


「魔族だ~!!魔族だ~!!殺せ!!」


魔法により空気を振動させたのだろう。私は慣れていたが、王の間にいた貴族やら、王宮の人間は耳を押さえて、床に這いつくばる。


大臣の声を聞いた城の兵士が、わらわらと蟻のようにドアから出てくる。


魔族は即座に、兵士に対して戦闘を開始した。

私以外の勇者一行もそれに加わり、城の兵士を攻撃する。

私は形だけでも王の護衛のため、王の近くに寄った。


王は相当狼狽えているように見え、口元の髭が彼の体の揺れに比して振れていた。


「どういうことだ。勇者たちが何故兵士を攻撃している!?なぜだ!?それに魔族まで?あいつらは魔王を失ったのではないのか?」と、彼の言葉が発せられるたびに顎の贅肉が震えた。


貴方の国を守ろうとする人間がバッタバッタと勇者や魔族に斬り殺されている中、この狼狽えよう。

なんと脆弱な人間なのだろうか。


見かねた私は彼に状況を説明する。


「彼らがその逆賊ということではないですか?」


私の言葉を聞いているのか分からないが王はいまだ慌てているようで、いつの間にやら王の周りを囲う屈強な兵士に司令を出す。


「やつらを殺せ!!勇者もまとめて殺すのだ!!」


彼がそう兵士に命令するころには、王の間は血の海と化しており、援軍は皆、勇者一行に殺された後であった。


私は王の命で彼の傍に姫と共に立ち、勇者一行と王の直属の護衛騎士団との戦いを静観した。


護衛騎士団長ルグニアは、この国随一の槍の使い手である。

しかしながら、やはり勇者の剣技はそれを遥かに上回り、彼は苦悶の表情を浮かべながらも応戦する。


その内、伝令兵より、地下にも侵入者がいるとの情報を聞き、第三皇女が援軍へと向かう。


そもそも皇女たちに戦闘能力があることも驚きだが、その戦の最前線に彼女らを送りこむ王の判断にも疑問を覚える。しかし、私は黙ってこの状況を見ることにした。


それから五分も経たぬうちに護衛騎士団が劣勢に陥った。

王の命により、私は彼らの逃亡に随行した。


その間も、後ろで鳴り響く戦いの音に私は後ろめたさを感じながらも、王を先に行かせて、王宮からの隠し通路の最後の部屋で勇者を待つことにした。


ここで彼と戦い己の真意を問う為である。

これは所謂、ワガママというものかもしれない。






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